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ガジェイレル-Left-  作者: 皆麻 兎
第4章 望まぬ形で達成することが意味するのは
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第22話 悔しさを胸に秘めて

今回はイブール。・アレン・ラスリアと、3つの視点で物語が進みます。

「放せっ…!!!」

イブールは、自分を押さえつけている堕天使・フリッグスをどかそうと暴れる。

「やっと…やっと見つけたというのに…!!」

そう叫ぶイブールの表情は、物凄く必死だった。

 悪魔(ミュルザ)と契約を交わした時から、目的を果たすためだけに生きてきた…。今、こうして目の前に敵がいるのに、手も足も出ないなんて…!!!

心の中で叫びながら、イブールは自身の拳を強く握り締める。

「…僧長!」

声の聴こえた方に振り向いてみると、一人の兵士がモーゼに近づいてきていた。

「どうしたのかね?」

「実は…」

その後、兵士から耳打ちをされて何の報告を受けたのか、表情が上機嫌になる。

「ラスリア様。こちらの準備がととのいましたので、早速出発しようといたしましょうか…」

「…“嫌”と言っても、それは無理なお願いのようですね」

深刻な表情(かお)をしながら、ラスリアは答える。

そんな彼女を見たモーゼは、満足そうな表情(かお)で話す。

「…娘とあの小僧を連れて行け」

モーゼは、低い声で兵士に命じる。

そうして、アレンとラスリアの2人だけがモーゼによって“未開の地”に行く事になる。

「…」

礼拝堂を去る時、アレンがイブールの方を一瞬だけ見つめる。

 え…?

アレンはイブールに向かって、口パクで何かを伝えようとしていた。イブールはその言った言葉が何を意味しているのかと考えていると、アレンはラスリアと共に連れて行かれてしまう。

彼らが去った後、礼拝堂の中にはモーゼとフリッグス。そして、イブール・ミュルザ・チェスが残っていた。

「さて…お前達の処遇だが…」

「…ラスリアがあんた達に従う以上、僕らに手出しはできないはずだよ!!?」

チェスが、威嚇するような表情(かお)でモーゼに対して言い放つ。

すると、一瞬の内に周囲の空気が変わる。そしてモーゼは、ラスリア達の目の前で取っていた態度とは全く違う態度に変わる。

「確かに、手出しはせんよ。…あの娘が、自身の役目を終えるまでは…だけどな」

そう呟くモーゼの表情(かお)は、狂気に満ちていた。

その会話を客観的な視点で聴いていたフリッグスは、呆れているような表情(かお)をしていたのである。

「我が主、モーゼ様…。一つ忠告致しますが、あまりこやつらを挑発すると、私ですら抑えられなくなってしまいますが…」

フリッグスは圧倒的な力でイブールをおさえつけているが、彼女自身はまだ逆らおうという気持ちが消えていなかった。

「…ラスリアが役目を終えて帰ってくる事で、私達が用なしになったとしても…例え死んだとしても、お前を必ず…殺す…!!!」

身体を震わせながら、イブールは今にも殺さんと言わんばかりの表情で、モーゼを睨みつける。

「ふ…私の“神”を奪った阿婆擦れが…」

モーゼは、イブールを見下しながらポツリと呟いた。

「…こやつらは、私が戻るまで牢に閉じ込めておけ…!!!」

そう叫んだモーゼに応じた兵士達は、彼らを縛り上げて連れて行く。

興奮していたイブールも、フリッグスから一般兵士に預けられ、その口に猿轡をつけさせられた。そうして、イブールから順番に礼拝堂を後にしていく。

「おい…そこの変態僧侶…!」

最後に連れて行かれるミュルザは、振り返ってからモーゼに声をかける。

「…我の“神”…!」

モーゼは、他の兵士には聞こえないくらいの小さな声で呟く。

その表情は目が見開いていて、まるですがっているような雰囲気であった。

「底なしの強欲野郎も悪くはねぇが…。どんなに悪魔族(おれら)を崇拝しようとも、あんたみたいな野郎は雌の悪魔(やつ)すら呼び出せねぇよ…!」

そう吐き捨てた後、ミュルザは去っていった。

礼拝堂の中は、モーゼがただ独りとなる。モーゼは、表向きにはライトリア教の僧をまとめる人間であったが、本当に崇拝している対象は“悪魔”―――――いわゆる、“悪魔信仰”だったのだ。

自分が崇拝している“神”を生贄として捧げた女に奪われ、その”神”にはっきりと言い捨てられたモーゼは、悔しさの余りに強く拳を握り締めていたのである。


          ※


「ここは…」

兵士によって連れて行かれたアレンとラスリアは、それから馬車に押し込まれ、とある場所に連れてかれていた。

「ここが…ドワーフの里…」

辺りを見回しながら、ラスリアは呟く。

そこにいたのは―――――成人した男性ですら、馬車の車輪くらいの身長しかないドワーフだった。しかも、彼らは教団の人間やラスリアを見ながら、怯えた表情(かお)をしている。

 それにしても…イブールに伝えたあの言葉…ちゃんと理解できたのだろうか…?

アレンは、ゆっくりと歩きながら考える。

礼拝堂の中で、モーゼとのやり取りをしていた際…最近はほとんどなかった“映像(ビジョン)”が、アレンの脳裏をよぎったのだ。しかも、今までと比べるととても鮮明で、故にそこで口走っていた言葉も記憶する事ができたのである。

 俺が見た映像(ビジョン)…イブールが、ミュルザに“あの言葉”を唱える事で、奴にはめられた首輪が外れるという内容(もの)だった。なんだって、“星の意志”とやらは、この事を俺に教えたんだ…?

“星の意志”がアレンに対して“映像(ビジョン)”を何度か見せてはきたが、「今回は今までとは違う気がする」という考えが、アレンの頭の中を占めていた。


「では、長老よ…。通路は完成した…ようですね?」

モーゼが、ドワーフ族の長老と話をしていた。

「…本当に、古代種“キロ”の末裔はおるのですな…?」

「ええ、あちらに…」

そう言って、モーゼはラスリアを自分の側に連れてくる。

アレンは、その様子を後ろから眺めていた。

「…嘘偽りでなかったのなら、ここまでする必要はなかったのでは…?」

長老は、モーゼを鋭い眼差しで睨みつけながら話す。

彼の周囲では、傷だらけで寝込んでいる者や死者に布をかぶせて泣いているドワーフの姿がある。

「それは、貴方達ドワーフが…我々ライトリア教団に逆らう事の無意味さを、ご享受戴く為にしただけでございます」

「ふん…。綺麗な言葉で飾りおって…」

舌打ちをした長老は若いドワーフに声をかけ、モーゼ達を案内させるよう伝える。

 ドワーフを殺す事で、逆らわないようにする見せしめか…。大儀を掲げて殺しを正当化させるなんて、馬鹿馬鹿しい…!

アレンは彼らのやり取りを見ながら、内心でそう思っていた。モーゼは案内役のドワーフの下へ歩いていくと、アレン達も一緒に歩かされる。

「ごめん…なさい…」

兵士の中から、ラスリアの声が聴こえる。

後姿だったので表情はわからなかったが、その声が酷く震えていた。

 くそ…仲間達(あいつら)が人質にさえなっていなければ…兵士達を倒して、この場から去れるのに…!!!

今回の件で、皮肉にもアレンは自分の旅の目的地へたどり着く事ができる。しかし、自らの手ではなく、こんな形で到達するという事に対して、不安と憤りがこみあげて来るアレンだった。


          ※


「ごめん…なさい…」

負傷したドワーフに向かってこの台詞(ことば)を発した時―――――ラスリアは、自分が産まれた事に後悔した。

 私はなんで…産まれてきてしまったのだろう…?

ドワーフが作った地下通路を歩きながら、ラスリアはずっとそんな事を考えていた。

ラスリアが姉と共に孤児院へいた頃、「自分はどうして産まれたのか」と、問答した事があった。

『私達は、いろんな人達に愛されて、祝福されて生まれて来るんだ…って、院長先生が言っていたわ』

その時、姉が言っていた台詞(ことば)が、再びラスリアの頭の中によぎる。

「本当に…祝福されているのかしら…?」

歩きながら、ラスリアは低い声で呟く。

しかし、今は自分のせいで皆が危険な目に遭い、自分も逆らえない状態にある。…こんな自分が、本当に愛されて生まれた存在なのだろうか。本当ならば、生まれてはいけない異質な存在(もの)だったのでではないだろうか…?

ラスリアは、自分の中で自問自答を繰り返していた。

 

そうしてラスリア達の一行は、無事に地下通路を通り抜け、念願の“未開の地”に到達する。

「ここが…」

ラスリアを含め、その場にいた全員が目を見張る。

彼らの先に見える風景は、多くの森林と巨大な山が存在し、水の澄んだ湖が存在する―――――本当の“自然界”だった。

「ここが、”未開の地”…!!」

モーゼと共に同行していた堕天使フリッグスが、感激したような表情(かお)で辺りを見回す。

 ここに、アレンが探しているという“イル”が…

草木を見つめながら、ラスリアがそう考えていた。

『そうだ』

「っ…!!?」

ラスリアの頭の中に突然、謎の声が響く。

「ラスリア様…!!?」

「今…頭の中に、声が…!」

ラスリアは頭を抱えながら、呟く。

「今、私に語り返してくれたこの声…もしかして…」

ラスリアは、驚くモーゼには目もくれずに、周囲を見回す。

『そう…我こそが、そなた達が言う“星の意志”…。よくぞ、ここまで来たな…キロの娘…』

頭の中に響いてくる言葉を聞いたラスリアは、これこそが自分が産まれ持った能力(ちから)である事を実感する。

「…私達には聞こえないその声…“星の意志”ね…?」

深刻な表情(かお)で尋ねてくるフリッグスに、ラスリアは黙って頷いた。

「なっ…!!」

ラスリアとフリッグス以外の人間は、この頷きを見て驚く。

しかし、そんな彼らを気にしないかのように、ラスリアは語りかける。

「私達は…この土地の事…そして、貴方の事が知りたいのです…!教えて戴けないでしょうか…?」

ラスリアの台詞(ことば)に対し、“星の意志”は少しの間だけ黙り込む。

『…よかろう。では、ラストイルレリンドリア・ユンドラフよ。…そなた達を“あそこ”へ導こう…』

その台詞(ことば)の後、ラスリア達の立っている地面が光りだす。

「これは…!?」

「この地面に描かれている文字…おそらく、古代文字だ…!!」

モーゼや他の兵士達が慌てる中、アレンは地面に浮かび上がった魔法陣の文様を見つめていた。

「ラスリア様…これは…!?」

「おそらく…”星の意志”は、私達をある場所に転送して、そこで話がしたいとの事かと…」

ラスリアは、魔法陣を見つめながら考える。

 一目見ただけで、私の本名を言い当てた…。もしかして、私が本当に望んでいる事もわかっているのかな…?

ラスリアは、表向きにはモーゼに従っているが、本当に望んでいる事はアレンが無事捜し求めていた“イル”を見つける事だ。それを、“星の意志”は理解してくれたのかと、一瞬考えていたのである。

そして、発動した魔法陣は、ラスリア達をその“イル”が存在する場所へと転送するのであった――――――――――――


いかがでしたか。

今回のサブタイトルに入れた”悔しさ”とは、両親の敵な目の前にいるのに、何も出来ないイブール。自分のせいで仲間達を危機に陥れてしまった事を後悔するラスリア。そして、他人の犠牲によって自らの目的が達成されてしまう悔しさをかみ締めるアレン・・・。そんな彼らの”悔しさ”という意味をこめて、このタイトルをつけました。

これまでは章ごとにLeft→Rightと執筆してきましたが、この辺りは前半の正念場でもあるので、この回も含めて、本当の交互に執筆していく事になりそうです。


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