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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第一章◆
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15話 力の隠蔽

「さて、シスカ殿。会議を始めましょう。議題は今後のことについて」


 先ほどとは違い、1時間前にシルス親王も避けた議長席に、俺は座らなければならない。彼は俺の存在を既に見極めていて、わざとその席に座らなかったのだ。シスカ王とシルス親王が議長席と俺を結ぶ直線を避け、脇に避ける。そこへ座れということだ。


 今後のことについて、なかば俺の中では動きは決まっている。それははっきり言えばただの我侭だが、王という立場になったのだからある程度通るものだろうから、あまり心配はしていなかった。それに、シスカ王たちがそれに賛同するだろうことも想像できた。


「まず俺から皆さんへの相談事、というより要望なのですが」


 要望という言葉に変えれば、少しは柔らかくなる。命令などとは、とてもいきなり言えるような言葉ではない。


「ええ、どうぞお願いします」


 シスカ王が話を促してくれた。43歳という壮年ながら既にその風格は国民、はたまた諸国の人民の期待を一心に背負っていた立場のためなのか、その身に纏う空気は常人と一線を画している。ほんの一言の中にも威厳が備わり、まるで俺が王になったというのは間違いだったのだ、というような錯覚を引き起こす。いや、おそらくそれは本当のことで、まだ俺は真の力を得ていないで、とっかかりでしかないのだ。


 伝説の中に出てくる太陽王の強大な力と、自分の体の中の加護流を比べると、とてもそこまでのことができるとは思えない。このままでは過去最弱の太陽王ということになってしまうのだ。だが、それも精神修練を積み重ねていくことで増大し、真の力を得られるようになるのだろう。


「さて、結論から入ります。俺はすぐに太陽王に即位するつもりはありません」


「ええ、こちらでもそれは予想しておりました」


「え、なんでなの!? カケル? 即位しないってどういうことになるの?」


「ああ、今から話すことは推測もかなり混じっているが、ユリカも最後まで聴いてほしい」


「う、うん分かったよ」


 眉を苦く下ろしたユリカが、胸に手を当ててじっと俺を見る。シスカ王とシルス親王は、俺と同じ考えでいるのだろう、穏やかな目でこちらを見ている。師匠は目を瞑って心を落ち着けようとしているようだ。





「おそらく親父は、何者かに暗殺された。あの魔龍の事故は人為的に作られたものだ」


「ええっ!?」


 ユリカが驚いて、声が口に出てしまっている。この推測は今まで誰にも言ってこなかった。ユリカが何度も俺に、その塞ぎこんでいる理由を聞いてきても言わなかったことだ。下手をすると墓まで持っていくような話だ。


「あの時点でカマチェスカに魔獣が現れる可能性は低かった。環ダイムー海周辺で魔獣がいるのはアボリグ内陸だけだ」


「その通りですカケル王。カマチェスカ、ベーリンジア、スィビーリの3つの地域で最後に魔獣が発見・討伐されたのは220年前のことです」


 シルス殿下が俺の言葉を補足する。


「さらに北極氷海が、魔獣がルーシ方面から渡ってくる可能性を排除する」


「ええ、魔獣は生息していた地域に固執するため、移動することはありません」


 そう、シスカ王の言う通りだ。魔獣は、魔獣化する前の認識に囚われるため、大幅な移動などしないのだ。


「最後に、あの龍と呼ばれるような生物、その元になるようなものは自然界に存在しない。よって、あの魔獣は人為的に虹色水晶の欠片を与えられた生物で、かつなんらかの生物学的・遺伝的操作を受けたものではないかという結論が俺の中で出た」


「……」


 遺伝的操作という言葉が出た途端、俺の話に相槌を打っていたシスカ王が口を(つぐ)む。まだ王家でも未確認の、何か遺伝学に関連する情報があるのだろう。そこに俺が行き着いていたことに驚いているようだ。


「犯人がいると仮定しよう。犯人は歴代特級騎士の中でも特に業績の目覚しかった親父の、親父だけが特別に持っていた何かを知った。さらにそれは王家や閣僚の間でも情報共有された」


「そう、それはタケル氏が加護適正試験前に加護を発現していたことです」


 シルス殿下がその関連性を結び付けていく。


「そしてそれは、やはり太陽王の特徴の一つだったのですね? その発現時に発光体と遭遇した者は太陽王、そうでなければただの加護発現者、ということでしょう?」


「お察しの通りです。光を見た側であるカケル王は、太陽王の資質を得られました。ただし犯人は私たちがそれを隠しているだけで、タケル氏が太陽王の可能性があることを疑っていました。タケル氏は光を見たのかどうか、はっきりとは分かっておりません」


「犯人はそれだけで親父を太陽王だと勝手に断定、王家が親父の稀有な力を見て、しばらくすると太陽王と認定するのではないかと疑念を持った」


 シスカ王を見ると、激しく頷いている。


「ええ、実際のところ、当時は極秘に閣僚たちとも、認定するかどうかの議論を重ねていました。太陽王出現の予知はその頃はまだ曖昧で、間もなく現れるということでしかありませんでしたので」


「やはり、そうでしたか」


 推測はほぼ当たっているようだ。ニヤリと口元が緩む。


「しかし他の3つの属性が現れた情報がなかったので、私は認定は見送るつもりだったのですが、何者かはその議論の方向性を見誤り、タケル氏を亡き者にしようと考えたのでしょう」


「そのときの極秘会議出席者を教えていただけますか?」


「ええ。私、シルス、王妃リリエン=ダブス、火の王族当主マーテル=ダブス、水の王族当主アルシオン=ダブス、風の王族当主ウインタ=ダブス、地の王族当主ガルザニア=ダブス。ここまでが王族です」


 王族は、もし子供ができなかったときのために、4属性にちなんで4つの王家を血縁の緊急避難として用意しているのだ。ここに名前の出た王族が、黒水晶の間で交代で立ち会うはずの王族ということになっているはずだ。シスカ王の家系も6代前、火王家から当時の王族に養子として入って、中央王家を継いでいた。また中央王家からも時に子どもの出来なかった4王家へ養子を出したりもしていたので、王家の血はしっかりと守られていた。





「それから、当時の宰相ロクサヌ=クルスタス殿、加護大臣・兼火星開発大臣コーエン=ユウチ殿、神官主イーノルス=シンク殿、ヤマタイ国の国主ミコト=ヤマト殿、以上です。現在職を退いているのはクルスタス殿だけですね」


 クルスタス家は数十代前に優秀な騎士を出して以来、代々国政に携わっている名家だ。当主の従弟はクルスタス機械工業の経営で国民と関わりが深い。ただし当主の家はこの間代替わりして、長男が後を継いでいたはずだ。今はユウチ家当主が宰相・兼火星開発大臣となっている。


 ユウチ家は星の賢者の末裔、いや末裔というほど年代も離れておらず、10代ほど前からユウチ家の直系は続いていて、親族ともども火星を開発する中心者となっている。神官主のシンク家は、初代太陽王の元王家だ。初代王家はこれも代々、神官を務めるようになっていた。


 ヤマタイ国主は、俺の遠い遠い親戚だ。同じヤマト家の名を持つ者としても、出身国の首長としても、2つの意味でその会議に参加したのだろう。おそらくヤマタイ国主は親父がヤマタイにいた幼少の頃の情報を提供するために、会議の人員に選ばれたのだ。なるほど、そうそうたる顔ぶれだ。


「俺はその出席者、その中に首謀者、つまり犯人がいると考えて間違いないと思っていますが」


「ええ、私たちも同じ考えを持っています。ただ、それを表ざたにはできません。推測だけで粛清には踏み切れませんし、末端の実行者を捕まえても犯人には逃げられてしまいます」


「そこで、しばらくの間様子を見て、首謀者を特定したいのです」


「賛成します」


「具体的には、俺はできそこないの騎士とか目立たない騎士という風に、身分を偽ろうと思います。親父にはとうてい及ばないような、大した成績も残せないように見える騎士です」


「ええ、私たちの考えと、まったく同じです。太陽王に対して少々失礼なことで、言い出しにくかったのですが」


 シスカ王も同じ考えでいたのなら、やはり俺の完全な我侭というわけではなく、きちんとした援護が得られるだろう。ありがたい。中央王家の隠密団がそのために動くのなら、俺一人では時間がかかることでも簡単に達成できるはずだ。





「俺はすぐには即位しませんが、今年の祭典で、5年以内には太陽王が現れる予知が出た、と公表してください。予知を行っている神官主は信用できる方ですよね?」


「5年、ですね。政権移譲を経験しているシンク家は完全に信頼していいでしょう。ご心配なく。それに太陽王が現れる情報を一番先に得たのは神官主ですから、今日のことも既に知っています」


「そうすれば恐らく、またその首謀者は極秘に動き出すでしょう。あとはこちらは気づかれないように証拠を掴む。万が一シンク殿だった場合は祭典の前に動き出すでしょうから、逆に特定しやすい。その可能性はまず無いでしょうが」


「そうですね、それは良い考えだと思います。是非実行しましょう、ご助力します」


「いや、助かります。本当は一人でやろうと思っていたのですが、味方がいるのはありがたい」


「第二代のときも結局同じでしたから。申し訳ないことに王国政治は、完全に綺麗なものとは言えません。反抗勢力というのはある程度いるとは思っています」


「だがそれは、三代目が現れることで不利益を被る者」


「カケル王、そのとおりです」


「現在までにある程度あたりはついているでしょうか?」


「王族を疑うのはお恥ずかしい話ですが、中央以外の4王家は、少し怪しいのは風の王家。他は思想になんら問題が無いことは分かっています。風王家の城にだけは隠密団がいて、こちらの隠密団は妨害されて情報を得ることができないのです」


 少しつらいが、王族が反抗者だったとしてもおかしくはない。何故なら、王族は太陽王出現時には王族の地位から離れなければならないからだ。悲しいがそこに固執して考えを改められないようであれば、粛清も選択肢に入れなければならない。


「クルスタス家も忠誠心の高いところで、ロクサヌの長男も先日発表していた開発副大臣としての政策を見ると分かるとおり、国民の為、ひいては太陽神の為と、少々真面目すぎるほどの鼻息の荒さですから、ほとんど度外視して良いでしょう」


 元クルスタス宰相の長男、現クルスタス家当主は熱血漢で、先代の後を継いで技術開発に心血を注いでいる。数々の生活必需品が、今まで加護の力に頼っていたものを、加護の力を解析して親族が経営するクルスタス機械工業と歩調を合わせて科学技術に転化し、大成功を収めている。歳が若くてもすぐに宰相の座に就くだろうことは、国民の誰もが容易に想像できたし、人気も高い。





「しかし最も足りていないのは、ユウチ家とヤマタイの情報です。それぞれ、動機の要素も分からないばかりか、彼らの構成する勢力も全体像がつかめていません。王家の隠密団は火星で謎の死を遂げることが多く、まったく正確な情報が集まりません。ヤマタイについては他国なので勝手が分からないだけですね」


 なるほど、ダイムー大陸の外を拠点としている2家の情報は、さすがに集まりにくいだろう。仕方のないことだ。だがヤマタイは俺が縁戚者ということで、少々集めやすくなる可能性がある。


「なるほど、分かりました。では引き続き風王家、ユウチ家、ヤマタイの情報を集めてください。私もヤマタイの情報集めには、家柄もあるので少し力を発揮できると思いますので」


「畏まりました。これを、カケル王の最初のご下命として丁重に承ります」


「それではしばらく王家として続けていただき、即位までの間にいろいろと引継ぎの準備をお願いします。時間がかかるでしょうから」


「いえ、実は継承式はすぐにでも出来る状態で常におります。元々、太陽王の息子以降、王家の役割は引継ぎに備えることですから」


「そうでしたか。…ところで一つ、光属性のことで気になることが」


「はい、光の賢者ジョウ=ルーセントのことでしょうか? 4属性を1つにしたことで得られる光属性を持っていました」


「ええ、そうです。話が早いですね。彼は太陽王ではなかったのですか?」


「いいえ、彼は光を5つめの属性としか認識できず、何度も試したようですが主要4属性を扱うことはできませんでした」


「なるほど、さきほどの自分の適正試験の結果を見て、それを心配していましたが杞憂だったようです。それならばルーセントは太陽王ではないですね」


「ええ、そのあたりは中央王家に抜かりはありません」


 光属性自体にもルーセントが開発した詠唱文があるのだが、きっと4属性についての感覚的な理解ができずに、光だけが黒水晶に確定されてしまったのだろう。属性についての理解が深くできずに黒水晶に触れてしまえば、以後新しい属性は現れない。きちんと理解して使いこなせていれば、ルーセントも太陽王となりえたはずだったが、おそらく力が足りなかったのだろう。





「さて、しばらくの間はこちらのとの情報のやりとりについて、使いの者を経由して行いたいと思いますが、よろしいでしょうか。カケル王も気づいている通り、王家には優秀な隠密団がおります…。少々感激に(むせ)ぶ者もおりましたが、なにぶん忠誠心が高いもので、ご容赦ください」


 シルス親王の言うことは確かにもっともなことだ。たいした業績も上げていない騎士、それも五級の俺が頻繁に王城に参内していたら何事かと疑われる。それに隠密団の忠誠心は、俺が礼をしたことに対する念の変化ではっきりと分かっていた。彼らも強力な加護適正者なのだろう。


「ええ、そうしてください。助かります。できればその頻度も少なめにしましょう」


「はい、仰せのままに。それから隠密団は現在…そうですね、隠密団の説明についてはその長から、いずれカケル王のところへご訪問させていただく時に説明していただきましょう」


 シスカ王は隠密団についての説明をしようとして、ふと何か思い出したのかそれを止めて、髭を撫でながらニヤリと笑う。


「では、会議はこれまでとしたいと思いますが、他に何かある方は?」


「ああっ! は、はいっ!」


 ユリカが勢い良く、指先まで伸ばして細い腕を真っ直ぐ上に挙げた。うん、しばらくユリカを放置してしまったが、元気でよろしい。


「ユリカ、どうぞ」


「うん、えっと、私はどうしたらいいの? 三級騎士になっちゃったけど…」


「ああ。ユリカは俺から犯人の目を離させるための囮になってもらう。つまり俺はなんの特徴も無い目立たない騎士だけど、ユリカの幼馴染だから従者にしてもらってる、という風にね」


「ええぇー! 私の方が偉いフリをするの!?」


「ま、そうなるな。祭典とか明らかに主席扱いだからいろいろ大変だろうけど頑張れよ」


「えっ、そうかそんなこともやるのね。できるかな…うん、頑張る」


「ハハハ、期待してるぞ。闇の賢者殿」


「はいっ! かしきょまりました太陽王しゃまっ!」


 ああ、この笑顔に俺は癒される。噛み噛みだけどね。


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