終わりの時
辛い。
昔から、つい対抗してしまう。
嫌い。
でも、無視できない。どうしても気になってしまう。
複雑な感情が絡み合う。その感情を隠して生きてきた。
なのに……。どうして。
*
「中華街、迫力すごいねぇ」
「人多いな~」
うるさい。
「ひかり、どこ行こうね」
「ひかり! 中華まん食べよ!」
その名前を呼ぶな。
もう、俺に構わないでくれよ。
「ひかり、飲み物買いに行かない?」
響が、半ば強引に俺の肩を引っ張った。
「……」
ゆうなはただ静かに、俺達の後ろ姿を眺めていた。
「ありがとな、響」
響は、何も言わずただ俺の横を歩いた。
でも、横にいるだけで、俺は心地が良かった。
「……ひなのから、聞いたんだろ?」
コンビニのドリンクコーナーの前で重い空気が広がった。
「修学旅行の話?」
「聞いたんだな」
「隠す気ないし?」
「どこまで聞いた?」
「ほぼ全部。逆に他になに聞いてないんだろうってレベル」
「で、あいつらは何をしようとしてるの」
「分かってるくせに。……お前の本音を聞きたがってる」
「余計なことを……」
「今のところ、俺とひなのゆうなさんの三人で動いてる」
「裏切り者じゃん」
「確かに」
アハハと笑う。重い空気がほんの少し、軽くなった。
でも、それと同時に心のどこかで、黒い靄がかかった気がした。
ゆうなに対してほんの少し。ほんの少しの嫌悪感が生まれた。
「俺は、ひなのもゆうなさんも、香織さんたちも大切な友達だと思っている。でも、一番はお前なんだよ」
「やっぱり、お前がいてくれてよかったよ」
こいつは、俺のたった一人の親友で最強の味方だ。
「コーラにしよ」
「俺は、サイダーがいい」
十二月。冬とは思えない、心地の良い温暖な空気にふぅ、と一息つく。ほんの少し心は穏やかになった。
そんな気がする。
***
「おかえり、ひかり」
サイダーを片手に、ひかりは戻って来た。
その顔はさっきより穏やかだ。
「ね、ひかり。ひかりは行きたい場所ある?」
ひなのちゃんは、そう切り出した。
でも、それを聞いたとき、またひかりの顔は歪んだ。
「……なぁ、いい加減頭使って発言してくれよ」
それは、初めて見た、ひかりの心の底からの怒り。
疑う余地もない。私たちは決して触れてはいけない物に触れてしまったのだ。
「ご、ごめん」
ひなのちゃんは、顔を真っ青にしている。
「もういい。俺は勝手に行かせてもらう」
ひかりは、行ってしまった。それに響君と、奏斗君がついていく。
私は、それについていくこともできなかった。
なぜ、ひかりが怒っているかも理解できないのだから。
*
「ほんとに、私って最低だよね」
長崎中華街の脇道にある小さなレストラン。
私たちは、そこで昼食を食べていた。
といっても空気は最悪、誰一人として食事を楽しんでいる雰囲気ではない。
ここに居る中でこの事情を知るのは、私とゆうなちゃんだけ。
みんな、私達の身勝手に付き合わされてしまった。
「ごめん、みんな」
「……」
私の謝罪に帰ってくるのは、沈黙。
ひかりの存在が、いかに大きいかそれを知らされた。
ひかりの周りには、人が集まる。笑顔になっていく。
逆に、ひかりがいなくなった今。だれも笑顔が見えない。
「なにも聞かされずに、いきなりあんたらの喧嘩に巻き込まれて、ごめんなさいで納得できる?」
確かにそうだ。何も知らないのに喧嘩に巻き込まれて、たのしい修学旅行をつぶされて……。
「ひなのちゃん……」
でも、話していいのかな。
これは、ひなのちゃんにしても、ひかりにしても話したくない、辛い辛い過去の話。
「大丈夫、ここまで来たらみんなに話すよ」
ひなのちゃんは、語りだした。
ひかりとの関係から、今回のこの騒動まで全部。
「……最低だと思う。そういうの」
香織ちゃんと怜ちゃんの二人は席を立った。
ここに残ったのは、私達二人とゆゆちゃんだけ。
「ゆゆは、気にしないよ。友達なのは変わんないんだし」
そう、言葉にしているがゆゆちゃんの目は死んでいた。




