いつか生まれた気持ち
高校に入っても、ひかりは変わらなかった。
前と同じように、私を守ろうと、私と共に過ごし、響くんと笑い合う。
そんな日々がずっと続いていた。
その頃になれば、ひかりの変化にも慣れ、当たり前の日常になっていた。
でも、心の奥底には、いまだに、モヤモヤとした感情が残っていた。
私の為に、ひかりはきっと、計り知れない葛藤に襲われ、悩み、考え、その答えを出した。正解なんてわからない。もしかしたら、正解すらないかもしれないその問いを……。
ひかりは、昔から、私の為にいろいろと悩んでくれた、苦しんでくれた。
私を助けてくれた。
なのに、私は、ひかりに何をしてあげられるのだろう。
ひかりの人生は、ひかりのもの。
だから、私も精一杯考えた。その答えが、ゆうなという、少女の存在だ。
彼女は、私と似ていた。でも、根本は違う。
彼女は一人で、いじめと向き合った。ひかりに甘え続けた、私とは違う。
私は、ゆうなちゃんと仲良くなった。
彼女といれば、きっと私は強くなれる。
そうすれば、ひかりは私を助ける理由は無くなる。
自分の好きなように過ごせる。そう思った。
私は、ゆうなちゃんと仲良くなるフリをして、利用していた。
最初は何とも思わなかったが、時間が経てば、次第に胸が締め付けられるようになった。
ゆうなちゃんという存在は、私の手に負えない存在だったのだ。
冷静になって、考えてみればそれは当然の事だ。
いじめと向き合ったゆうなちゃんと、いじめから逃げた私。
私がゆうなちゃんを利用できるはずなんてなかったんだ。
だから、私はゆうなちゃんという存在を手放した。
ただ、彼女との関係を断つことはできなかった。
その結果、またひかりを頼ってしまった。
ゆうなちゃんとひかりをで合わせることで、ひかりの人間嫌いは良くなって、ゆうなちゃんは私と適度な距離関係になる。
いいこと尽くしだろうと、そう思ったんだ。
*
「……これが、私と、ひかりの話」
すべてを話したとき、二人はただ静かに、私が何が話すのを待っているようだった。
「ゆうなちゃん、まず謝らせてほしい。 ゆうなちゃんを私は利用していたの、本当にごめんなさい」
深々と、頭を下げた。周りはほんの少しの肌寒さを感じさせていたが、
私の額からは、汗が流れていた。
緊張と、恐怖、それとほんの少しの期待。
無数の感情が冷や汗となって流れ出る。
「ひなのちゃん、顔を上げて」
顔を上げた、それと同時に、頬に刺されるような衝撃と、焼かれるような熱を感じた。
ゆうなちゃんは、涙を浮かべ、私の頬を叩いたのだ。
「ひなのちゃんは最低だよ!」
「……そうだよね」
その時、ほんの少しの希望は打ち砕かれた。
「……ひなのちゃん、私はね、利用されたことも、ひなのちゃんが自分の我儘でひかりを変えてしまったこともどうでもいいの」
「……」
「私は、どんな形であってもひなのちゃんは友達だよ。でも、ひなのちゃんは私のことを友達だって思ってないんだよね」
「それは、違う!」
「うん、知ってる」
力強く、優しく、私を抱擁した。
ぎゅっと、どれだけの時間が経ったかも、分からなくなるほど、長く。
「今の話を聞く限り、ひなのちゃんはさ、もう十分ひかりの為に頑張ってるよ」
「そうだな、ひかりもそうだが、ひなのは自分でどうにかしようとしちまう」
「ひかりの事、大切だと思っているのはひなのちゃんだけじゃないよ」
「ひなのちゃんの目的は、ひかりを変えてしまったことを謝りたい。そして、今以上の関係になりたいってことだよね」
響君は、わたしの心の奥まで見抜くように、わたしの眼の奥まで見てくる。
実際、響君の言葉は正解だ。
私は、ひかりを変えてしまったことを後悔している。
しかし、前のひかりに戻って欲しいとも思わない。
ただ、どうして変わってしまったのか、それを知りたい。
それを知れば、きっと私はひかりと……。
いつからか、私には特別な感情が生まれた。
ひかりといる時間、それがうれしくて、幸せで、二度と離れたくないと思っていた。
私の我儘で、ひかりと離れたあの時、病院で、ひかりの顔を見たあの時。
ひかりと二人で生活を知ったあの時。
その全てが、私にとってもかけがえのない時間になっていた。
「……うん」
誰にも言わず、いや、誰にも言えなかった。
この気持ちを、明かすことなんてできなかった。
それを響君は知っていたんだ。
「なら、私たちにも協力させてよ」
ゆうなちゃんは、先の見えないほど根っこの部分まで優しい子だ。
人のために、怒れる。本気になれる。
だからこそ、この二人はきっと私にとって最高の仲間になるんだ。
「じゃあ、この修学旅行で、ひかりが変わった理由を知って、もっと仲良くなる作戦を、始めよう!」
「「おぉーーっ!」」
座席に戻る二人の後ろ姿を見て、私の心には、なにか重いものが生まれていた。私の知らない、ひかりを知る二人に、嫉妬に似た何かが……。




