第2話 歩くこと。
「いきなり歩くと、膝と腰を痛めます。まずは、杖を2本用意いたしましたので、4足歩行のつもりで歩いていただきます。」
2本の杖を手に、シャツにスラックス。編み上げブーツ。厚手の靴下。首元にタオル。
10月になると、風が心地いい。ハイキングにはもってこいの気候だ。
「肘が自然に曲がるくらいに、杖の長さは調整いたしました。1.2.1.2.と歩いてみてください。」
「はい。」
元気に、1.2.1.2.と唱えながら、中庭を歩き回るお嬢様。なかなかリズミカルに、とはいかないが、まあ、杖の寸法はいいみたいだ。
30分ほど歩いてもらってから、靴の状態や、股ずれを確認する。そう、、、太っている人は、股ずれを起こしやすい。やはり、少し赤くなっているので、汗を流した後、冷やすように指示する。
「あとは、、、10回ジャンプはやっていますか?」
「はい。」
「内臓が整ってまいりますので、忘れずに。一日3回。ただし、足腰に負担がかかるので、1度に10回以上はやらないこと。」
「はい。」
「無理なら、踵トントン10回ですよ?」
「はい!」
*****
「おはようございます、ジーク様。手と足の、グーパーの体操はされましたか?」
なんてことはない。起きたら、手を握って開いて、足の指も握って開いて。これだけ。
「・・・・・」
まあ、、、、いいか、、、、
本人にやる気がなくても、筋力のこれ以上の低下は避けたい。
「では、足の甲の曲げ伸ばしをいたしますね。」
これも、なんてことない。足を伸ばして、足の甲をまっすぐ伸ばしてから、戻す。仕方がないので、手を添える。やや浮かしがちにやると、腹筋にも効くのだが、、、
「別に、、、歩けないままでもいい。王城に帰せ。」
「・・・そうは参りません。そうでございますねえ、、せめて、ご自分で、トイレには行けるまでに回復させましょう。それでいかがですか?」
「・・・・・」
今は、側付きの騎士が、ジークを抱えてトイレまで送って行っている。私は別にそれでも構わないが、これからのことを考えると、トイレぐらいは行きたいでしょ?それに、、、歩き出すと、内臓が動くから、食事も美味しくなるわよ?食べだすと、体力も戻る。
・・・・・それに、、、前金、貰ってるしね。
ジーク様を起こして、背中に枕をあてがい、手を伸ばさせてグーパーさせる。同時に、足の指も。・・・・・動くんだよなあ、、、
程なくして、朝食が運ばれてくる。まだ粥かあ、、、、、
もちろん、大公家のコックが腕によりをかけた、粥、なんだろう。いい匂いがする。
二口ほど食べて、スプーンを置いてしまった。
ジークが食後に毎回飲んでいたという、痛み止めの薬は、私の判断で止めてもらった。痛みはほとんどないはず。下手にそんな薬を飲んだら、胃が荒れるだけだ。
「飲みたくなくても、水は飲んでくださいね?脱水症状、って侮れないんで。」
これも毎回のことだが、まめに水を飲むように指示して、食器を下げに行く。
どうも彼は、トイレに行くのが面倒なので、水を取るのを控えているようだ。食事からとる水分も少ないので、水は飲んでほしい。
「この粥は、まだ残っていますか?」
厨房でコックに尋ねると、鍋にだいぶ残っているようだ。
「お嬢様は今朝から、ジーク様と同じ食事にしてください。お嬢様の願掛けの為です。ご協力よろしくお願いいたしますね?」
そう言うと、お二人が小さい頃から、ここまでの事情を、婚約破棄まで、、、知っているコックたちや女中たちは、涙ながらに協力を申し出てくれた。