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「ダメだ」

「え、まだ何も言ってない」


部屋に入って早々、許可は降りなかった。

なんでわかったの。


「今回は危険度が高い。後継と決まってない貴族は船に乗ることになってる。そこまで深く行くんだ。例え陸地で私が守ったとしても、怪我をさせるわけには行かない」

「ケチ!」

「お前なぁ、他の貴族から魔法研究が進んでいるからと許可を得て成人もしてないお前を連れて行ったんだ」

「足手まといにはならないようにしてた!」

「気が散るんだ」


ただでさえ恐れられているアル兄様。

その妹が怪我でもしたらどうなるか…

確かに恐ろしいかもしれない。

でも今回の遠征は海。

生きた魔物の鱗にある波が見たいんだ。

死んでいる魚の鱗ではダメ。

食用の釣れる魚の鱗では精度が低い。

絶対に手掛かりになるのは強い魔物の鱗。


「前回連れて行ったろ。今回はなんでなんだ?」

「コホン、魔法は波だって言いましたよね。海の魔物が強い理由は、未知の場所に住んでいるから、と言われていますが私は魔法を使う感覚と泳ぐ感覚が似ているから、そう思ってます。海の魔物はスピード型が多い。なのに波は穏やかなのが多いんです」

「ごめん、魔法の波について理解はなんとなくなんだ。簡単に言ってくれ」

「魚って、2つの複雑な波に乗ってるんです。そして波は万物に存在する。私たちから流れる涙にすら存在します。鱗は身を守るんでしょう?防御魔法の研究に繋がります!」


ほんとに私に語彙力があればいいのに!

でもアル兄様も少し悩んだような表情を浮かべている。

いいぞ、これはいい流れ。

っていうか、19も結構子供なんだけどね!!

誰だよ17歳以上の貴族に遠征に行かせてるの!

世の中の価値観だよねあはは。


「いいじゃないか、それアル」

「お父様⁉︎」

「ただし、フェルと離れてはいけないよ」

「えっ、フェル兄様は船とかに乗るんじゃ?」

「無理を言おう」

「あぁあ!!まってお父様!それはわがままというやつです!」

「私が代わりに船に乗る」

「いや、いやいやいや、そこはあんたが守るって言えよ」

「だって、ボクの子、ボクより強いんだもん…」

「そんな事ないです!てか、アンジェよりも子供っぽいのやめてください!」


いつもの威厳はどこへやら。

家族のみとなるとこうなる父様は、息子2人に剣の技術を追い越されてしまったのが結構ショックらしい。

あの可愛かった2人はどこへと言いながらも、母様と話す時、2人の可愛い話をしているのをメイドからよく聞く。


「僕はいいよ。船酔いしたくないし」

「おいフェルーヒさんや、アンジェといたいだけだろお前」

「なんのことだか」

「大好きな姉様がいなくてまだ寂しいんだろ」

「図星をつかないでくれ兄様」

「それは私にも刺さります兄様」

「ボクにも…」

「こりゃ我が家の絆強すぎるな。そして私も寂しいからやめろみんな暗い顔するの」


手紙はよく書いているけど、それでも寂しいものは寂しい。

パーティが開かれれば直接会いはできるが、長時間話すことなど出来ない。

話せるなら話したい。

けど、うちの次男がモテるのがいけない。

私に話しかける人はいないけど、フェル兄様の女性避けとしての仕事がある。

さっさと意中の女性に告白して付き合えばいいのに。

姉様も姉様で忙しいみたいで、ずっと寂しい。


「まぁ、とにかくだ。フェルは船!お父様と私は陸!アンジェは……」

「ふーね、ふーね、ふーね」

「「「それは絶対ダメ」」」

「なんだこの家族仲良しかよ」

「はぁ…絶対に側を離れるなよ」

「えっ、アル兄様が近くにいてくれるの⁉︎」

「お父様は家主だ。仕事が多い。他の奴にアンジェを守らせるわけにもいかない。ただし約束しろ。絶対に危険なことはするなよ」

「うん!ありがとうアルにぃに!」

「ったく…」


軽く耳のそばでチュっと音を立てて部屋を出る。

大体うちの兄はチョロい。

だからちょっとしたご褒美。

にぃにと呼んでやると昔を思い出すそうで、嬉しそうに口角を上げる。

手で隠しているみたいだけど全然見えてるからねにぃに。


決まったならすぐ報告。

軽くお辞儀をして部屋を出て急ぎ足でミラに報告する。


「ミラ!いけた!」

「ええっ⁉︎旦那様、絶対アレリー様に怒られますね…」

「父様は賛成派だからね。アル兄様という強敵さえクリアしたら完璧」

「怪我なさらないでくださいね」

「任せて。さてと、遠征前にその場所のこと調べなきゃ」

「場所は私たちの国の南側の海で、ウェーマミ伯の領土です。そこの資料をお持ちしましょうか?」

「お願い」


ウェーマミ伯か。

パッとしない貴族の方で、剣の腕はそこそこ、だけどその息子が結構変な人だった気がする。

フェル兄様より年上で、目つき穏やかなくせに口が悪かった記憶がある。

うん、関わらない方が良さそう。

なにか面倒事を起こすつもりなんてないし。

でも、11歳の子供がどーのこーのって言ってきそう。

いやそれが普通なんだけど。

その時は兄様がきっと助けてくれるでしょ。


「お持ちしました」

「早かったね」

「あそこの海鮮料理美味しいんですよ。いつか食べて欲しいなと思っていまして」

「え、行ったことあるの?」

「家族旅行で。綺麗な海ですよ。アンジェ様の髪と、目と同じ青がいっぱいに広がって」

「私と同じ色なんて、上見ればずっとあるよ」


軽く3冊手に取り広げる。

白い砂浜、魔物の気配がなければ観光地って感じのところらしい。

危険な仕事であるが漁業が盛んで、この世界にしては珍しく平民が討伐ギルドを作って定期的に狩っている、か。

討伐ギルド…あー、いつか冒険者ギルドとか作りたいな。

ざ、ファンタジーって感じ。

でも、討伐ギルドがあるのに遠征場所として選ばれたのか。

少し引っかかるな。

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