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私が10歳になって、ようやく落ち着いた。
と言っても、神から手紙が来たからだった。
私の、前世の両親から。
『私たちの天使、____、元気にしている?貴女から手紙がなかなか来ないから手紙を書いたの。貴女から神様にお願いしたって言うのに。私たちは元気に過ごしています。貴女がいなくなってから3年、養子を取りました。貴女の代わりというわけではないけど、寂しくなっちゃってね。その子は貴女には似ていないけど、でも、貴女と同じく芯の強い子。どうか、そっちの世界でも貴女が強くあれますように』
『____へ、そっちのことはよくわからないけど、お前なら元気にしてると思ってる。母さんからの手紙の方がお前絶対先読んでるからわかると思うけど、養子を取ったんだ。お前と同じく頭が良いし、俺たちの将来安定だ。って言うのは冗談だ。お前のおかげでとっくに安定してる。ごめん言いたいのはそうじゃなくて、とにかく、お前を今でも愛しているんだ。俺たちの子であるお前にどうか幸せであってほしい』
『顔も見たことないお姉ちゃんへ、あなたのことは両親から聞いています。と言っても頑固者とも。あなたのおかげ、というのもあれですが、私はこの家に引き取られました。この家はとても平和で、愛に満ちている。わざわざ私の出自について言うつもりはないけど、私に取ってあの2人は恩人で、親です。なぜか私までこの手紙を書くように神様?に言われて、こうやって書いています。あの2人の子供であるあなたが、元気でいてくれたらと思います』
その手紙は読むとともに消えていった。
きっと、これは神がわざわざしてくれたことなのだと、養子の子からの手紙でわかった。
クズ神だけど、なんだ、私のこと気にかけてたんだ。
そう思うとなぜか頬が上がった。
いや、単純に2年もズルズルと引きずって、世界の成長を促す代わりに手出ししないっていう約束のためかもしれないか。
でも、日本語を全然使ってなかったせいで単語の意味がわからなくなるところだった。
もっと早く手紙を書けばよかった。
声をあげて泣いた。
いつも声を上げずに泣いていたからか、心配した姉がノックもせずに部屋に入って私を抱きしめた。
「どうしたの、アンジェ、怖い夢でも見た?」
心配されて、それで余計に涙が出た。
赤ちゃんの頃を思い出す。
何かを伝えたくて、大きな声を上げないと伝わらなくて。
今泣いているのは伝えたい事があるんじゃない。
ただ、胸の奥にあった苦しさを吐き出したかったんだ。
「リン姉様、わたしっ、私ね…」
「うん」
「もっかい、ごめんなさいって、伝えたいの、!」
「うん」
「それでね、一緒に、いて欲しくてっ…ごめんなざい、」
少し落ち着いてから話し始めたせいか、声がガラガラで息が荒い。
そんな状態でも言いたいと思ったことをすぐに伝えた。
私の精神年齢は高い。
でもこの世界に来てからは、まだ7年ほどしか経っていない。
引っ張られているのか、甘えたいのか、言葉遣いが幼いなと我ながら思った。
「じゃあ、しっかり相手の目を見て謝るのよ。貴族の女は心が強くないと」
「ゔん、」
「でも、謝るのは明日。勝負の時はお化粧をしないと。泣きすぎて目が腫れるだろうし、髪の毛もボサボサ。私がお風呂に入れてあげるわ」
メイド達も驚かせるために、2人だけでやりましょう、と、リン姉様は私をとことん甘やかした。
お風呂に入れたり、氷を持って来させて布越しに目を冷やさせたり。
まだスープしか喉に通らなかったが、それでもゆっくりと私に食べさせたり。
多分メイドや執事達は、私がしようとしていることに気づいたのだろう。
外はなんとなく騒がしくて、でも、姉様と私の空間には入って来なかった。
次の日、姉様が自分の化粧道具を持ってきて、簡単に私にメイクをした。
鏡に映る私は痩せ細って気持ち悪い。
でも、姉様のメイクはその気持ち悪さを消していった。
久しぶりのドレスにヘアアレンジ。
全部が懐かしくて、また涙が出そうになった。
「泣いても良い。メイクが崩れたって良い。家族の前ではプライドなんてものはなくていいのよ。ただ、やりたいことをしなさい。うん、やっぱりアンジェは可愛い」
頭にキスをされ、涙が引っ込む。
私が消した懐かしさ。
それを取り戻すために私は今から頑張るんだ。
そう思うと心が強くあれた。
部屋を出て父の部屋に行くと、謝りたい、そう思った人全員がそこにいた。
父様、母様、メイ、そしてあんな状態の私を2年間世話を焼いてくれた使用人達。
きっと、昨日の時点でこうなることがわかってたから、用意してくれたんだと思う。
あたたかな人たち。
また、ゆっくりと涙が出てくる。
わたしの波が大きく動く。
「本当に、ごめんなさい!」」




