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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第二章◆
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41話 再び砂漠へ

俺たちは夕方まで、大蜥蜴との戦いで消耗した体力と加護をアルマトゥイの宿屋で回復させてもらい、夜には再度授業に戻るかどうかを確認された。目標のバルハシ湖到達までに使える日数が1日短くなってしまったが、俺たちは全員途中からではなく、またアルマトゥイからの再開を希望した。だが、再開を希望するのはもう一人いた。


「おいらも行かせてくれ! 賢者様たちに付いて行くべ!」


「これだけの目に遭っても挑戦するのか?」


命を落としたクレストの弔いはダイムーに帰ってからということで、彼の体は冷却加護によって凍らされていた。彼と同じ組だった重症のはずの残り3人のうち、1人だけ再開を希望していた。一緒にこの授業へ付き添っていたトスカン=シンク校長が最後の確認をすると、強い目の光をしたその生徒は意思固く頷いた。すぐに校長は俺たちに向き直る。


「見てしまった残り2人についてはワシが対処しておきましょう。その生徒とは行きすがら話をしてください」


太陽王の力を見てしまった3人については、これから対処しなければならない。1人は俺たちに同行することになるので、砂漠の道なき道を歩きながら、この件を黙っておいてもらう話をしようということだ。


「分かりました、校長。ではそちらの2人についてはお願いいたします」


「任せてくだされ」


その会話をしている間も各組から風伝が入り、水源地へ到着して休憩を取るという連絡や、これから夜通し歩くという報告が入っていた。幸いにして魔獣に遭遇したという連絡は無いようだった。無事を確認して第一高校で貸切にしていた宿屋を後にし、街の北門へ向かう。


あの大蜥蜴はこの街にとっては数十年に一度の大事件だったらしく、朝には町民が大騒ぎして街中に警報まで鳴らして魔獣の情報を得ようとしていたが、既に倒されたということが分かった者から家に戻っていったと校長は言っていた。既に夜となり、街をうろつく者は酒場から帰る途中の酔っ払いぐらいしかいない。


大蜥蜴の遺骸は町長のところへ運んでおいたので、あとは処理しておいてくれるということだった。12キロという虹色水晶の重さを聞いたのは宿屋で一度寝て起きた後だったが、ミュー以外は全員あの強さならその重さだろうと納得していた。






「さて、もう一度行こうか」


ゼルイドが静かな声で暗い砂漠へ向かって声を発する。


俺たち木星団の5人とゼルイド、そして別組の生徒1人が再び、アルマトゥイの街の北門に立ち、小石と砂にまみれた道を歩き出す。だがすぐに道はなくなり、砂利道なのか砂地なのか分からないような、草も疎らな土地を黙々と、まっすぐ北極星のヴェガルを目印に歩き続ける。


北極星は年々移動していることが最近発見された。12000年後にはフォラリスが北極星になっているという。今は琴座のヴェガルが北極星だし、とても明るい星なので見たらすぐに方角が分かるのだから便利だ。


「賢者様。朝の事について、おいらにも教えてくれ。おいらの名前はクマソ。ヤタミノクマソ、こっちの呼び方ではクマソ=ヤタミノだべ。ヤマタイから第一高校に来とる」


俺からではなくユリカをご使命だ。知名度からすればユリカの方があるし、説得力もあるだろうからと、話を任せるつもりで俺はユリカに目で促した。


「ん。じゃあ私が説明するね。えーと。話せば長くなるんだけど・・・そこにいる私の執事カケルは、実は逆に私の主人なの」


「? それがどう、4属性使えることと関係するんだべ?」


4属性使えることは、というその先がまだクマソには分かっていないようだった。


「特級騎士、タケル=ヤマト、ヤマタイの言い方ではヤマトタケルノカミの11年前の事件は知っていますか?」


親父、そして俺もなのだがヤマタイ王族のヤマト姓を持つ者は、名前の最後にカミを付けて呼ばれていた。神様という意味ではなく上の者という意味だ。


「ああ! おいらもよく覚えてるべ。特級騎士だったから憧れだったなあ。俺も同じヤマタイの男だったらあんな風になんべやと思って、俺もやっと五級騎士になったんだべ」


「ここにいるカケルは、名前はカケル=ヤマト。ヤマトタケルノカミの長男です。つまりヤマトカケルノカミです」


「うわあ! 上様とは知らずに失礼したべ!」


突然土下座してしまったクマソを、みんなで苦笑して立ち上がらせたが恐縮してしまったようだ。





「俺には別に頭を下げなくていいんだ。ユリカの執事のふりをしているんでね」


その言葉にクマソは混乱しているようだったが、とりあえず畏まらなくて良いということだけは伝わり、またみんなで歩き出した。


「じゃ、ユリカ。そのまま説明を」


「は、はいっ! えっとね、ヤマトタケルノカミはあの事件で、どうやら何者かに殺されたようなんです」


「ええ!? 上様を殺したやつがいたんだべか!? あんな強かったお方を殺せるもんなのか!?」


「どうやら、魔獣を人工的に作り出して暗殺したんじゃないかという推測なんだけどね。そのときヤマトタケルノカミに同行して、唯一生き残ったのが私の父、サノクラ=カノミです」


「そうだ、賢者様はカノミ物流社の副社長のお嬢様だったんだべ?」


クマソは訛りが少しあって、会話の意味が聞いているのか確認しているのかがよく分からない。ヤマタイの西側の方の訛りだな。


「それで、カケルは14歳のときに謎の発光体、おそらく加護の本流に出会って、4色の加護を発現させていたのよ。つまり」


「つまり?」


これでもまだ分かっていないのは、太陽王のことをよく知らないのだろう。


「ヤマトカケルノカミが太陽王だったのよ」


「な!? これは! おいら何も知らずに失礼をば!!」


俺はまたしても土下座するクマソの手を取って、今度はみんなで笑いながらクマソの背中を叩いて立ち上がらせた。


「でもヤマトタケルノカミが暗殺されたのは、太陽王の資質を持つ者が暗殺されたとも受け取れたのね。だから、すぐに太陽王の身分を公表すると、カケルの命が危険だからこんな風に隠しているの」


やっとクマソは自分の目で見たことの意味が分かり、納得しているようだった。





「それであんな、見たことも聞いたことも無い詠唱を使えたんだべ? でも執事のふりを続けさせるのは悪い気がすんべ」


「だけどカケルは急に王様みたいになるのもどうかと思ってるみたいだから、これでいいんだって! だからクマソ君も普段どおりにしていてほしいの!」


「カケルノカミ様、おいらも付いてきて本当に良かったんだべか?」


「これからはカケルと呼んでくれ。いいよ、クマソみたいな真面目な騎士だったら歓迎だよ」


「カケルノカミ様! あいや、カケル、でいいのか。おいらを騎士団に入れておくれ! 俺もタケルノカミ様みたいな騎士になりたいんだ!」


「みんなはどうだ? 俺はいいと思う・・・と、全員賛成みたいだな」


黙って話を聞いていたゼルイドまで一緒になって笑顔で頷いている。みんなの笑顔を見ていると、俺も心から楽しくなってくる。だがゼルイドが口を開くと全員の表情が変わった。


「ついでに俺も木星団の引率として付いて行きたいものだが! 下僕としてでいいので付いて行っても? うちのかみさんにはあとで言っておけば大丈夫だろう」


このゼルイドの提案にはさすがにみんな驚いていた。現役の職業騎士が見習いに付いていくというのは前代未聞だ。


「騎士たるもの、夢は追いたいものだ! なあ、いいだろう? 星間飛行には慣れた者が必要なはずだ!」


「私は是非是非ー!」


ユリカが賛同すると、全員賛同していく。残るはアルケイオスだけだ。黙って前方の暗い砂漠を見て歩き続けている。


「ゼルイド先生、火星への飛行経験はどのくらいあるのですか?」


「毎年10回は虹色水晶を探しに行ってたな!」


「・・・決まりですね。これは心強い味方です。是非よろしくお願いします」


アルもやっとニヤリと笑う。クマソとゼルイドが加入し、これで木星団は7人の大所帯、いやトレノを含めて8人となったのだった。


「あ、見えたよ~」


話しながらも道を間違えずに進んでいたことがわかった。俺たちの前方に、やっと休憩のための水源地が現れたことをミューが発見した。

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