変化した心
中学二年の冬、修学旅行の時にある大きな出来事が起きた。
修学旅行で、向かったのは福岡と長崎……。
響君は、体調不良で修学旅行には来なかった。
そのせいか、ひかりは少し荒れていた。
三泊四日の旅路。そのきっかけは突如、訪れた。
修学旅行二日目の昼。長崎の中華街で、私たちは歩いていた。
ひかりと私、それともう一人、学級委員でクラスの人気者だった男の子の三人。
ひかりが喧嘩しないようにと、監視役として、わざわざ別のクラスの私と、学級委員を同じ班に、ということらしい。
別に仲良くもない、学級委員のお陰で、この三人の空気は、すごく気まずい。
「コンビニで、飲み物買ってくる、ひなのもなんかいる?」
「カフェオレか、紅茶お願いしていい?」
「ん……」
毎日のようにしていた、喧嘩も響君と出会ったことで、減っていき、
今では、普通に話をするぐらいの関係にはなれただろう。
「じゃあ、ここで待ってて、すぐ戻る」
ひかりはコンビニに一人で入り、私たちは、コンビニ前の広場で待っていた。
「ねぇ、ひなのちゃんは、ひかりと双子なんだよね」
「そうだね……」
「あれが、家族とか、俺なら耐えられないなぁ」
ボソッと呟いた言葉、それが私の胸を強く刺した。
今までの私なら、きっとそこで終わっていた。
ひかりのために、変わろうと努力を続けた、私。
その努力が、姿を現したのだ。
「冗談だとしても、二度とそんなこと言わないで」
「なに……?」
「ひかりは、無秩序に人を傷つけてるわけじゃないし、ひかりは優しいんだ」
「へぇ……」
「君みたいな、馬鹿にひかりの価値を決めつけられるような、私のお兄ちゃんじゃない」
自分が変わり続けようとする、その思いが、かつての自分を変え、この男に自分の気持ちをぶつけることが出来た。
「でも、どんな理由があっても暴力を振るうことが許されるのか?」
こいつの言うことは、正しい。私もひかりが暴力を振るわなくていいというなら、そう願いたい。
私は、ひかりが暴力を振るう必要がなくなるように、と努力を重ねた。
きっと、これから私とともに、成長していくはずなのだ。
「確かに、許されるわけじゃない。でも、罪を償う権利は誰にでもあるはずだよ」
こいつは、どんな訳があって、ひかりを傷つけているのかは分からない。
でも、私の中には、ドロドロと、どす黒い怒りという感情が満たされている感覚だった。
あぁ……。ひかりはいつもこんな感覚なんだろうな。
そう、直感した。私たちは双子。姿かたちが違っても、中身の部分は一緒なんだ。でも、それでも、必死に我慢する。
ひかりだって、変わろうと努力しているのに、私が暴走してしまったら……。
「はぁ……。君も一緒なんだね、がっかりだよ」
ドロドロとした怒りが、痛む胸をさらに強く薙ぐ。
「……おい」
男の後ろにいたのは、ひかり。
一体いつから、聞いていたのか。一体いつから、我慢していたのか。
「ひかり! 駄目‼」
私の声が届くより早く、ひかりの拳が男の顔面に突き刺さっていた。
多くの人を殴ったその拳は人一倍、硬く、痛い。
鼻骨を砕く、その鈍い音が、橋の上に広がる広場に響く。
周囲の人から、向けられる視線は、様々な感情を孕んでいる。
「お前ぇ!」
男は、鼻血をダラダラと流し、それでも、ひかりに襲おうとする。
「ひなの……ごめん」
ひかりは、向かってくる男を、拒むことなく、その全てを受け入れた。
何発殴られても、血を流しても、絶対に手を出さなかった。
私には、ひかりを助けることが出来なかった。
怖かった。変わったはずの、いなくなったはずの臆病な私が、心の奥底で、強く私を縛っている。
ガタガタと、音を立て、体が震えている。瞼には、涙が潤む。
「ひかり……ひかりぃ…………」
体中から、力が抜ける。その場に立つこともままならない。
「やめて! それ以上は、ひかりが死んじゃう!」
最後の力を、腹の底から、ひねり出す。
心の底から、そう、叫ぶ。
その声は、男に届いたのか。それは分からない。
でも、騒ぎに駆け付けた警察が止めてくれたおかげで、ひかりはそれ以上殴られることはなかった。
ひかりの顔は、ひどく腫れ上がり、真っ赤に染まっていた。




