最終話 強き心を以って
ついに、最終話です。
こうして、レジェンディラスとアビスウォクテラの民が一つになって組織された連合軍と、”8人の異端者“による戦いは幕を閉じる。
決戦の開始直後では7人いた敵も、一人の“行方不明”を除いて、討伐されたのである。一人の行方不明者―――――――それは、古代種の末裔であり、異端者のリーダーであるアギトだ。ただし、国の威信や各国の民を不安にさせない事も含め、「“8人の異端者”を全員討伐した“と、民衆には伝えられたという。
無論、勝利したとはいえ、その代償は大きい。ダークイブナーレの末裔であるヴァリモナルザと戦っていた竜騎士達の内、多くの竜騎士達が、海のもずくとなって消えた。また、“古代種の都跡”の海岸にいた土人形の攻撃や他の異端者達の攻撃もあり、ギルガメシュ連邦を主とする海軍に多大な犠牲が出たことは、いうまでもないだろう。
また、決戦を終えた後も、“彼ら”は後処理も含め、忙しい日々を送る。こうして、落ち着いた日々を取り戻すのまでに、3か月ほどの月日が経過したのであった。
「アレン」
「チェス…」
アレンが自身の名前を呼ばれて振り返ると、そこにはかつて共に旅をしていたチェスの姿がある。
「お前…兄貴達の手伝いはしなくていいのか?」
「あぁ…さっきまで手伝いをしていたけど、“今はここにいてあげてくれ”って、ビジョップ兄さんが…」
「そうか…」
チェスが少し憂いを帯びた表情で告げると、アレンはそのまま俯いてしまう。
その後、彼らの間に沈黙が続く。今、アレンがいる場所は、決戦の舞台にもなっていた”古代種の都跡“だ。彼は、作戦における最大功労者として各国から称賛を受けた。しかし、元より身内がいないアレンは、戦いが終わった後もこの地に留まる事にしたのである。
ラスリア…
アレンは不意に、ラスリアの名前を心の中で呟く。しかし、その名前を声に出して呼びたくても、当の彼女はアレンの側にはいない。
「ったく、男のくせに、何いじけているんだか…」
「…ミュルザか」
「あ…」
二人が黙り込んでいると、後ろから聞き覚えのある声が響いてくる。
アレンとチェスが振り返ると、そこにはミュルザともう一人の人物がいる。アレンは複数回会っているため慣れてはいるが、まともに会話をするのは初めてなチェスは、少し戸惑っていた。
「そう苛めるな、ミュルザ。愛する者を失った際の悲しみというのは、そうすぐに癒えるものではないのだから…」
そう告げながら悪魔を宥めたのは――――――――――右目下の痣がすっかりなくなったセリエルだった。
今から3か月前――――――“決戦”において、アレンとラスリアは、“血”を媒介にした大魔法を行使した。それは、“世界を滅ぼす最終兵器を無力化し、二度と使えない物に変異させる”魔法だ。その魔術は成功し、世界を滅ぼされる危険は回避したが、ラスリアは同時に“大魔法とは別の魔法”も行使していたのだ。
「私達は、やっと……やっと、普通の人間になれたのよね」
「…あぁ」
セリエルが憂いを帯びた表情で呟くと、アレンもそれに同調していた。
そんな今の二人には、互いの目下にあった“痣”が消えていたのである。ラスリアが単独で行った魔法とは、“鍵の役割を担う二人を人間にすること”という魔術だ。今までどの魔術師ですら、そのような術がある事は知らなかっただろう。それは、まさに“神”のような所業だ。しかし当然、その“神”の如き術にも、大きな代償はある。
「今、僕達にできるのは…彼女が無事に生命の連鎖にたどり着き、輪廻転生を繰り返している事を祈るのみ…なんだよね」
皆が周囲の景色を眺める中、チェスが呟く。
術の代償―――――――――それは、術者の“体内の時間”。すなわち、“寿命”だ。ラスリアは、自分の寿命と引き換えにその術を行使し、アレンとセリエルを人間にしたのだ。
兄であるラゼはきっと、ラスリアが“俺達を人間にする術”を行使するのを、わかっていた…のだろうな…
そう思うアレンの脳裏には、一瞬だけラゼの顔が浮かんでいた。
あれから、ラゼの部屋にあった大量の資料から、ある衝撃的な事実がわかる。
“ラストイルレリンドリア・ユンドラフは、”再生の巫女“としての役目を全うするために、過去から未来へと転送された唯一無二の娘である。彼女の役目とは、”星の意志“が創った最終兵器が使用されて世界が滅んだ後、生物の復興の中心となる事を宿命とされていた”。この事実を知ったアレン達や、同行していたウォトレスト達は驚く。そして、ラスリアが姿を消した理由の一つとして、“宿命に抗った報いではないか”と考える者も出たらしい。
「アギト…だったかしら。その古代種の男も行方不明になっているとしたら…おそらく、“ラスリアと共に元の時間軸に引き戻された”んだと、私は思うわ」
不意に、黙り込んでいたセリエルが口を開く。
「それは…”星の意志“から、聞いた話か…?」
セリエルの台詞を聞いたアレンは、彼女に視線を向けながら問いかける。
しかし、彼女は首を横に振る。
「これは、私が思う推測。アギトを含む“8人の異端者”達は古代大戦の後、“ストイムフィールド”…別名、“時止まりの空間”に幽閉されていた。その“空白の期間”があったからこそ、奴も姿を消した…と思っているわ」
「要は、”本来生きるべき時代へ、戻ったって事か…?」
「…そうね」
ミュルザがその場で呟いていると、セリエルは視線だけ横に向けてから同調した。
「ひとまず、アギトの事は置いておいて…アレン」
「ん…?」
セリエルに名前を呼ばれた途端、アレンは彼女に視線を移す。
「お互い、“愛する人”を失ったにせよ…ちゃんと生き抜いていかないと…ね」
「そうだな…」
アレンが同調した時、彼はセリエルの表情を敢えて見なかった。
俺にとっては、ラスリアが該当するが…。セリエルも、ナチ…という愛するべき相手を失っている訳だから……この“虚しさ”は、彼女も同じように感じているだろうしな…
アレンは、セリエルも自身と同じような立場であり、つらい想いをしているのを解っていたのだ。同時に、つらいからといってこれからの未来を諦める訳にもいかない。
そうして黙り込む二人を、チェスとミュルザは静かに見守っていたのであった。
時間は経ち、彼らが立っていた場所から夕陽が見えるようになる。これから夜になる事もあり、アレン達は移動をしなくてはいけない。
全員がその場を去ろうと足を進める中、不意にアレンはその場で立ち止まる。そして、彼が振り返った先には、今は崩壊したために中へ入る事はできないが―――――――――――“イル”が鎮座されていた神殿のような建物の跡が、彼の視界に飛び込んでくる。
「ラスリア…」
アレンは、不意に愛しい女性の名前を呼ぶ。
俺は…俺は、お前のお陰で、“心”を持つ“人間”となる事ができた。故に…お前が切り開いてくれた未来を、俺は精一杯生きようと思う…!!
そう強い決意をしたアレンは、先に歩き出したチェス達と共に、その場を去るのであった。
彼は、この先にどんな困難が待ち受けていようと、精一杯生きていくだろう。愛する女性から得る事ができた、強き“心”を以って―――――――――
<完>
いかがだったでしょうか。
最後は短めで呆気ないかもしれませんですが、この回で完結となります。
更新していなかった期間が長くて申し訳ないとは思いますが、この作品を最後までご一読いただき、ありがとうございました。
新作についてはまだ諸々を検討中ですが、プライベートや諸々が落ち着いたら、執筆できたらなと思います。
その際は、またアクセス戴けると幸いです。
それではまた、どこかで。。。
皆麻 兎