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どうやら私はとある子爵の次女になったらしい。
8個上の長男、7個上の長女、5個上の次男と0歳の私。
両親はラブラブで私のことを可愛がってくれるし、兄たちもよく話しかけてくれる。
私はと言うと喋ることがまず出来ない。
言語がわからないのと、地毛と目が空と同じ青だと言うのがなんとも馴染めない。
てかこれ手紙どうやって書くんだ。
どうやって送るんだ。
そこら辺を創造主と話しておけばよかったなんていう後悔をしながら、母の乳を飲んでいく。
甘い声で撫でてくるため愛情を注いでくれているのはわかるが、この精神年齢で人の乳を飲むと言うのは気まずい。
ラノベ転生者ってみんなこれ経験しているのか?
ハイハイが出来るようになった時、ようやくママ、パパ、ニィニとネェネが分かるようになった。
呼んでやるとすごく喜んで抱っこしてくる。
悪くない。
前の世界の親以外、家族だと思えるか心配だったがそんなことはなかった。
ここの家は楽して幸せで満ちている。
立てるようになって、ある程度の言葉がわかるようになった。
兄はすでに後継者としての教育を受け、姉はとある侯爵との婚約が決まり、次男の方の兄は騎士を目指して剣の稽古をするようになってからは、母とばかりの時間になった。
正直に言えば寂しい。
いつもあった日常が消えると言うのは誰だって寂しいものだと思う。
でもそれだけ私と彼らでは歳が離れてしまっていると言うこと。
「母様!アンジェは?」
「おかえりリンジェ。そこで絵本を見てるよ」
「そっかそっか。読み聞かせしてあげる?」
「読み聞かせよりも、この絵はなんなのか、それを教えてあげて」
「わかった!」
残念ながら母様、姉様、私は記憶を受け継いでいる分精神年齢高いから大体はわかるよ。
文字も日本語で言うところの主語述語は大体わかる。
細かな分は流石にまだ時間がかかるけど。
でも実際まだ1年も経ってないのに絵本が読めたらおかしいか。
「この生き物はホーンベアって言ってね、とっても危険な魔物なの。鋭い爪と大きなツノ。見つけたら逃げなきゃダメよ」
「おーん、えあ」
「そう、ホーンベア」
ただツノが生えたクマじゃんか。
クマは恐ろしい生き物だけど、実はツノが生えただけのクマであれば対処法はある。
けど魔物って呼ばれてるってことは人を襲うのだろう。
まず人と魔物の関係を知らなければいけない。
絵本だけじゃやっぱり物足りないな。
3歳になり、大体の言葉と文字がわかった。
いろんな部屋を歩き回ったり、こっそり姉の授業に参加したり。
姉の真似っこがしたいのねとも言われたが、そんな事はない。
ま、別にそう思われたままの方が都合がいいか。
前世の記憶があって、私は神になりにきたと言ってもいいが、この世には加護というものがあるらしい。
絵本で知った。
得られる情報少ないと思ってた時期もあったが、全然そんな事はない。
転生したらまず絵本を読むことをお勧めしたいぐらい情報でありふれている。
教育本となる理由がよく分かる。
それで加護についてだが、神を見た、声を聞いたという人は大体加護を持っている。
数百年に1人とかで珍しいみたいだ。
御伽話ではよく見るけど。
それで加護についてだが、私は多分持っていない。
理由としては加護を持った人間は体のどこかに加護の模様が出るらしいから。
母やメイドに何度も裸体を見られているのに私が加護を持っているような反応はない。
だから転生した、と言っても信じてはくれないし、ただ子供が維持を張って嘘を言う図になる。
大きくなった時、黒歴史かのようにいじられるのもめんどくさいし。
「可愛い可愛いアンジェ、危ないから剣は触らないようにね」
「アルにいさま」
急に抱っこされたかと思えば長男のアルフリーヒだった。
大きくなってからは父の顔に似てきた。
毎日のように剣に触れ、技術を磨いている。
貴族というものは、年に数回程度の魔物討伐に行かなければならない。
それが貴族の役目。
11歳となるアル兄様は数年もしたら行かなければならない。
死なないために、国民を守るために。
「魔法、練習しない?」
「アンジェはもう魔法について知ったのか。賢いね私の妹は。じゃあ教えてあげよう。魔法は便利だけど、火を起こせる程度、水が出る程度、戦闘には使えない。魔法は庶民が使うものさ。私たち貴族にのみ剣が扱える。剣は攻撃できる。だから守っていかなきゃいけないんだ」
この世界はよくわからない。
よくあるファンタジーとは違う。
よく見るのは貴族が魔法を使い、平民が剣を使う。
才能ある者が魔法を使う。
この世界は、魔法という便利なものを使おうとする人がいなさすぎる。
「あ、魔法が使いたいのか?絶対に8歳になってからじゃないとダメだよ。アル兄様との約束だ」
軽く私の頬にキスをするアル兄様。
優しくて、あったかい人。
でもこの時だけはなんで使ってはいけないのだろうという疑問で言ったら笑顔で返事をするのに不貞腐れた顔をしてしまった。
アル兄様はその顔を見て困ったように笑った。
なぜ使ってはいけないのか。
その理由は私が5歳の時、知ることになる。




