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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第二章◆
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40話 殉職の戦士

「うう・・・」


「おい! 何があった!? そっちは!?」


「・・・だめだ、クレスト君はもう・・・」


「蘇生加護だ!」


「は、はいっ! 闇の精霊よ・・・!」


「こっちの人たちは私に任せて! まだ息がある!」


明け方、小高い丘を越えたところで突如現れた目の前の惨劇に、俺たちは即座に行動した。ゼルイドは周囲を窺って惨劇の元凶を見極めようとしていた。おそらく魔獣が現れたのだ。


監視役の講師の胸には二つの星が描かれた金属板がついていたが、二級騎士でも対処できないほどの魔獣が現れたということなのだろう。


俺の指示を受けてすぐに動いたユリカは、既に事切れていた生徒に闇の蘇生加護を施すも、クレストと呼ばれていたその生徒は二度と目を開けることが無かった。講師は傷ついた左足を押さえながら悔しさを拳に固めて大地へ振り落としていた。


その他の3人はミューの回復加護で意識を取り戻したので、最悪の生徒全滅という事態は避けられた。


「アル! すぐに物理障壁を張ってくれ! マスタ、けが人の体を温めてくれ!」


緊急事態には統制を取れる者が統制をするべきだ。俺は執事の真似事などせずに自分たちの命を優先し、なりふり構わずに全員へ指示を出していた。


「・・・敵の爪を防ぐ壁を顕わし給え!」


直径20メートルはあろうかという大きな障壁が俺たちを包み込んだ。これで少々の攻撃は耐えられるだろう。マスタも回復した生徒たちを柔らかな炎で温めていた。





蜥蜴とかげだ・・・蜥蜴の魔獣が出た。おそらく10キロ級だ」


怪我が最も軽い講師に聞くと、どうやら普通は歴戦の一級騎士団が対処すべき魔獣が、このあたりに潜んでいたようだ。


「あいつは地面から出てきた」


それを聞いてアルがすぐに別の詠唱を始めた。つまりこの砂礫の下から飛び出してくるということだ。姿が目に見えない理由が分かった。


「カケル! そいつの加護が見えるか!?」


マスタが俺に、地面の下にいるであろう魔獣の加護を探ってもらおうと提案するのは、マスタがやっても見えないからなのだろう。


「よし、やってみよう」


加護流を静かに体へ流し、地面の下を探る。


「だめだ、見えない。君達、これから見ることを口外しないように」


冷たい砂の上に横たわりながら震える3人にそう告げて、俺は自分の心の枷をはずす。途端に俺の体から激しい4色の加護流が噴き出した。


これなら見えるはずだ、と思った直後、深い大地の底から高速接近する加護流が見えた。


「真下だ! 来るぞ! 全員集まってミューは回復待機! 他全員攻撃態勢、詠唱開始!」


ゼルイドも含めて応と全員が声を出し、それぞれが攻撃詠唱を開始していた。






でかい。なんだこれは、もう蜥蜴ではない。古代の骨竜のようではないか。確かに10キロ級と思しき魔獣の大きさで、高さは5メートルほどもあった。この砂漠にまだ10キロもの大きさの虹色水晶の塊が埋もれていたのだ。


砂礫の中から煙を上げて飛び出してきた大蜥蜴は、並みの騎士なら即死するような尾の打撃を俺たちに向かって放ってくるが、俺は大地の加護で砂礫を盛り上げて固め、その強烈な打撃を防いだ。直後、全員準備していた詠唱を大蜥蜴に向かって放つ。


しかしそれらはまったく意味が無かった。敏捷すぎる動きは加護で捉えきれないのだ。


「足を狙え! 動きを止めてとどめを!」


「おう! 火弾をやってみるさ!」


「アルはけが人を手厚く障壁で守ってくれ!」


「任せてくれ!」


本当はこちらも動き回りながら対処したいのだが、3人ほど重傷者がいて動けないのだ。アルが強力な障壁を張ってくれなければ完全に身動きが取れなくなって俺たちまで全滅するかもしれないところだった。


「よし、動けるぞカケル!」


「さあここから反撃だね!」


マスタは例の同時詠唱を会得したらしく、両手から無詠唱で火の塊、いや火の光線と呼んでも良いものを大蜥蜴へ放って動きを制限している。


大蜥蜴もすばやく避けるので少し尾にかする程度だった。ゼルイドは地の加護で加護矢をいくつも作って大蜥蜴を転ばせたりしながらマスタの援護をしていたので、次第に尾が欠けてきており大蜥蜴の攻撃手段は一つ潰すことができた。


「ユリカ、次元扉を3つ同時に作って敵へ高速でぶつけることはできるか!? 転送先は闇の中でいい!」


「2つなら!」


「たのむ! 俺が足を止めるから頭部周辺にぶちかましてくれ!」


「しゃー!!!  ・・・だああ! あぶなー!」


うん、荒々しいユリカがそれを成功させたら随分有利になるだろう。だがこちらも動き回りながら詠唱をしなければならない。激しい爪と牙の攻撃が、一振りごとに俺たちの命を削ろうと襲ってくる。それを避けたりしていると詠唱の意識が吹き飛んでしまうのでやり直しだ。


「全員、少し離れて詠唱しろ!」


「あいさー!」


ユリカは大蜥蜴が跳ね回っているところから後ずさって、落ち着いて詠唱を始めた。





全員はなれたところで、俺も複数の加護を有効活用させたことは今までに無いが、以前から考えていた五色詠唱をこの場で試さなければならないだろう。ユリカの無茶苦茶な詠唱を聞いて思いついた俺なりの詠唱だ。


「火よ、水よ、風よ、地よ、光よ。その力の本流を見せよ。一つの力を顕わせ! 十の矢となって降り注げ! 十之光矢を!!」


今までの詠唱のやり方を越えた枠組みで、九次詠唱を大蜥蜴に放つ。加護の仮の姿である精霊に物事を頼むのではなく、本流から引き出したのだ。


アルが作った物理障壁に執心して動かない怪我人を襲おうとしていた大蜥蜴は、淡い紫の空から突き刺さるいくつもの色の矢に貫かれ、足を止めていた。


「助かったぞ! 念のため障壁を追加する!」


「頼むアル! ユリカ、とどめだ!」


「しゃー! 消えろおおおお!」


アルが再度作った障壁は壊せないことが分かったのか、手傷を負ってあまり動けなくなっていた大蜥蜴はユリカの方を向き直って口元に赤い光を集めだした。しまった、ユリカが危険だ。


「火よ、水よ、風よ、地よ、光よ。その力の本流を見せよ。一つの力を顕わせ! あらゆる攻撃を受け止めよ!! 光之防壁を!!」


俺はすぐにユリカの側につき、もう一つ考えていた五色詠唱をユリカの前に張る。大蜥蜴が口元から火の加護を吐き出すのと同時だったが、ぎりぎり間に合っていた。


火の赤い光は、俺が作り出した白い防壁に包まれ消し飛んだ。あとはとどめだ。


「いっけー!」


ユリカの加護が、力を出しつくして呆然としていた大蜥蜴の頭部を消し飛ばし、初めての魔獣戦はやっと勝利を迎えた。





死者が出たため残念ながら襲われた組は授業中止となった。俺たちの組も魔獣戦で加護を使い果たして気を失いそうになっていたため一緒に授業中止の憂き目に遭った。


他の組はそのまま続行となったが、中止となった2つの組はアルマトゥイに飛空船で運ばれて、怪我を負った者はそこで治療することになった。


死んだ魔獣の体内からは、なんと12キログラムにもなる重さの虹色水晶が手に入った。やっと親父やサノクラ師範が倒してきたような敵を、俺たちも倒せるようになったのだ。しかし初戦でこれはずいぶんときつい。


普通、この辺では1キロ級から3キロ級の魔獣しか現れないはずなのだが、町の医者の話では何十年かに一度は10キロ級も現れるのだという。ただ、砂漠からなかなか町へ出てこないし、滅多に現れないので無視できるぐらいだという。


亡くなった生徒の亡骸の前で、仲間だった男たちが泣き崩れながら謝っていた。だがクレストという名だったその亡骸は、誇りに満ちた笑顔で静かに瞳を閉じていた。五級とは言え騎士として殉職した訳だ。その覚悟はできていたのだろう。


それでも、俺たちには強い悔しさが残った。蘇生加護がありながら蘇生できなかったユリカはさらに悔しかっただろう、彼らの背中に顔を向け、ぽろぽろと涙を流しながらずっと拳を握り締めて立っていた。

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