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終わりの時


 辛い。

 昔から、つい対抗してしまう。

 嫌い。

 でも、無視できない。どうしても気になってしまう。


 複雑な感情が絡み合う。その感情を隠して生きてきた。

 

 なのに……。どうして。



「中華街、迫力すごいねぇ」

「人多いな~」


 うるさい。


「ひかり、どこ行こうね」

「ひかり! 中華まん食べよ!」


 その名前を呼ぶな。

 もう、俺に構わないでくれよ。


「ひかり、飲み物買いに行かない?」


 響が、半ば強引に俺の肩を引っ張った。


「……」


 ゆうなはただ静かに、俺達の後ろ姿を眺めていた。


「ありがとな、響」


 響は、何も言わずただ俺の横を歩いた。

 でも、横にいるだけで、俺は心地が良かった。


「……ひなのから、聞いたんだろ?」


 コンビニのドリンクコーナーの前で重い空気が広がった。


「修学旅行の話?」


「聞いたんだな」


「隠す気ないし?」


「どこまで聞いた?」


「ほぼ全部。逆に他になに聞いてないんだろうってレベル」


「で、あいつらは何をしようとしてるの」


「分かってるくせに。……お前の本音を聞きたがってる」


「余計なことを……」


「今のところ、俺とひなのゆうなさんの三人で動いてる」


「裏切り者じゃん」


「確かに」


 アハハと笑う。重い空気がほんの少し、軽くなった。

 でも、それと同時に心のどこかで、黒い靄がかかった気がした。

 ゆうなに対してほんの少し。ほんの少しの嫌悪感が生まれた。


「俺は、ひなのもゆうなさんも、香織さんたちも大切な友達だと思っている。でも、一番はお前なんだよ」


「やっぱり、お前がいてくれてよかったよ」


 こいつは、俺のたった一人の親友で最強の味方だ。


「コーラにしよ」


「俺は、サイダーがいい」


 十二月。冬とは思えない、心地の良い温暖な空気にふぅ、と一息つく。ほんの少し心は穏やかになった。


 そんな気がする。


***


「おかえり、ひかり」


 サイダーを片手に、ひかりは戻って来た。

 その顔はさっきより穏やかだ。


「ね、ひかり。ひかりは行きたい場所ある?」


 ひなのちゃんは、そう切り出した。

 でも、それを聞いたとき、またひかりの顔は歪んだ。


「……なぁ、いい加減頭使って発言してくれよ」


 それは、初めて見た、ひかりの心の底からの怒り。

 疑う余地もない。私たちは決して触れてはいけない物に触れてしまったのだ。


「ご、ごめん」


 ひなのちゃんは、顔を真っ青にしている。


「もういい。俺は勝手に行かせてもらう」


 ひかりは、行ってしまった。それに響君と、奏斗君がついていく。

 私は、それについていくこともできなかった。

 

 なぜ、ひかりが怒っているかも理解できないのだから。



「ほんとに、私って最低だよね」


 長崎中華街の脇道にある小さなレストラン。

 私たちは、そこで昼食を食べていた。

 といっても空気は最悪、誰一人として食事を楽しんでいる雰囲気ではない。


 ここに居る中でこの事情を知るのは、私とゆうなちゃんだけ。

 みんな、私達の身勝手に付き合わされてしまった。


「ごめん、みんな」


「……」


 私の謝罪に帰ってくるのは、沈黙。

 ひかりの存在が、いかに大きいかそれを知らされた。


 ひかりの周りには、人が集まる。笑顔になっていく。

 逆に、ひかりがいなくなった今。だれも笑顔が見えない。


「なにも聞かされずに、いきなりあんたらの喧嘩に巻き込まれて、ごめんなさいで納得できる?」


 確かにそうだ。何も知らないのに喧嘩に巻き込まれて、たのしい修学旅行をつぶされて……。


「ひなのちゃん……」


 でも、話していいのかな。

 これは、ひなのちゃんにしても、ひかりにしても話したくない、辛い辛い過去の話。


「大丈夫、ここまで来たらみんなに話すよ」


 ひなのちゃんは、語りだした。

 ひかりとの関係から、今回のこの騒動まで全部。


「……最低だと思う。そういうの」


 香織ちゃんと怜ちゃんの二人は席を立った。

 ここに残ったのは、私達二人とゆゆちゃんだけ。


「ゆゆは、気にしないよ。友達なのは変わんないんだし」


 そう、言葉にしているがゆゆちゃんの目は死んでいた。

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