第1話 お百度参りの決意
「私の国元にはお百度参り、というものがございます。100日間かけて、願を掛けるもので、大変厳しいルールがございます。」
お嬢さまは前のめりになって私の話を聞いている。握りこんだ手はむちむちで、えくぼが出来ている。色白ぽっちゃり。大公様がさぞや甘やかした結果だろう。
「まず、お参りには白装束。裸足で。参拝中は一言も言葉を発してはなりません。私利私欲のお願いは出来ません。一度でも中断したら、1からやり直しです。これを100日間、できますか?」
「はい!」
「神殿に行ってみましたが、階段が300段ほどございます。正直、、、、今のお嬢さまでは、歩くのもやっとかと。」
「・・・・・」
「まずは、歩く練習からいたしましょう。よろしいですか?」
「はい!」
元気はある。やる気もある。うん、うん、いいことだね。
このお嬢さま、、、マシュマロ姫、と婚約者に、あ、、、かつての婚約者に呼ばれていただけあって、、、、マシュマロ?いい表現だ。ほっぺのお肉に埋もれた目と鼻。にっこり笑うとカワイイ。長く伸ばした金髪。ある意味、、、お人形さんみたい。赤ちゃん人形、な?
マシュマロをつなげたような腕と、足。多分、本体も。今着ているドレスもぱっつんぱっつんだ。
このままいくと、、、、、病気になるぞ???間違いなく、短命だろう。
「それでは、リーゼ様、明日の朝から早速、歩く練習を始めましょう!」
「はい!」
*****
「さて、ジーク様、リハビリのお時間でございます。」
大公家の別荘の客間に寝かされているジークに声を掛ける。
「・・・・・」
こちらは、、、やる気がほとんどない。
通っている学院の階段から、密会していた?婚約者のリーゼ様ではない、他の女性をかばって落ちた。なんか、、、ツッコミどころは満載だが、本人が何も話さない上、リハビリには消極的。挙句に、、、助けられたご令嬢はスレンダー美人。王城では色々囁かれて大変だろうとお連れしたここで、、、、こともあろうに、リーゼ様との婚約解消を申し出てきた。なんか、、、真意はわからない。
「ジーク様が、お望みであれば。」
と、これまたあっさりと婚約破棄を受け入れたお嬢さまは、毎日訪れていたジーク様の部屋に寄り付かないし、、、、
まあ、、、取り合えず、リハビリ。請け負った以上は、歩けるまでにはしたい。
階段落ちからの処理は、王城の医師団が行ったので、完璧。ただ、背中を強く打ったため、歩行が困難。そのため、絶対安静に。長すぎた。
一か月も絶対安静をしていたら、健康な人でも歩けなくなるのに。
これ以上の治療はない、と、医師団に言われた彼を、大公家が静養のために別荘に運んだ。賢明な判断だった。
大公殿下にスカウトされた私は、、、リーゼ様付きの侍女の名目だが、お二人の健康状態の改善を指示されている。もちろん、相応な報酬は頂いている。うふふっ。
限りなく前向きなリーゼ様と違って、後ろ向きなジーク様。第三王子。大公家に婿入りが小さい頃から決まっていた。小さい頃からお二人はとても仲が良かったらしい。
「僕のマシュマロ姫。」
と、呼んで、むちむちのお嬢さまをかわいがっていたらしい。古参の侍女から聞いた。
まあ、、、、大きくなったら、いろんな女性と知り合うし、目移りするなんてこと、ざら?かもね?自分の婚約者は、あれ、だし、、、
実際、階段から落ちた時には、スレンダー美人の令嬢と二人でいたわけだし、、、
考え事をしながらも、ジーク様の足の曲げ伸ばし、あらゆる関節の可動域を広げていく。足の指、手の指に至るまで。
この人、、、尿意も、便意もある、、、、
ジーク様の膝を折って、胸元に着ける。随分と動くようになってきた。
熱い、冷たいもある、、、
さて、逆の足、、、
足先まで、痛感もある、、、
長いこと絶対安静させたせいで、筋力は落ち切っている。
大丈夫だと思うんだけどなあ、、、少しづつ、、、日常生活がリハビリになるんだけどなあ、、、、この人に、、、やる気がなさすぎる。