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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第一章◆
33/86

31話 作戦会議

 ダイムーでは日曜日が休みだ。地曜、水曜、火曜、風曜は高校での授業があり、日曜は高校も一般企業も同様に休みとなる。一週間は5日で、ひと月はだいたい6週間だ。


 白曜日、黒曜日と星曜日を足して8日にする案も200年ほど前に国政議会へ出されたが、国民は5日で一週間ということに慣れているので結局変わらなかった。特に反発が大きかったのは休みの数が変わってしまうからだ。星曜日と日曜日を続けて休みにすると、今度は休みが多くなりすぎてしまう。休みは5日にいっぺんぐらいが良いという風潮があって、結局八曜案は棄却された。


 高校の授業が始まってから2回目の日曜日、研究団はユリカ家へ集まり朝から作戦会議を開いた。議題が多すぎたので一応朝から開始、途中で食事を取ることも考慮に入れてあるのだ。


 マスタはシルベスタ爺様を連れてくるから少し遅れると風伝に連絡があったので、マスタ以外の面子でもできる議題から始めておく。


「はい、では始めましょー! よろしくお願いします!」


「「「よろしくお願いします」」」


 俺たちにお茶を出しているトレノを見て、アルとミューはこれが例のお手伝いさんかと頷いている。太陽王のことや渦巻く陰謀のこと、それからトレノの本当の身分などはまだこの2人には伝えていない。


 気がつくと天井裏に人の気配があるから、おそらくアイデインが来ているのだろう。昼は確かにユリカ家に来るようになっていたが、研究団の面子が来たので天井裏に隠れてしまったのだ。今日は2人の身辺調査結果を爺様から聞くことになっていたが、あとでこっそり仕草で教えてもらおうと思っていた。





「では、議題を。まず5月末から行われる加護戦のことについて」


 俺は加護戦の議題ならこの面子で始めてもマスタに迷惑はかからないと思って最初の議題に乗せた。


 加護戦は王立高校の中で最大5人の団を組み、加護を使って敵陣の目標を破壊、逆に自陣の目標を守護する競技だ。高校内で勝ちあがり式の戦いを抜けた組が、王立高校全八校で行われる、6月末の御前加護戦に出ることができる。


 御前加護戦は王家も国民も見守る中、高校内での戦いより対象の目標物の規模がかなり大きくなる。目標物は水と砂と石が混ぜられたものを加護で冷やして固めたものでできており、それを加護で溶かしたり砕いたり、補強したり修復したりするのだ。そして制限時間内により多く相手の的を崩した方が勝ちとなる。制限時間を知らせる音が鳴っても、その前に放った加護までは認められるが、音より後に放ったものが当たった場合は相手の勝ちだ。その戦いを2つの組が合計最大5回戦い、先に3勝した方が勝ちあがる。


 戦団は研究団と同じこの5人でいいだろうというのは即決で確定した。まあ、これは議題でもなんでもない。大事なのは攻守を決めることだ。


「攻めはユリカとマスタで良いと思うのだがな」


 アルが攻撃手の案を出した。俺もそれでいいと思う。


「だけど~、溶かされちゃったらマスタが冷却加護で固めないと~」


 そうなのだ、火の加護は水を冷却して凍らせられるので、自陣側にも欲しい。だがそこは地に慣れた俺がいるから庇うことが可能だ。


「ミュー、そこは俺が地の加護で固体分を外側へ固めて水分は中へ閉じ込める」


「なら私は液体を内側へ押し込めて表に出てこないようにすればいいのね~」


「私は敵味方両者の動きを常に全員へ伝えながら、敵の的に妨害の為の強風を送っておこう」


 全加護種が揃い、さらに強力な闇の加護を持っている戦団だから、やることもほぼ決まっているようなものだ。しっかり守り抜いて、最後はユリカにとどめを撃ってもらえば良い。





 加護を相手の生徒へ当てることは反則で、その場で即、相手が勝ちあがり決定となる。だが体を使った妨害、拳術は使って良いことになっている。


「私とカケルは拳術で、それぞれ攻めと防御をしながら相手の妨害だね!」


 ユリカが至極真っ当な意見を言うが、それだけではまだ足りていないぞ。俺たち以外は拳術が得意ではないことを忘れている。


「うむ、2人は妨害を受けてもかわせるだろう。あとは他の3人がどのように妨害をこなすかで勝敗が決まるが、中には強敵もいるだろうな」


 うん、アルがちゃんと気づいてくれた。


「いや、ユリカ様は自分の身に襲い掛かる者だけを対処して闇の詠唱に集中を。私がマスタ、アル、ミューに襲い掛かる敵を排除しましょう」


「え? 一人で相手をするの!? それにユリカも動きながら詠唱するつもり?」


 ミューが驚いているが当然だろう、普通は百戦錬磨の騎士がやるべきことを17歳の高校生がやるというのだから無理だと思うのだが、俺たちにはおそらく可能なのだ。


「あ、ミュー。そうそう…これを見てくれ」


「ん? 何何~?」


 俺はこの説明のために隣の部屋の棚に置いておいたカノミ流免許を持ってきて見せた。


「これを言ってなかったっけな」


「えーとカケル=ヤマト殿。カノミ流拳術…師範之証!?」


「2人とも師範になったんだ。拳術ならおそらくそのへんの高校生10人がかりで来られても対処できると思う」


「すっご~い!」


「ほう、それは凄い。5月までに私も教えてもらいたいが可能かな? 出来る限り、足は引っ張りたくない」


「やあ、加護戦の相談だね? 自分もその拳術訓練に参加させてもらっていいかい?」


「もちろんよ! マスタ、みんなも! 一緒に道場で修練しよう!」


 ユリカがまぶしい笑顔で答える。いつの間にかマスタが先王を連れ、トレノに通されて居間へやってきていた。


「さて、念願の結論を先に言うぞい。2人とも一生の仲間になるじゃろ」


「「?」」


 シルベスタの爺様はいきなり身辺調査の結果を口にしたが、対象の2人はその意図が掴めず首を捻っている。最初と違って爺様も丁寧語ではなく地のしゃべり方になっていた。「そもそもこの掃除夫は誰なの?」という顔でミューが爺様を睨んでしまっているので、ちゃんと説明しないといけない。アルは爺様の顔を見て全て察したのか「ハハハやっぱりな」と笑っている。


「じゃあ、説明するか。2人とも今まで黙っていてすまない。大事な話があるんだ」


 説明の間、2人は食い入るように俺を見つめていた。祭典で予言された太陽王は既に現れていた。それどころか旧知の仲だ。心の整理がつくのに少し時間がかかるだろうと思ったがそんなことはなかったようだ。


「うむ、そんな気がしていたぞ。カケルは加護実践術の授業でかなり先の石を砕いていただろう?」


「私は分からなかったなあ~。でもなんだか、すごく誇らしい気持ちだよ~」


「うん、ことがことだけに、限られた人にしか言えないんだ。2人を疑っていたわけじゃなくて、俺たちがあたりをつけているユウチ家とのつながりが無いかどうか調べてもらってたんだ。2人が味方だったとしてもすぐそばに敵がいるようでは話が複雑になる」


「そうそう、わしらが調べておったんじゃ。ついでに、わしの名前はシルベスタ=ラー=ダブスじゃ」


「「ブホッ」」


 こっちは予想外だったようだ。俺の話をじっと聞いて乾いてしまった喉を、警戒もせずに潤したのが間違いだったようで茶を気管に入れてしまっていた。わざと2人が器を傾ける瞬間に言うのだから、爺様も人が悪い、いやいたずら好きだ。


「それからアイデイン。降りてきなさい。いや、もういたか」


「わっ!」


 いつの間にか音も無く爺様の背後に立っていた灰色装束の隠密の登場に、ミューが驚いている。


「中央王家隠密団のアイデインじゃ。無口じゃが、それも仕事中だけじゃな。家庭に戻れば饒舌な主婦になる。ただし旦那を尻に敷く強烈な暴れん坊じゃがな。ぐほっ! ほれ、この通り」


 爺様がふざけて説明すると、爺様の脇腹にアイデインの手刀が飛ぶ。先王でさらに現在も隠密団では上司のはずの爺様相手でも、臆せずに手刀を繰り出すということは、相当に気が強いのだろう。その様子で彼女の家庭生活がなんとなく想像できてしまった。旦那は大変な毎日を送っているに違いない。爺様が脇腹をさすっていると、いつの間にかアイデインは居なくなっていた。


「アイちゃんは信頼できる女じゃ。わしらに何か伝えたいときは彼女を呼ぶのじゃ。主にこの家周辺におる」


 昔からきっと、爺様はアイデインのことをアイちゃんと呼んでいたのが、そのまま出てしまっていた。俺たちもアイちゃんと呼んで良いのだろうか? いや、手刀が飛んでくるかもしれないからやめておこう。





「それじゃあ、改めてこの5人、いや7人で作戦会議しましょー!」


 爺様とトレノもそこに入っているということだな。うん、この2人とも隠し事なく相談できたら、すごく良い案が生まれるかもしれない。


「マスタが来る前の内容は加護戦の攻守範囲の件。ユリカ様とマスタは攻撃専念、自分は地で防御と拳術で体当たりなどを防いだりする。ミューは自陣の的の防御に専念して、アルが情報伝達と敵陣の的へ強風を続ける。ユリカ様以外の3人は自分が拳術で護る」


「いいね。それでいこう。私は自陣から遠距離攻撃をしていればカケルに援護してもらいやすいな。あとはアルが状況に応じて障壁を張ったりとか、臨機応変に戦えばいいね」


 マスタは真面目な顔をして頷いている。うん、実際の戦いは机上での論議どおりにはいかないのだ。仲間を信じて臨機応変に自分のやるべきことをやった組が勝ちあがっていくものなのだ。


「我も見物に行くぞ。楽しみだのう!」


 トレノも地が出ている。もうここ数日、ほとんど敬語を聞いてないぞ。その言葉にまたしてもミューが怪訝な顔でいる。


「あ、もうひとつ言ってなかったことがあったのう。この子はわしの孫で、シスカ王の娘。つまりトレノ姫というわけじゃ」


「「なっ!?」」


「我はカケルの側室になるのだ。正妻はユリカだがの。今は我も花嫁修業中なのだ」


「…一応そういうことになってしまったんだ」


「「……」」


 かわいそうに、2人とも驚きの連続にそろそろ食傷気味だ。呆れた顔で俺たち3人を見ているが、その反応は正しい反応だと俺も思う。トレノのセリフには俺だって呆れてしまう。もはやその側室というのは確定事項のように言っているじゃないか。もう俺は逃げられないってことだ。





 それから気を取り直して、今日集まった本題である木星行きについての会議を始めた。まず資金について。


「俺は6900万ムーの資金があるがこれをほとんど出すつもりだ。これで飛空船の心配は無いが物資が心もとない」


「なんと、資金はかなり潤沢だな! 私も300万は出せるのだがこれを足しにしてくれ」


 アルの家は公爵家で相当な資産を持っているから、自分自身の財産も既に持っていたのだろう。


「ごめんなさい、私は資金で協力ができないから、物資の買い込みで手伝うよ~」


「じゃあ私もそうさせてー! この家買うのに全部使っちゃった…」


 ミューとユリカは手持ち資金が無いようだ、だが飛空船への運び込みなどをみんなでやっていければいいのだから、気にすることはない。


「私も700万ほど、火王家資産ではなく自分用の資金があるが?」


「フォッフォッ、それだけあれば物資に問題はないはずじゃのう」


「いざとなれば我も協力するのだ。父上に頼み込めば1億でもいくらでも出てくるであろう」


「「「王様のお金はまずいって!」」」


 トレノの提案は全会一致で却下だ。王族の公金を使うのはまずいが、マスタの資産なら火王家だし、自分用と言っているし、マスタも学生なのだからアリだろう。だがこれも、マスタが自分で稼いだお金だ。彼が冒険のために出資を受け、新しい発見をしてそれを出資者に提供することで見返りとして支払われた報酬なのだ。





 資金の問題は簡単に突破できたが、木星で何をするかをまだ話していなかった。この場で話しても思いつかないかもしれないし、木星へは、ただ行くだけになるかもしれない。それがどう論文の締めに繋がるかが重要で、目的の無い物語なんて王家には見向きもされないのだ。


「それでユリカ様、木星へ行く目的はありますか?」


「もちろん、全人類を引越しさせるためよ!」


「「「「「引越しぃ!?」」」」」


 ユリカの目論見はこうだった。まず、大いなる災いがどのようなものかが分かっていない今、災いが通り過ぎるまで木星または木星の衛星に全人類を移転させる。木星本体は重力が強すぎるようなので無理だが、衛星はもしかしたら可能かもしれない。


 木星にはいくつもの衛星があり、10億人が住めるかどうかは行ってみて調査しなければならない。ユリカは幼い頃からずっと、10億人を移動させて大いなる災いをやり過ごすことを考えていたという。


 火星や月ではこの計画に問題がある。大気が希薄すぎて、障壁が必ず必要になるのだ。少しずつ地面の砂などを分解して大気を作り、より広い範囲を地球化するには時間がかかりすぎる。もし災いが急に来たとしたら、人類は滅亡だ。月では大気を作ってもすぐに霧散するから最初から無理だ。


 木星にいくつもある衛星なら、何かしら生存の条件に適したものが見つかる可能性がある。その可能性を探しに行くのが、俺たち研究団の研究題材となる。


 そこで、ユリカの加護の話へ移った。まずは一旦空間を捻じ曲げて星間飛空船での航路を短縮しながら木星の衛星へ到達し、そこへ何か加護の目印を置く。その目印と地球を捻じ曲げた空間で結び、そこから人々を大量に移動させる。捻じ曲げた空間で目印との間を一気に結ぶのは、これも研究題材だ。ユリカは感覚的に可能だと感じているらしい。ユリカの体内を流れる、時空の加護流が教えてくれるのだろう。どのような詠唱になるのかまだユリカにも分かっていないが、おそらく空間に関する物理的理論ができあがらなければ、その詠唱も完成しない。


 だがいくつか解決しにくい問題点がある。木星の衛星では重力が足りないので、火星と同じように重力加護を発動させ続ける必要があること、それから調査中は大気の無いところでの活動になるからどのようにして酸素呼吸を行うかということもある。普通に星間飛空船を力石の障壁で纏えば問題は無いが、着陸するということは船外活動が必要になるのだから、月や火星の調査経験のある騎士に案内役を頼む必要があるかもしれないのだ。いろいろな問題が、やっているうちにまた出てくるだろう。この試みは荒唐無稽なことなのだ。だが、できるかもしれないならやってみよう。


「できるよ、きっと」


 ユリカはあっけらかんとして俺たちの疑問に答える。どうやってできるようになるかは今はまだ分からないが、ユリカがそう言うと本当にできるような気がしてくる。そう、何もしないで人類が滅亡するよりは、やって失敗したほうがまだマシだ。おそらくいくつもの壁が立ちはだかり、卒業までの11ヶ月では間に合わないかもしれないがやってみる価値はある。そうやって未来を変えなければ、神官主の娘が見る予知夢は変動しないのだ。俺たちは、日が暮れても議論を交わし、そしてその困難な挑戦に燃えていた。

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