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ガジェイレル-Left-  作者: 皆麻 兎
最終章 決戦
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第50話 堕天使の思惑

今回は、アレン→チェスの視点で話が進みます。

「来たか…。だが、あれだけの大軍をこんな短い時間で…だと!?」

空の上では、海上に現れた軍艦と大空にいる竜騎士達を目にし、ヴァリモナルザが困惑していた。

「お前が、“8人の異端者”が一人…“ダークイブナーレ”の生き残り…だな」

気が付くと、彼女の視線の先には―――――――――チェスの兄であり、ウォトレストの精鋭の一人たるビジョップが、竜に跨った状態で現れる。

「うふふ…」

ビジョップ達の姿を目にしたヴァリモナルザは、不気味な笑みを浮かべる。

彼を始め、他の竜騎士達が槍を構えながらその場で待機していた。

「いずれにせよ、“あのお方”の邪魔はさせない…。例えこの身が滅びようとも…お前らもろとも、地獄へ道連れにしてやるわ…!!」

漆黒の竜騎士は、かつての同胞達に向かって啖呵を切る。

それを皮切りに、空中では竜騎士達の激闘が開始されるのである。


 古代種キロとデステニーロ族が唱えし、最大級の空間転移術…か

アレンは、陸上にいる土人形(ゴーレム) に立ち向かっていく軍人たちを見上げながら、そんな事を考えていた。

チェスが竜騎士(ウォトレスト)ならではの能力(ちから)を持って、黒い(ドラゴン)を弱らせる術の補助をしたのに対し、ラスリアがシアと力を合わせて詠唱した魔術――――――――それは、世界各国を一つの“空間”で繋ぎ、今いる場所に大量の物や人を連れてくる、最大規模の空間転移術だったのだ。

「以前、イブール姐さんに聞いた事があったが…。確か、“空間転移”の類も治癒魔法(キュア)と同様、並の人間じゃあ扱えないらしいぜ」

「だから、ラスリアとシアが…」

気が付くと、隣では地上に降り立っていたミュルザが、“その魔術”について語っていた。

それを聞いたアレンは、今回の人選が正しかった事を悟る。

「ラスリア…!!」

アレンが不意に視線をあげると、前方にいたラスリアの体がふらついたように見える。

そして、思わず倒れこんでしまいそうな所をアレンが駆け寄り、彼女を支える。

「…大丈夫か?」

「ごめんね、アレン。慣れない詠唱を成功させるために緊張していたから…安堵して、少し力が抜けただけ。…だから、大丈夫よ」

心配そうな表情(かお)をするアレンに対し、ラスリアは懸命に笑顔で返す。

何ともなさそうに振舞ってはいるが、彼女自身の体に負荷がかかっている事は、魔術師ではないアレンにも容易に想像ができる。

「お疲れ様でス」

「お前…」

穏やかな口調で声をかけてきたのは、この後に先導役を務めてくれる青年・クウラだった。

彼の手には、黄色い液体の入った紙コップが握られている。

「あぁ、これは変な薬品とかではナイですヨ。栄養分の高い果物の果汁が入った飲み物デス」

「あ…。ありがとうございまス、クウラさん」

クウラが紙コップを手渡すと同時に、ラスリアは片言ではあるが、ギルガメシュ連邦の言語(ことば)で、何かを口にしていた。

おそらく、彼女の事だからお礼を述べたのであろう。

「ラスリア、お疲れ様!」

気が付くと、俺らの前には、同じようにして役目が一旦終わったチェスの姿がある。

また、彼の手にもラスリアが持っているのと同じ紙コップが握られていた。

「ラスリアが飲み終わる頃には…陸に到達するよ。だから、二人共準備を怠らないでね」

「そんなもん、言われなくてもわかっているぜ?ガキんちょ!」

チェスが真剣な眼差しで述べる中、ミュルザが茶化すような言い方で彼に告げる。

 いよいよなんだな…!!

俺は、海の上から“大砲”を撃ち込み、土人形(ゴーレム)を撃破していく各国の軍艦を見つめながら、“決戦”ともいえる作戦が開始された事を実感していた。



「皆サン、こちらでス…!!」

陸に到達した後、クウラが先導して進み始める。

その後をアレン・ラスリア・僕と、一番後ろにはミュルザの姿がある。それは、“背後から奇襲があっても対処するため”という意味で決めた陸上での進み方だ。

 思いの外、魔物の気配がないのは幸いだったかもな…

そんな事を考えながら、チェスは前へ進む。

今、彼らが進んでいる場所は、海辺を過ぎた先にある森の中だ。生き物の“気”を感じ取れるチェスは、周囲を警戒しながら進むことで魔物の気配を探していた。それは、“この場所”がレジェンディラスでいう“未開の地”であったというのも、警戒する理由の一つだ。

「それにしても…あの土人形(ゴーレム)は、凄かったわよね」

「だな…。もし、味方がいないまま上陸していたら…あっという間に俺達は殺られていたかもしれない」

一歩ずつ前へ進める一方、歩きながらアレンとラスリアが話していた。

一方で、先導するクウラは、何も口に出さないで黙ったまま進む。

 あれ…?

その後数分ほど僕達は進み続けたが、何か違和感を覚える。

チェスが感じていたのは、“妙に空気が澄んでいる”という事だった。ここが“星の意志”に近い場所だからという事もあるだろうが、妙に“洗練”された雰囲気に何とも言えない気分を味わっていた。

「あ…」

チェスが振り返った時、当然ではあるがミュルザと視線が合う。

同時に、彼が所有している“あの武器”の存在がチェスの脳裏をよぎる。

「…成程。そういう事か…」

僕の視線に気が付いたミュルザは、フッと嗤う。

「ミュルザ…!?」

その後、彼が“嘆きの鎌”を取り出した事で、ラスリアが目を丸くしていた。

また、“嘆きの鎌”を知らないクウラは、余計に動揺していただろう。

「伏せて!!」

僕は、悪魔(ミュルザ)が腕に力を込めた途端、皆に向かって叫ぶ。

チェスの台詞(ことば)を聞いたアレンやラスリアは、その場でしゃがみこむ。また、台詞(ことば)の意味はわからなくても、何かを察したのか――――クウラも、その場でしゃがみこむ。

「ひび…だと!?」

ミュルザが“嘆きの鎌”を振った先にある何もない空気中に、卵の殻に入るような亀裂が現れる。

それを目の当たりにしたアレンが、目を見開いて驚いていた。

「…成程。それが噂に聞く、“嘆きの鎌”…。それを使って、わたしの結界を斬り捨てた…という事か」

「お前ハ…!!」

発生した亀裂が周囲に広がり、硝子が割れるような音と共に見知らぬ男の声が響く。

一方、その姿を視認したクウラは、目を見開いて驚いていた。チェス達の前に現れたのは、金髪金眼で背中に白い翼を持つ男―――――――“堕天使”ミトセの姿だった。

 こいつが、“堕天使”ミトセ…!!

8人の異端者の内、初めてミトセと正面から対峙したチェスの体は僅かに震えていた。人でも魔物でも悪魔でもない存在(もの)に対する、恐怖ともいうべきものか。それに対して、チェスの体が反応していたのだ。

「あぁ、そうさ。故に、この鎌は…俺ら悪魔以外ならば、何でも斬れるぜ…?」

そう告げながら、ミュルザは鎌の矛先を堕天使に向ける。

表情こそ笑っているものの、ミュルザの()は笑っていない。

「チェス…クウラさんが“何故、結界の存在に気が付いたのか”ですって…」

「ラスリア…」

気が付くと、クウラの台詞(ことば)を直訳したラスリアの声が聞こえていた。

「…いくらこの場所が“星の意志”に近い場所とはいえ、妙に”空気が澄んでいる“な…って感じたんだ。それと、森ならではの生き物の”気“が一切合切感じなかったから…って、クウラに伝えて」

僕がそう述べると、ラスリアは深刻な表情を浮かべながら、クウラに今言った台詞(ことば)を訳してもらう。

「竜騎士の一部族・ウォトレストの子供…か。(ドラゴン)を携えていないから雑魚かと思ったが、この場にいるのも納得ができるわけだ」

気が付くと、ミトセの視線がチェスの方に向いていた。

そして、敵は“敵意”というよりは、何か感心しているように見える。

 いや、平静を装っているようで…そこに一切の隙がない。これは、まずい(やつ)に遭遇してしまったな…!!

チェスは、そんな事を考えながら槍にかけていた布を外す。

気が付けば、アレンも鞘から剣を取り出していた。

「キロの娘…」

すると、ミトセの視線は、今度はラスリアに向いていた。

彼らとて、“ガジェイレル”であるアレンの近くに、古代種(キロ)の末裔であるラスリアがいる事ぐらい、百も承知のはずだ。しかし今対峙している敵は、何か考え事をしながら彼女を見つめているように見えた。

「いずれにせよ、貴様ら雑魚どもにわたしは倒せない。…そこの悪魔を除いてはな…!!」

「ミュルザ…!!」

ミトセが一言告げると同時に、チェスの叫び声が響く。

気が付くと、ミトセは僕らの一番後ろにいたミュルザに対して、何かを突き付けている。また、一瞬の出来事とはいえ、ミュルザもその攻撃に対し“嘆きの鎌”で何とか防御をしていた。

「アレン!!」

突然、ミュルザの叫び声によって、アレンが反応する。

気が付くと、攻撃を弾いたミュルザは、少し離れた木の近くに立っていた。また、彼の手首には浅くはあるが、切り傷が見える。

「光の剣…?」

ミトセが手にしている得物を見た途端、クウラが不意に呟く。

「こいつも言ったように、今、この場でまともに殺りあえるのは俺様しかいねぇ…!!だから、そのクウラって餓鬼と一緒に、先に行け!!」

「ミュルザ…!!」

その必死そうな物言いに対し、ラスリアが声を張り上げる。

「ラスリアちゃん…君も、アレン達と行け!!“為すべきこと”を果たすんだろう!!?」

「…っ…!!」

ミュルザの意味深な台詞(ことば)に対し、ラスリアは動揺を見せる。

「…いくぞ!!」

そう告げたアレンは、ラスリアの腕を掴み走り出す。

「くっ…!!」

それに気が付いた僕やクウラも、彼らに続いて走る。

 あれは、おそらく…悪魔ですら消滅させられる光の剣!!ミュルザ…あんな所で消滅とかしないでよ!?

僕は心で強く願いながら、その場を後にする。


そうして走り続けた後、チェス達は海岸近くの森を抜ける。そこには、以前にクウラが話していた通り、“古代種の都跡”と思われる遺跡地帯のような場所にたどり着く。

「ラスリア…大丈夫か?」

心配そうな表情(かお)をしながら、アレンはラスリアの背中をさする。

「ラスリア…どうしたの…!?」

僕は、彼女の顔を正面から見て、その異変に気が付く。

ラスリアは涙を流していたのか、黒い瞳が潤んでいる。また、事態が呑み込めていないクウラは、一旦そこで立ち止まる。

彼の台詞(ことば)の意味はわからずとも、雰囲気からして「少しだけ休憩をしよう」という話だったのだろう。

 幸い、敵らしき気配は本当にない事だし…。休憩するなら、今がうってつけかもね

僕は周囲を見渡しながら、敵らしき“気”を感じられないことから、先程の森よりは安全であることを悟る。

「皆…ごめんね。こんな大事な時に…」

すると、少し気分が落ち着いたラスリアが、申し訳なさそうな表情(かお)で告げる。

「それは構わないが…どうしたんだ?」

アレンが心配そうな表情を浮かべながら、ラスリアに尋ねる。

そして、出そうだった鼻水を何とか堪えたラスリアは、僕らに視線を向けて口を開く。

「きっかけは…多分、あのミトセと目が合った時だと思う。卵の殻が割れて中身が飛び出したかのように…“一時的に忘れさせられていた事”を思い出したの」

「“一時的に”…?」

その物言いに対し、チェスは思わず首を傾げる。

その後、彼女の口から思いもよらぬ事が語られる。2つの世界が統合された後――――ウンディエル様が彼女の気配を察知し、僕達が彼女を保護するより前に起きた出来事の話だった。

彼女は僕と再会する前に一度、アビスウォクテラの青年に一度助けられたらしい。

そして、彼と少し行動を共にした後―――――向かった先の町にて、“宣戦布告”と称して現れた“堕天使”ミトセと魔術師のコルテラと遭遇した。その過程でどうやら、ミトセがラスリアの記憶を、一時消去したらしい。

「ミトセは何を思ってやったかは知らないし、自然的現象かもしれないけど…。彼と目が合った際、その男性(ひと)と遭遇した時の事を思い出したわ。トキヤ博士によく似た、黒髪の青年…」

「…Mr.Tokiya…!!?」

ラスリアが語る中、独りの学者の名前に反応していたのは――――――先程からずっと黙って聞いていた、クウラだった。

「クウラさん…?」

その動揺ぶりは、今までだと全く見たことないくらい困惑した表情(かお)を見せている。

不思議に思った僕は、彼の方に視線を上げていた。

その後、ラスリアによる同時通訳も併せて、話は続く。ミトセが何故、ラスリアの記憶をいじったのか。話を聞く中で思い浮かんだ疑問の答えを、クウラが持っていた。

ラスリアが思い出したという青年――――――――ナチ・フラトネスとは、トキヤ博士の息子にして、“8人の異端者”に殺された人間のようだ。しかも、その青年は“もう一人のガジェイレル”―――――――ラスリア曰く、“セリエル”という女性と親しき間柄の青年だという事実だった。

 今は亡きナチという人間と、ラスリア…“二つのガジェイレル”に接点を持つ二人が遭遇した事実を、ミトセは隠したいと思っていた…という事かな…?

話を聞いている中でチェスは、この中では最も“第三者”と云える立場の者としてその話を聞きながら、堕天使の思惑について考えていたのである。



いかがでしたか。

”最終章”に突入し、多分一番落ち着いた回ともいえたかもしれないです。

ひとまず、”ラスリアとシアが詠唱した魔術”について書けてよかったなーというのと、

やっと”Right”との繋がりを書けた事に対してもホッとしている皆麻でございます。

最も、チェスが考えている事も推測にすぎないため、当の本人であるミトセは何を考えてラスリアの記憶を消していたかの真意が判明する事はないでしょう。

ただし、ラスリアとナチという二人の人物の遭遇が本当に”運命の悪戯”といえる偶然の出来事だったので、ここで両作品の繋がりと深みを御理解いただければ幸いです。

さて、今回はミュルザは先に戦闘を開始しましたが、次回以降の方が荒れる可能性高いです。

筆者としても、あと何回で最終回にたどり着けるかわかりませんが、もう少しお付き合いいただければなと思っています。


ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。


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