表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガジェイレル-Left-  作者: 皆麻 兎
第7章 団結する彼らに迫り来る絶望
41/54

第40話 敵をよく知るために

今回は、アレン→ミュルザ→イブールの視点で進みます。

コロコロ変わってわかりづらいかもしれませんが、話をより具体的にするためにも、ご了承ください。

「おはよう、アレン」

「あ…ああ…」

ラスリアがアレンに挨拶をする。

 メッカルに来て、もう1週間か…

アレンはゆっくりと起き上がりながら、ふと考え事をする。

イブールの師・ロレリア教授や、ストの村で出会った学者達と行動を共にしてから一週間が経過していた。イブールはロレリア教授の助手という形で、“8人の異端者”討伐作戦の会議に参加をしている。チェスもまた、竜騎士にコンタクトを取れる唯一の人物として、共に参加をしていた。

「おはようございまス。アレンさん、ラスリアさん」

「おはようございます。クウラさん!」

ノックと共に部屋の戸が開き、ラスリアは、入ってきた人物に挨拶をする。

このクウラという青年を見たアレンは、軽くため息をつく。

 ラスリアが「アレンが敵に狙われている」と公言したのをきっかけに、彼に護衛がつくことになった。また、ラスリアが古代種ということもあってか単純に人手不足なだけなのかは不明だが、このクウラという青年がラスリアの護衛も兼任している。

「それにしても…この施設の方々って、ほとんどの方が私の名前を間違えるんです!確かに、私はシアそっくりだけど…」

「あはは…。まぁ、アビスウォクテラで歌姫シアは有名だしね!しかも、声まで彼女と似ているときたものだから…」

部屋に入ってきたクウラとラスリアが、外見に関する会話をする。

「なぁ、そういえば…一昨日くらいから、ミュルザの奴がいないよな?」

「そういえば…」

「自分も詳しくは知らないデスガ…。その方は時折、敵陣への偵察をしているとカ…」

「あいつが…?」

人間に興味を持たないミュルザがそんな事を自分からしているなんて、アレンは不思議な感覚を覚える。

 おそらく、イブールの命でもあるんだろうな…

アレンは、部屋の扉を見つめながら考え事をしていた。

「さて…。今日こそ、連れて行ってくれるんですよね?」

ラスリアがクウラの方を向いて、話を切り出す。

彼は意表を突かれたような表情(かお)をするが、すぐに真剣な表情になって口を開く。

「そうですね。あなた方は一般人…しかも特別な客人なのもあって、許可をもらうのは大変でしたが…。とりあえず、向かいましょうか!」


 部屋を出たアレン・ラスリア・クウラの3人は、“ガシエルアカデミー”本部の建物内に存在する資料庫へ向かい始める。

「問題ないと思いますが…一応、ガシエルアカデミーの資料庫はジェンド博士のようなアカデミーの人間でも、許可が必要とされる場所。くれぐれも、ここに入った事は他言しないでくださいネ?」

「ああ…」

「わかりました!」

クウラから念を押されたアレンとラスリアは、揃って首を縦に頷く。

 俺達の世界と比べ、古代大戦後も文明が生きていたアビスウォクテラ…。そこに存在する文献は、俺達が知っている文献(モノ)とは内容が異なるはず…。何か敵を知る上での手がかりとなればいいが…

アレンが歩きながら考え事をしていると、3人は資料庫に到着する。

「ここには、アビスウォクテラの歴史や古代大戦前の時代について書かれた文献があるらしいですが…。それにしても、すごい量ですネ…!」

空間を埋め尽くす程ある書物の量に、一同は目を見張る。

「“8人の異端者”…奴らの事については、古代大戦前後を探せばいいんだな?」

「…そうね!いろいろと探してみましょうか!」

アレンとラスリアがそう口にしたのを皮切りに、彼らは資料探しを開始するのであった。


          ※


 アレンとラスリアが資料庫にこもり始めた頃――――――単独行動をしていたミュルザは、黒い翼を広げて大空を羽ばたいていた。

「やっぱり、一人で飛んでいるときが一番気持ちいいぜー!!!」

漆黒の翼を羽ばたかせながら、ミュルザは気持ちよさそうに叫ぶ。

 …イブール姐さんの命令とはいえ、面倒くさい仕事だが…。こういう時間があるのなら、意外と悪くないかもな!

ミュルザは心地良さを感じながら、ふとそんな事を考えていた。

「うし!到着…!」

目的地に到達したミュルザは、翼を収容し一瞬で地に足をつけた。

ミュルザがメッカルを出発したのは、目的地へ到着した現在(いま)の前日。そのため、飛行時間は丸一日かかっている。しかし、世界地図から見て北西に位置するメッカルから、この世界地図の中心に当たる場所を徒歩や交通手段を使った場合、一日で到着などまずあり得ない。

この速さを見込まれたためか、イブールに敵陣への偵察を頼まれたのである。

「それにしても…レジェンディラスで“未到の地”であった場所に、アビスウォクテラでは人間の街があったとはな…」

歩き始めたミュルザは、周囲に広がる崩壊した街を見つめる。

 これだけぶっ壊れているのは、世界統合で衝突(ぶつかっ)たせいか…

崩壊した建物や地面に横たわっている人間達の死体を見つめながら、考える。少しずつ歩いていくミュルザは、自分の視界に見慣れない物体(もの)が入ってきたのを感じる。

「なんだありゃ!!?」

その正体を知ろうと、彼は光速でその近くまで進み、見晴らしが良さそうな大木の頂上に上る。

そこから下の景色を見ると――――悪魔であるミュルザですら、見たことのない建造物(もの)が存在していた。

「一見したかんじだと、遺跡…。だが、ちっこい建物跡から見ると…人間の都市跡か…?」

()に見える「それ」を眺めながら、ミュルザは独り呟く。

 500年前に、両世界にある“この場所”を1回訪れた事があるが…どちらにも、こんな場所はなかった。“これ”は一体…?

しかし、考えても結論が出なかったミュルザは、この都市跡の近くに存在する”8人の異端者”達の根城(アジト)へ向かおうと考え、歩き出そうとしようとした矢先の事だった。

「あそこは、古代種共の都市だった場所だ」

「…っ…!?」

ミュルザの背後から、図太い声が聞こえる。

その声とほぼ同時に、ミュルザは後ろへ振り返る。そこにいたのは、黒い髪と銀色の髪を持つ男性だった。

「プライドンじゃねぇか!全く、ビビらせんじゃねぇーよ!」

気配すら感じ取れなかった存在(もの)が自分の顔見知りだと知り、ミュルザは安堵する。

「久しぶりだな…!前回会ったのは…150年前くらいか?」

「さぁな…。だが、こんな場所で同族に会うとは思いもしなかったな…」

機嫌よさそうな口調で話すミュルザに対し、このプライドンという男は淡々と話す。

当然のことながら、ミュルザを“同族”と呼ぶ彼もまた、悪魔であった。

「まぁ、とりあえずは本題に戻るとして…」

久々の会話から一息つかせたミュルザは、改めてプライドンの顔を見る。

「古代種って…あの“キロ”の事だろ?…どうして、2つの世界に存在しなかったモノが存在するんだ?」

ミュルザが問いかけをすると、黒髪の悪魔はその場で黙り込む。

そして、ため息をついた後に口を開く。

「おそらく、誰かが“星の意思”に語りかけ、術か何かを使ってこの世界に引っ張り出したんだろう…」

「“星の意思”かよ…」

その台詞(ことば)を聞いたミュルザは、しかめっ面をしながら自身の髪を右手でかき乱す。

そして、彼らの間で少しの間だけ沈黙が続く。悪魔族は、世界を創造した“星の意思”とそれに関連する者に関わることを嫌う。悠久の時を生きる悪魔族(かれら)であったが、“星の意思”関連のことは、全くといっていいほど知識がない。

「ミュルザ…」

「あぁん?」

長い沈黙が続く中、最初に口を開いたのはプライドンだった。

「あれに関係するかはわからないが…」

「あん?」

首をかしげるミュルザに対し、プライドンは淡々とした口調で話す。

「この近くにいるであろう、“8人の異端者”と呼ばれた者達…。彼らを統べる奴が、古代種の男らしい…」

「は…!!?」

思いがけない事実を聞いたためか、ミュルザの表情(かお)が一変する。

 俺がここ数百年で見かけた古代種は、ラスリアちゃん一人…。まさか、あの嬢ちゃんの他にも生き残りがいる…!!?

初めて知った事実対しに、流石のミュルザも動揺を隠し切れない。

「しかし、プライドンよぉ…。その話は一体どこで…?」

「…魔界にいる老いぼれ共だ」

「…確実な情報…ってわけだな」

情報の出所を尋ねると、プライドンは魔界に住む悪魔族の長老達の名前を出した。

今、彼らがいる世界とは別に悪魔だけが住む“魔界”という存在がある。しかし、その事実を知るのは当人だけで、この世界に暮らす生き物は誰一人として知らない事実であった。そんな魔界を治める長たちがミュルザ達以上に永い時を生きる悪魔であるがゆえに、“老いぼれ”と皮肉をこめた言い方で表したのである。

「…古代種キロは、ラスリアちゃんみたいにどんな能力を持っているか、実際に見ないとわからねぇから厄介なんだよな…」

「…ならば、一族の掟に従い関わらないことだ。…古代種“キロ”も“星の意思”と関係のある生き物だからな…」

「あ…おい!!」

プライドンは一言を言い放った後、ミュルザが引き止める間もなく漆黒の翼を広げて飛んでいってしまう。

「ったく…気まぐれというか、キザな野郎だぜ…」

プライドンが飛び去った後、空を見つめながらミュルザはボソッと呟く。

「同じ古代種でも、ラスリアちゃんは非戦闘能力の持ち主…。果たして、あいつらに“8人の異端者”共を倒せるのかねぇ…」

他人事のような口調ではあったものの、内心では小さな不安を抱く。

「!!?」

突然、自身の心臓の鼓動が強く鳴ったのを感じたミュルザの表情が一変する。

 この感覚は…!!!

ミュルザは、これまでにも感じたことのある感覚に陥る。それは、契約を交わした“主”に何か起きたとき、共鳴するかのように感じる悪魔特有の現象だ。

「…イブール…。一体、メッカルで何が起きてやがる!!?」

今の現象で困惑したミュルザは、即座に黒い翼を出現させて大空に羽ばたくのであった。


          ※


「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」

「えっ…!!?」

少し離れた場所から聞こえる悲鳴に、イブールは驚く。

この頃、イブールとチェスはロレリア教授やトキヤ博士・ジェンド博士と一緒に、”ガシエルアカデミー”本部内を徒歩で移動していた。

「何かが…来る…!」

チェスが、真剣な表情で呟く。

 チェスがこんな深刻な表情(かお)をする…ということは、まさか…!!?

周囲が緊迫した雰囲気となり、イブールは心の中で考え事をしながらつばをゴクリと飲み込む。

人らしき足音が、大廊下の奥から響いてくる。

何かを引きずりながら歩いてきたのは、濃い茶髪と白銀色の瞳を持ち、身の丈ほどある大剣を担いだ男だった。

そして尖った耳を持ち、獣のような目つきでイブール達を見据えるこの男こそ、ラスリアが目撃したという“8人の異端者”が一人・「魔人タイドノル」なのであった―――――



いかがでしたか。

今回の話の終わりは、漫画のような終わり方を意識して書いてみました(^^


本編についてですが・・・

今回初登場となった悪魔・プライドンは、ご存知の方もいるかもですが、『ガジェイレル-Right-』に登場していたキャラ。

ミュルザと彼は、どうやら顔見知りらしく、他人に興味を持たない悪魔でも、同族同士の親交はありなのかな?と、書いてて思いました★


さて、”8人の異端者”の一人であるタイドノルが、再び主人公たちの前に立ちはだかる。その目的はいかに―――――――――――!!?

・・・次回をお楽しみに♪


ご意見・ご感想をお待ちしてます!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ