表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガジェイレル-Left-  作者: 皆麻 兎
第8章 打開策を求めて
47/54

第46話 高鳴る鼓動

今回は、チェス→ラスリア→アレンの視点で物語が進みます!


「イブール…。大丈夫かな…?」

アレンとチェス。そしてラゼの3人で進む中、チェスがポツリと呟く。

「ん…?」

「チェス…」

この時、ラゼは後ろに振り返り、彼の横にいたアレンはチェスを見つめていた。

 あのモーゼ…っていうおじさんを見たときのイブール…。感じる気が相当禍々しくて、怖かった…。あれは、まるで…

「あの人間が、僕らの元へ戻ってくる頃には…おそらく、目的を果たしているんだろうね…」

「え…?」

チェスが考え事をしていると、ラゼが深刻な表情(かお)をしながら一言口走る。

「…どういう意味だ?」

「…これは、僕の憶測に過ぎないけど…。あの人間が悪魔と“契約”する理由なんてのは、大体想像がつく…。先程の相当激しい邪気には、驚かされたけど…ね」

鋭い視線で睨みながら、アレンはラゼに問いかける。

一方でラゼは、そんなアレンにも動じる事もなく淡々と話すのであった。

 もしかして…僕が、険悪な雰囲気を作っちゃった…かな?

周囲の空気があまり良くない状態になったため、チェスは挙動不審になる。

「そうだ…ラゼさん!僕、貴方に訊きたいことがあったんだ…!」

チェスは、この場を何とかしようと話題を変えることにした。

「…なにかな?」

ラゼは、少し落ち着かせた状態で口を開く。

 …やっぱり、僕が話をした方が、この男性(ひと)もいろいろ話してくれそうだな…

チェスは、自分達ウォトレストが彼らを認めているように――――古代種“キロ”であるラゼも自分達の事を認め、信用してくれていることが解って少しだけ安堵した。

そして、真面目な話である以上ちゃんとした状態で話さなくてはと考えたチェスは、その場に立ち止まり真剣な表情になってから口を開く。

「僕達ウォトレストは、古代種(あなたたち)のように、生き物の気…さしずめ、オーラを感じ取れることはご存知ですよね?」

「…うん、知っているよ。それがどうかしたの?」

ラゼは、落ち着いた表情で答える。

一方で、チェスは緊張感が強くなるばかりだ。

「貴方と同族であるラスリアと一番長く過ごしてきたのは…一族の中では、僕一人だけです。だから、気がついたのかもしれませんが…」

「…回りくどいね。君は、何が言いたいの…?」

チェスの言い回しに対し、ラゼが少しばかりか苛立ちを見せる。

そんな2人のやり取りを、アレンは黙って見守っていた。

「ラゼさん…。貴方は“二大魔術”を使えるほどの術者だから、自分から発せられる“気”を操る事も可能なはず…。例えば、人間でも双子なんかはどちらも同じ“気”を感じる。一方で、貴方は全く別人のように気を操っているが…ほんのわずかな分だけ、ある人物と同じ気を感じました」

「おい、チェス…。それって…」

長々と語るチェスに、アレンが途中で割って入る。

「…貴方とラスリアって、もしかして…」

「…言うな!!!」

チェスがその先を告げようとした瞬間、ラゼの叫び声がそれを遮る。

その荒々しい叫び声を聞き、チェスは自分の仮説が正しい事を確信した。

「チェス……だったっけ?」

「あ…はい!」

数秒ほど、彼らの間に沈黙が流れた後―――――――――突然、ラゼが口を開く。

「君の想像通り…だよ。ただし、“この事”は、胸の内に収めておいてくれないかな…?僕ら古代種の問題でもあるし…何より、彼女は“この事”を知らないから…」

そう述べながら、ラゼは周囲にある崩れた家屋を見つめる。

彼が持つ紺色の髪が風で靡く中、その表情は切なさが垣間見えていた。

「…そろそろ行こう。このままでは、“奴”が彼女に何をするか…わかったものじゃないからね…」

そう呟いた後、ラゼは再び歩き始める。

彼が意味深な台詞(ことば)を口走ったにも関わらず、チェスは先ほど自分が持ちかけた話について考えていた。

 どうしてラゼは、“あの事”をラスリアには黙っているんだろう…?

不思議そうな表情(かお)をしながら、チェスも再び歩き出すのであった。


          ※


「はぁ…はぁ…はぁ…」

チェス達が”古代種の都跡”を進んでいく一方————アギトの元から逃げ出したラスリアは、見知らぬ場所で立ち尽くしていた。

「ここまで来れば…追いつかれない…わよ…ね…」

息切れをしながら、ラスリアは周囲を見渡し始める。

 …最初に来た方向とは、逆に走ったつもりだったけど…。ここは一体、どこなのかしら…?

周囲の見知らぬ風景を見渡しながら、ラスリアはふと考える。

「…!?」

数分程呆けていた後―――――――突然、ラスリアの心臓が強く脈打つ。

「あ…れ…?」

何かに導かれるように、ラスリアの足が勝手に進みだす。

そして、彼女が最初に立っていた建築物の入口のような場所から、更に奥へ奥へと進んでいた。ラスリアが進んでいく先の周りでは、さんご礁のように色鮮やかな大理石の柱が多く存在する。まるで、神殿のような雰囲気を持つ場所であった。

「ここ…」

数十分程歩くと、ラスリアは大きな広間のような場所に到達する。

彼女の視線の先には、玉座のようなモノが見えていた。

「私…」

その玉座を見た瞬間、ラスリアは困惑した表情になる。

 私…この場所を、知っている…?

初めて訪れるはずなのに、一度その場所に自分がいた事があるような感覚を覚える。

『ラスリアよ…』

「えっ…!!?」

その瞬間、ラスリアの頭の中に謎の声が響いてくる。

 この声…あの時の…!!?

ラスリアは、自分が眠りから覚めた直後に聞いた声と同じ(もの)だという事に気がつく。

「さっきも聞こえた、この声…。貴方は一体…?」

ラスリアは、頭を抱えながら声の主に問いかける。

『そなたの肉体が感じているように、ここはそなたが一時期育った場所…。しかし…今、我が伝えたいのはそのような昔話ではない…』

「伝えたい事…?」

声の主の話を聞きながら、ラスリアは首を傾げる。

『ラストイルレリンドリア・ユンドラフよ…。そなたは、生まれながらにして“宿命”ともいえる大事な役割を担っている…。あの2人の“キロ”と同じく…だ』

「それは、一体…?」

問いかけるような口調になるラスリアだったが、声の主が自分の疑問に答えてくれないのは、先程の事でわかりきっていた。

しかし、なぜ声の主が自分の本名を知っていたのかを気になることはなく、ただその声に耳を傾けていた。

『話そう…。そなたが持つ、“宿命”を…!』

この台詞(ことば)を皮切りに、ラスリアは声の主から重大な事を聞かされるのである。



「…ここが何処だか、思い出せたか?」

「!!!」

声の主から話を聞いてから数十分後――――――ラスリアの背後から、聞き覚えのある声が聞こえる。

ラスリアがすぐさま振り返ると、そこにはアギトの姿があった。

「貴方が…」

ラスリアは、アギトを見つめたままその場で立ち尽くしていたのである。

 私が生まれてきた理由…

ラスリアは、声の主から聞かされた話によって呆然としていた。そんな彼女に構うことなく、アギトは彼女の近くまで歩いてきてから口を開く。

「ここは、本来…わたしが座るべき場所だった…」

「え…?」

アギトは、右手で玉座に触れながら話を続ける。

「…君に見せたかったモノの2つめが、この場所…。我らは、“キロ”を統べる王族の者であった…」

「…やっぱり、貴方も私と同じ…」

ラスリアは、アギトを見つめながら不意に呟く。

声の主は、アギトが何者かとは教えてくれなかったが――――彼が自分と同じ古代種の末裔であることは、話を聞いていて明らかであった。

「自己紹介が、まだだったね…。わたしは、アギラストリュエ・ゴナセイル。…通称“アギト”」

「…“8人の異端者”のリーダー…?」

「…人間共は、そう捉えているみたいだね」

「“みたい”…?」

ラスリアは、下から覗き込むような表情でアギトを見上げる。

その視線は、疑いの眼差しをしていた。

「…知っての通り、我々が“救済”を始めた張本人だ。しかし、“愚かな連中を救済する”という利害が一致しただけ…。我々の間で、“情”などない」

そう語るアギトは、最初に会った時よりは生き生きとしたしゃべり方をしていた。

 “救済”…って、古代大戦の事を言っているのかしら…?

ラスリアはアギトの主観的な語りに対し、戸惑いながらもおとなしく聴いていた。

すると、男はラスリアの方を向いて、再び語りだす。

「我々は、常に相手に疑いを持ちながら行動を共にしてきた…。ミトセが君の記憶をいじり、過去に1度だけ遭遇していた事を報告しなかった事実(こと)がいい例だな…」

「…あの金髪の天使が、私と…?」

ラスリアはその台詞(ことば)を聞いた途端、不思議そうに首を傾げる。

 あの男性(ひと)とは、ここで初めて会ったはずのような…?

ラスリアの表情は、戸惑いでいっぱいになる。それを見かねたアギトは、フッと哂いながら再び話し出す。

「…なに、大した記憶ではないから気にする必要はない…。それより…」

「それより…?」

その言葉の後――――周囲の空気が変わったような感覚に、ラスリアは陥る。

「…っ…!?」

ラスリアはアギトの顔を見つめた途端、表情を一変させる。

穏やかそうな表情は、いつしか狂気に満ち溢れた表情(かお)へと変貌していた。

「ラスリアよ…。わたしは、この世界を“浄化”し、我ら一族の再興を果たしたいと考えているのだよ…!!」

その狂気に満ちた表情で語るアギトを見た途端、ラスリアは悪寒を感じる。

「浄化…?」

「…我々“キロ”は、“星の意思”に従って生きてきた…。しかし、奴は我らを見放したのだ…。最初は絶望したが、最終的に“良い事”を思いついたのだ…!」

「…っ…!!!」

遠まわしな言い方ではあるが、アギトの台詞(ことば)を聞いたラスリアの脳裏に嫌な仮説がよぎる。

 この男性(ひと)が言っている事って、まさか…!!?

この時、ラスリアの心臓が強く脈打っていた。

「わたしは、思いついた!…奴が自ら創り出した玩具(おもちゃ)を使って、自滅するという運命(みち)を…!!」

「…!!!」

恐怖の余り、ラスリアはその場で固まる。

 声の主が言っていた、世界を滅ぼす最終兵器(ファイナルウェポン)…。本当に、この人達は……世界を滅ぼそうとしているのね…!!

数少ない同胞が、世界を滅ぼす――――――――すなわち、”ガジェイレル”であるアレンやセリエルという“もう一人のガジェイレル”を犠牲にするという考えを持っていたことに対し、ラスリアは憤りと同時に哀しみが広がりだす。

同時に、それは「正しくない事だ」と言い聞かせている自分もいた。

「この場所に来て…何となくだけど、ここで過ごした感覚が思い出されてきた…。私は、まだ幼かったから曖昧だけど…。人間という名の大軍が、この地に襲い掛かってきたことは…身体が覚えているみたい…!」

ラスリアは掌を胸に当てながら、その場で呟く。

「…その感覚こそ、人間を滅ぼす力になり得る“想い”だ…!!今こそ、我ら一族の恨みと屈辱を晴らすのだ…!!」

アギトは、まるで演説するかのように語る。

「これ…は…!!?」

すると、アギトの台詞(ことば)に呼応するかのようにして現れたモノに対し、ラスリアは目を丸くして驚く。


          ※


「何これ!!?気味悪い…!!!」

アレン達は、古代種の都跡の最深部の方へ辿り着きつつあった。

すると、何かを目にしたチェスが、怖がった表情をしながら声を張り上げる。そんな彼らの周囲には白い浮遊物が漂い、物凄いスピードで奥の方へと向かっていく。

「彼らは、僕の同胞…。はるか昔に死した、キロの魂達だよ…」

「数千年が経過しているのに、まだ彷徨っている…という事か…?」

アレンの台詞(ことば)に対し、ラゼは黙って頷く。

「アギト…あの男、まさか…!!?」

「あっ…ラゼさん!!?」

ラゼは不意に何かを呟いた後、思い出したかのように突然走り始める。

そんな彼を見たチェスは、急いで追いかけ始める。

「…っ…!?」

アレンも、彼らを追って走り出そうとしたときだった。

急に、彼の心臓が強く脈うったのだ。

「なんだ、このかんじ…!!?」

何かの予兆を示しているような心臓の高鳴りに、アレンは驚きを隠せない。

 何故だろう…。何か、嫌な予感がする…!!?

アレンの中に、一筋の不安がよぎる。

「今は…」

“今はラスリアを救い出すことが先決”―――――――――――そう考えたアレンは、先に走り出したラゼやチェスを追うため、自身も走り出すのであった。

 



いかがでしたでしょうか?

今回は、”8人の異端者”のリーダーであるアギトの台詞が結構多かったですね。

ラゼとアレン・チェスのやり取りもですが・・・。

彼らが問いかけた、ラゼとラスリアの関係・・・。もちろん、ちゃんと語られますが、今の段階ではご想像にお任せします★

話が淡々としたかんじかもしれませんが、最終回へと向かいつつある今作。

次回はどうなるか・・・!?


ご意見・ご感想をお待ちしてます(^^

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ