14話 少女に秘められた力
はぁ~…。まさかカケルが王様になっちゃうなんて思わなかったよ~…。今までどおりでいいって言ってたけど、私とでは立場が違ってしまって会えなくなるのかな? うう~~。どうしよう。いや、私が騎士になって王様を護ればいいんだ。これ、極意の五。うんきっとそうだ。それで、お嫁さんにしてもらってずっとずっと一緒にいて、カケルを護り続ければいいのよ!
あの瞑想をして少し分かったこと。それは、自分の気持ちを抑えに抑えつけるだけでは駄目で、自分の気持ちに素直になることも必要なんじゃないかってこと。だから私は、私のカケルへの愛に素直に生きる。今はまだカケルの心が準備ができていないだけだから、私が護ってあげなくちゃ。
「ユリカ、俺と同じように立ち止まって瞑想してみろ。そうだな、ユリカならたぶん10メートル、そこまで加護が出ることはないだろうから10メートルで止まってみるんだ」
「10!? うん、分かった」
虹色水晶は6トンの直方体らしいけど、黒水晶はなんだか細長い板みたいな。こんな真っ黒なのにあんな光を出すとはびっくり。とりあえず、ゆっくりゆっくり。16。15。14。13。12。11。うん、確かに全然でない。
「ふー…」
さて、落ち着いて、10に立とう。ん? やっぱり何も出ない。んじゃここで瞑想。本当にこんな遠いところからで出るのかな? カケルが言ったことはでもきっと正しい。私もなんだか10メートルでも、だんだん遠い気がしなくなってきた。まるですぐそばに黒水晶があるような…。
いや、黒水晶が私に話しかけてる!? 言葉じゃなく、なんだか、静かに黙って私の頭を撫でてくれてる、そんな感じ。そうか、黒水晶はきっとお母様みたいなものなんだ。虹色水晶はお父様かな? そうか、カケルはこの感じがするまで進んだら、それが20メートルだったのね。
一・恩を知り、二・恩に報い、三・己を知り、う、なんだこれ肌がざわざわする。四・天を知り、五・護る。私は、カケルを護る。カケル…。私が護ってあげる。カケル。カケル。「カケル」。わっ、また声に出てる。
「ん? なんだユリカ?」
「ひゃっ!? あいやなななななんでもな」
「馬鹿っ前見ろ!」
「へ? ぎゃああああああああああ」
真っ黒なカタマリが黒水晶に取り付いてる~~! なにあれ!? ってうわっ こっちきた!? ひぃーざわざわが止まらない。そうか、これが私の力。この力で愛するカケルを、……護る!!!
――――――バンッ
「ぽぎゃっ!? 破裂した!?」
「ことごとく予想通りだな・・・」
「ご、ごめんなさい!」
えっ、カケル本当にこうなると思ってたの!? 冗談で言ってるのかと思ってたのに。でも周りに人が居なくて良かった~…。あらっ!? 破裂したんじゃなくてなんだか大きくなったの?それにしても陛下の前で、いやそれどころかカケル、3代目の王様の前で爆発起こすなんてなんて恥ずかしい。穴があったら入りたいって。でもこれが私なんだから、それはそれでいいんだ。恥ずかしいということを恐れて何もしないよりは、何かを成し遂げようともがく方がかっこいいじゃない。
なんだか、さっきから体中の血が逆流してるような感じ。いや、血管を通っている感じじゃない、なんだこれ、加護の流れ? これが加護流か。慣れてきたらなんだか、ずっとそこにあったような。ん? カケルからよく吹いている風みたいなのはこれだったのかな? なんだ、私はこれを昔から知ってたのね。だから懐かしい感じがするんだ。
そういえばさっき、カケルが天井とか壁とかにお礼をしてたのは、そこに人がいるってこと? うーん、少しずつ分かってきた。なんかいる。よく分からないけど、じゃあ私もお礼しなくちゃ。きっと私たちに危険が無いかどうか見守っててくれてる忍びの人なんだ。ありがとう忍びさん。わ、あそこにもいる。あそこにも!? 10人はいるんじゃない!? なんで気づかなかったんだろう? えーい、全部にお礼だ。ありがとう、ありがとーう!あはは、なんだか驚いてるっぽい雰囲気になっちゃった。私までお礼するとは思わなかったのかな? それにしてもこの加護、まっ黒ね。これってご先祖様と同じ? わー。右手が真っ黒な塊に包まれちゃった。なんかモヤモヤした黒い霧みたい。あ。右手に入った。…これで終了?
「どうやら、闇のようですね。太陽王と二代目闇の賢者が同時に現れるとは」
わー。陛下がそう言うってことは、やっぱりご先祖様とおんなじなんだ! 爆発もだけど。なんだかちょっと嬉しい。ということは私は時空加護が使えるということなんだ!
つまり私がやるべきこと、ずっと考えていたことにぐぐっと近づいたってわけね。なんておあつらえ向きな力! この力を与えてくれた黒水晶と虹色水晶にお礼を言わなきゃ!
「黒さん! 虹色さん! ありがとーう!!」
「黒さん? ハハハ、水晶のことか。ユリカ、おめでとう」
うん、カケルにおめでとうと言われるのが一番嬉しい。
「この力でカケルを護れるように、頑張るよ」
「ユリカ、ここからの修行は、一般的ではない加護を持つお前には一層つらいが、やれるか?」
上の立会い席にいる師匠は次、明日以降の修行のことを言ってる。うん、おそらく詠唱加護の数が段違いに少ないから、苦労するだろう。多分自分でいくつもの詠唱を新しく作り出さなきゃいけないし、教えてくれる人もいない。でもカケルのためなら、私はいくらでも頑張れる。
「やれます。問題ありません!」
「ユリカ殿は、騎士を志望されますか? こちらとしてもその方がうれしいのですが」
シルス殿下が一応聞いてくるのは、私が女の子だからだろう。そんな常識は私にはいっさい関係ないよ。
「はい、騎士になりたいです。ずっと騎士になるために鍛えてきました」
「そうでしたか、素晴らしい。では、ユリカ殿は特例で三級騎士ということでよろしいですかな。ユリカ殿は、級を隠す必要はありませんから、三級騎士として三年生へ進級してください」
へっ!? 私も特例? いきなり三級? そういえば学生なのに三級って、どういう立場になればいいんだろう。学校で教えてもらってるのにお給料もらえるのかな。でもそれは助かる!
「か、かしこまりましたー!」
「それから一応、総合試験も受けていただきますが、加護適正試験が終了するまでは騎士の身分を明かさぬように」
うっ、やっぱり総合試験はやるのね。でもそのために勉強してきたんだから、自分がどれだけやれるかやっぱり試してみたい。
「では騎士証を渡しますから、上へ戻っていらしてください」
「はいっ!」
立会い席へ上がる階段は、普段ならカケルが前を行くのだろうけど、これからはカケルに仕える身になるのだから、先導を私がしなきゃ。
「これからは私がカケルを護るね~!?」
「心強いな。なんせ、二代目・闇の賢者様だからな。でも前を見ながら昇ったほうがいいぞ」
「あっ、そうだね。転んじゃったらだめだね へぐひっ」
「そう言った先から転ぶのがユリカらしいところでもあるが。もっと視野を広くして全体を見ろ」
「う~。はいがんばりま~す」
また派手に転んじゃったけど、今のは前を見てなかったからで、前を見てたら絶対転ばなかったんだから! ん? 今まで私そういえば、ちゃんと前を見て歩いてたのかな? うう、自信が無い。そうだ、足元を見て歩こう。それから足は一応少し大きく上げよう。そしたら転ばないはず! 階段を上がると、シルス殿下。えっと、この呼び方はもうまずいのかな。シルス様、が既に騎士証を準備していた。
「この金属板の中に、虹色水晶の欠片が、ほんの砂粒のようなものですが入っています。加護はスムーズに出せるようになるはずですから、お持ちください。」
「ありがとうございます」
私が渡された騎士証には星の浮き彫りが3つ描かれている。これが三級の証だ。カケルのは、星1つのと星5つの2枚だ。星が1つってことは、一級!?
「あれ!? 二級じゃないの?」
「ええ、カケル王は光20ですから、特例だとしても二級ではどうも足りませんね。本当はすぐにでも特級扱いでいいと思うのですが、あれは虹色水晶を集めた実績の名誉称号ですし。どうせ公式的には内緒なんですから一級でいいじゃないですか」
なるほど、シルス様の言うのももっともだ。それにしてもいきなり一級とはさすがカケル。普通、3年生は全員五級なのに、完全に規格外だあ。
「カケル、王になったとしても修行は別だ。より厳しく、カノミ流の体術を伝授していくからな」
「へへっ、師匠は何も言わなくてもいつもどおりにしてくれてますね。ええ、望むところです。山にも行かないといけませんしね」
うはあ、師匠は厳しいなあ。でも、だからこそ私たちが強くなれたんだけど。私も、まさかの10。そもそも10なんて聞いたこともない。それも闇の10。カケルと比べると見劣りするけど、これも規格外。私ってこんなに力を育ててこれたんだね。師匠のおかげだなあ。そしてこの加護を使って、私はやらなければならない。ずっと心に決めていたことを、行動に移すときだ。でも、まだ早い。まずは仲間を探すことね。
「それではカケル王、改めて今後の話をしたいので、戻るついでに再度会議場へお越し願いたい」
シルス殿下は恭しくカケルに頭を垂れている。うーん。王族、いや元王族が頭を下げるのを見る日が来るとは。でもカケルはなんだか気まずそうな顔をしてる。太陽王になるのが、嫌なのかな?
「実は自分もご相談したいことがありましたので、そこでお願いします」
ん? なんだろう。カケルが相談したいことって? もしかしてそれが、カケルが暗かった理由かな? 私が明るくなるのと反対に、カケルはずっと暗くなっていった。これからも私が支えなくちゃ。
「では、戻りましょう。カケル王、ここの扉の開け方は、ここの突起に触れるのです」
「ああ、なるほど、これは力石ですか?」
「そう、普段は空っぽの力石です。使用する分、扉を開けるための分だけ加護を込めるので、一般の人がここに来たとしても気づきません」
「なるほど」
「力石への加護の込め方は…普通はあとから学ぶのですが既に体得しておられるようですね。加護の必要量もだいたい分かりますか」
「いろいろ実験していましたのでね、分かりますよ」
カケルが力石に手を触れて軽く加護を込めると、壁が開いた。来る時とは逆で、カケルが王様なので先に向かう。私が先導でカケルの前を。うん、今度は前を見て歩くから転ばないよ!
「中から開閉を行うときは、この左側に力石がありますので」
「理解しました。さて、自分もおそらくできると思うので、灯火の詠唱をしてみますよ」
「ええ、ぜひお願いします」
「火の精霊よ……その力を我に貸し与え給えい。…小さき炎をともしびとして…我のかいなに宿らせ給え」
カケルが詠唱すると、シルス様のときと同じように腕が赤く光りだした。すぐに詠唱ができるってことは、いろんな詠唱を前から覚えていたってことね。よく覚えられるなあ。
「ふむ、便利ですね。この力は虹色水晶の力ですね。適正試験の前とは明らかに体内の加護の密度が変わっています」
「そうですね、黒水晶は人間と虹色水晶の間に新たな加護の導線を引くもの、ということです。自然に発現した加護は、いったい何から力を得ているのかについては、経験が無いのでよく分かりませんが」
「そのへんはおいおい、私の理論を。まだ仮説の段階ですがシスカ様、シルス様にもお伝えしましょう」
「カケル王からお教えいただけるとはありがたい。それから我々のことは今後、呼び捨てでお呼びください。もはや我々はカケル王の臣下です。精神的な準備は、先祖代々できております」
「シスカ殿。シルス殿。これでいいかな。それと、この顔ぶれのときは言葉を崩しても?」
「は、よろしいかと」
「ふう、どうも。俺は堅苦しいのは苦手で」
「ハハハ、カケル王、実は私もです」
「シスカ殿もでしたか。いやあ、2人ともずいぶん気さくな方たちだなあと思っていましたが」
「公式の場でそういう言葉に囲まれていると、ついつい非公式の場は気を緩めたくなるものですよ」
「ハハ、分かります」
うんうん、みんな普通は堅苦しいのは嫌いだよね。接しやすい人たちでよかったー! でも大変だなあ、王様になると毎日堅苦しいんだね。それを支える側もきっと大変なんだろう。王妃様もシスカ様に連れ添ってあちこち出かけないといけないしね。
「あ、そこを右へ曲がると王家楼、その先に王閣に向かう分岐点がありますよ」
「なるほど、覚えました」
うん、こんな偉い人たちがなごやかに会話している中に居られるのも役得役得。談笑に耳を傾けているとあっという間に迎賓殿へ戻ってきていた。迎賓殿には、さっきの近衛兵士さんがまたいて、シスカ様に目配せしている。この人、どこかで見たことあるんだけどなあ。どこで会ったんだっけ?
さて、やっと主人公とヒロイン両者とも、随分と過大な能力を手に入れました。
後世における2人の伝説はここから始まります。