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陰陽師彼氏は今日もお祓い  作者: ルベン


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第4話:呪いのファッションと彼の美意識

 週末、鈴木花はデパートの高級ブランドフロアで、橘雅人を半ば引きずるように歩いていた。今日は、花が雅人に「普通の服を着てほしい」という長年の願いを叶えてもらうための、年に一度のミッションデーだ。


「雅人、ここ!このジャケット、雅人のスタイルなら絶対似合うから!」


 花が差し出したのは、流行のチェック柄の洗練されたブレザー。雅人はその服を、まるで得体の知れない魔物でも見るかのように遠巻きに眺めた。


「花よ、いけない」


雅人は真顔で言った。


「この服からは、『一時的なブームに乗り遅れることへの恐怖』という、おびただしい気の淀みが感じられる。これを身につければ、私は周囲の虚栄心という邪気に取り憑かれてしまう」


「ええっと、それはただのトレンドっていう世の中の仕組みだよ、雅人!」


 花が悲鳴を上げたのは、雅人がすぐ隣の古着屋の催事コーナーにあった、妙に襟が大きく、金糸で鳳凰の刺繍が施された、時代錯誤も甚だしいジャケットを真剣に見つめていたからだ。


「見てみろ、花。この一着は、流行という偽りの呪縛を断ち切る、高潔な気が宿っている。これは、まさに私にふさわしい『結界』だ」


「それはただの個性的すぎるジャケットだよ!ねぇ、私、会社の同僚に遠回しに言われちゃったんだよ?『花の彼氏さんって、いつも独特な格好してるよね…』って!」


 花は、先日職場で言われた言葉を思い出し、少し目に涙を浮かべた。普通でいたいのに、雅人の特殊性がそれを許さない。


 雅人は、花が本当に傷ついていることに気づき、表情を曇らせた。


「花……すまない。君がそのような『見た目の呪縛』に晒されているとは、私の見識が浅かった」


 彼は花の手を優しく握り、きっぱりと言った。


「分かった。君の願いを、私は必ず叶えよう。明日は君の誕生日。その日までに、私は君が心から誇れる服を用意する」


「本当に?!」


花は期待に胸を膨らませた。


「ああ。私の霊力を最大限に込めた、世界で一着の特別な服を」


 その言葉に、花は一瞬で不安に逆戻りしたが、雅人の真剣な瞳を見て、何も言えなくなった。


 翌日の誕生日イブ。花は雅人のアトリエを訪ねた。


「雅人、どんな服を用意してくれたの?もしかして、あのブレザー?」


「いいや、花。君に頼まれた以上、既製品などでは君の輝きを表現できない」


 雅人が、和室の真ん中に広げた布を披露した。それは、一見するとデザイン性の高いシャツのようだが、西洋のフリルと着物の袖、そして帯締めのような装飾が組み合わさった、まさに和洋折衷だがどこかズレた、雅人渾身の自作洋服だった。


「これこそが、『流行に左右されない、高貴な気』を封じ込めた、君のための『無形結界の法衣』だ」


 雅人は、その服を宝物のように抱きかかえ、自信満々に言った。


「これを着れば、周囲の『見た目の呪縛』から君は完璧に護られる。さあ、これに着替えて、最高の誕生日デートへ行こう!」


 花は呆然とした。


「呪縛って…。私が望んだのは、雅人と『普通に』デートすることなのに!これじゃ、私が『呪いのファッション』の標的だよ!」


 花は絶望した。自分の話が全く伝わっていない。雅人は自分の霊的な美意識を優先し、世間体を完全に無視している。


「着たくない!お願い、普通の服を着て!」


 花が声を荒げると、雅人も珍しく真剣な表情を崩さなかった。


「花。私は、君の願いを蔑ろにしたわけではない。だが、私は君が『周囲の視線という邪気』に怯える姿を見たくないのだ」


 雅人は花を抱き寄せ、耳元で静かに囁いた。


「いいか。ファッションとは、その者の魂の輝きを映す鏡だ。この服は、君の魅力を最大限に引き出し、『偽りの自己像』という邪気から君を解放するためのもの。私が君を愛しているのは、服の流行や世間の評価ではない。ありのままの君だ。だから、その姿で、胸を張って歩いてほしい」


 雅人の言葉は、キザだが、花を心から想う真実の愛だった。花は彼の不器用ながら一途な心に打たれ、涙が滲んだ。


「…わかったよ。今日だけね」


 花は、雅人からプレゼントされた、個性的な和風ワンピースに着替えた。


 誕生日デート当日。二人が都心のレストランへ向かう途中、周囲の人々は明らかに振り返った。雅人の羽織姿もそうだが、雅人の自作ワンピースを着た花も、強烈な個性を放っていたからだ。


 花は、恥ずかしさで顔が熱くなった。


「ねぇ、雅人、みんな見てるよ。もう無理、脱ぎたい…」


 雅人は、花が恥じらう様子を優しく見つめ、花の腰にそっと手を回した。


「気にするな、花。彼らの視線は、君の持つ『真の輝きの気』に引き寄せられているだけだ。彼らは皆、流行という薄い結界に守られた『好奇の霊』に過ぎん」


 彼は花の耳元で、さらに囁いた。


「花。私は、君がどんな服を着ていても、世界で一番美しいと思っている。この服は、その輝きを覆い隠さない正直な結界だ。周囲の『見た目の呪縛』など、気にすることはない」


 雅人の言葉に、花はハッとした。確かに、周りの好奇の目に怯えるのは、「普通でいなければならない」という、花自身が作り出した呪縛だったかもしれない。雅人は、その呪縛から花を解き放とうとしてくれているのだ。


 花は深呼吸をし、背筋を伸ばした。雅人の真剣な愛が込められた呪いのファッション(愛の結界)を着て、花は前を向いた。


「…わかった。もう、気にしない。雅人、最高の誕生日プレゼントだよ」


 二人はしっかりと手を繋ぎ、堂々と街を歩いた。雅人の奇妙な美的センスも、彼が花を深く愛しているが故の行動だと理解し、花は再び彼の奇妙な日常を受け入れるのだった。


 家に帰ってから、花は雅人に改めて感謝を伝えた。


「ありがとう、雅人。でもね、私のクローゼットにあるのは『流行に縛られた未練の霊』じゃなくて、私のお気に入りのブランド服だから!勝手に処分しないでよ!」


「うむ。分かった。その服たちも、今度私がお祓いをして、『永遠に朽ちない気』を込めてやろう」


「だから、お祓いじゃなくてクリーニングでいいの!」


 二人は笑い合い、いつものように手を繋ぐ。陰陽師彼氏との非日常な日々は、これからも続いていく。

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