パーティーを追放される。魔王に拾われる。
「フェリノア。お前はここで追放だ。魔王城は俺達で乗り込む。お前は帰るかそこら辺で野垂れ死ぬかでもしときな、この出来損ないが。お前にはうんざりなんだよ」
百二十代目の勇者、グリア・フェルラント率いる勇者パーティー。その中で医療役……ヒーラーを務める俺、フェリノア・ルルシェは魔王城へと続く森の出口でそんなことを告げられた。
何を言われたか理解ができていなかった。俺が、追放だと?
俺を無視して歩みを進めるグリア達に、俺は必死に抗議する。納得がいっていないからだ。どう考えてもアホだ。これから魔王城に乗り込むのにヒーラーを追放だと? そんなの、ただの自殺でしかない。
「待て、本気で言ってるのか? これから魔王城に乗り込むんだぞ! そこでどうして俺が追放されるんだ! 」
「そもそもに使う機会がなかったからお前は知らねえと思うがよお、"これ"、何か知ってるよな? ヒーラーのお前なら」
そう言ってグリアは俺に紫色に光るポーションを見せつけてきた。
本で読んだことがある。これは、『不死の仙薬』と呼ばれる古のアイテム。飲んだ者をその名の通り不死にするという効果を持つ。すぐに察した。コイツがあるから俺は用済み、ということか。
なら──
「二人はどうするんだよ」
攻撃魔法に特化した銀髪の少女で俺の幼馴染、ララ・クロソフィ。そして防御魔法に特化した水色髪の少女、メリィ・クルサナ。彼女達はどうするんだろう。不死の仙薬は一つしかないと言われている神話の道具。そう、ひとつしかない。
「あ? んなもん俺が全て攻撃を受け切るに決まってんだろ。それにメリィが結界でもはりゃあ大丈夫だっつの。でお前は用済みだ。だからお前はここで追放する」
ずっと黙っていたメリィが口を開いた。その視線はとても冷たいもので、まるでゴミでも見ているかのようだった。
「あーあ、これだから出来損ないは。そんな簡単なことも理解できないなんて、ほんっとバカよねぇ。アンタもそう思うでしょ? ねえララ」
メリィに言われて、ララも口を開く。ララは昔から無口で無表情だったが、今回はとても強い嫌悪感を顔に出して怒気を含んだ言葉を俺に放ってきた。
「フェリィ……荷物。邪魔、消えて」
「幼なじみにまでこう言われてやがんの。ざまぁねえな」
ララのその言葉がどうしても受け入れられなかった。別にララが好きだったとか、そういうわけじゃない。メリィやグリアと違って、ララは今まで一度も俺にそんな素振りを見せてこなかったからだ。
「あっねぇグリア。でもこのままコイツが無事に王都に着いたとしてさ。そしたらあたし達どうなんの? 」
「あぁ、確かにそうだったな。よし、んじゃやっちまえララ。ここでもう関わるなと言う意思表示も込めて、渾身の魔法をぶっぱなせ」
メリィとグリアの言う通りに、ララは両手のひらを俺に向けて掲げて、そこに白い光を集め始めた。まずい、このままだと確実に死ぬ。ララの威力がとてつもないのはもう何度もこの目で見てるんだから知っている。逃げるか? いや、体が動かない。
やがて集まった白い光は、槍へと形を変えて。俺に、迫ってくる。ここで俺は、死をはっきりと悟った。どこで俺は道を間違えた? コイツに着いてきてしまったことだろうな、なら。
あぁ、憎い。腹立たしい。どうして俺がこんな目に遭わないといけないんだ。俺は精一杯ヒーラーとしての役目を果たしたはずだ。クソッ、クソクソクソクソクソッ!!
ひゅんっ。そんな、軽い音だった。一瞬で、ララの槍は俺を貫いていた。言葉に出来ないくらいの激しい痛みが走る。口から血が溢れ出る。少しずつ、意識が朦朧としてくる。そこから俺が気を失うまでは、あっという間だった。
少し、昔の記憶が頭に流れていた。十歳の頃、俺は回復魔法に目覚めて。そしてララは攻撃魔法に目覚め。俺はララと比較され、やたらと出来損ないと呼ばれるようになっていた。
実際そうだった。回復魔法も言葉より優秀という訳ではなかった。熟練度もあるんだろうが、完璧に回復させれるほどのものではない。せいぜい魔族同様に少しの傷口を塞ぐことや、痛みを和らげること、致命傷でも命を繋げることくらいしか出来なかった。
死者の蘇生は不可能だ。大きな傷の治療もほんの少しくらいしかできない。だから俺は出来損ないだった。
十五歳の頃。グリアに誘われ、俺は勇者パーティーに入ることになった。思えばその時から俺は嫌われていた気がする。ヒーラーが俺しかいないから、と渋々だった。
メリィもそうだった。とても気が強く俺にだけかなり当たりの強い。ことある事に出来損ないを理由にして俺を責め立ててきた。最初から、多分仙薬の繋ぎでしか無かったんだろう。
クソみたいな人生しか送ってこなかったな。平和なのは……そうだな、魔法に目覚める前か。確かララと結婚するとかそんな馬鹿げた約束してたっけ。結果としてララにも嫌われていた訳だが。ったく、笑えるよなほんと。
ん? あれ、なんだろう。とても華やかな綺麗な匂いがする。それに何か頭が柔らかい。三途の川、とかでは無さそうだな。ぱちぱちと燃える火の音は聞こえてくるけども。
目、開けれるなこれ。
「わっ、目覚めたんですね! 良かったですルー君! 私、死んじゃったらどうしようかと」
「……誰? 」
目を開けてすぐ目に入ってきたのは、紫色の空に河原、流れている川──などではなく。黒い長髪にワインのような紅黒い瞳、それに少しだけ尖った耳をした美少女だった。
「初めまして。私はミラ・アルマリア。えっと、魔王です」
「は? 」
は? 魔王!?




