文化祭の前日準備以上に楽しいものはない
文化祭を、明日に控えた今日。
授業は一日無し。今日は朝から夕方まで、全て文化祭準備だ。
会場設営や、映画の最終チェック、集客用の看板製作など、クラス中が盛り上がる。
「ひかり、飲み物買ってくるけど、なんかいるものある?」
今日は、変則的な日程だから、いつもなら授業中のはずのこの時間でも自販機や売店で買い物をしてもいいとなっている。
そのせいか、今自販機と売店にはかなりの人が並んでいるとか。
「じゃあ、コーヒーお願い。ブラックで」
昨日の夜から、徹夜で作業をしていたせいで、眠気がやばい。カフェインがないと今日一日やっていける気がしない……。
「橘、こっち手伝ってくれ~」
「あいよ~」
体育館に掲載する、大型宣伝パネルの設営。
本当は、俺の仕事ではないはずなのに、元の人数では厳しいらしい……。
木で作られた、数メートル四方の木の板に貼られた紙の上に描かれた三人の高校生のイラスト。
この高校生は、ゆうなと響、それと間宮。
今回の映画で中心人物として描かれた三人のイラストだろう。いい絵だな……。
「持ち上げるよ~、せーのっ!」
持ち上げようとしたとき、すごい重量感に襲われた。
体感数キロどころじゃない。俺が疲れているからか、分からない。でも、正直もう手を放したい……。
周りのやつに歩幅を合わせて、体育館に向かう。
体育館に着いた。もう体育館は文化祭ムード全開で、ステージには、軽音部の楽器などが並べられていた。
その横のギャラリーを見れば、他のクラスのパネルなどがずらりと並べられていた。
「すげぇ……」
もう全員声が出ていない。
「どうよ、あんたの妹の実力は」
後ろにいたのは、ひなの。普段自分の事、妹とか言わないのに、こいつも文化祭でテンションおかしくなってるタイプか。
「すげぇよな、どこも」
「ね」
「うん」
あれ?なんか空気が重い。俺なんかやらかした?
「文化祭準備とかいう一番盛り上がる日になんであんたは、ゆうなちゃんと一緒じゃないの?」
「え?」
「え?じゃねぇよ、クソ。文化祭は前日からもう始まってるの!ゆうなちゃんとイチャイチャしてさらに距離を縮めろ!バカ兄貴!」
ケツを蹴られた。でも、確かに今普通に楽しんでるしな。ゆうなと一緒にやれたらもっと楽しいだろうな。
「ごめん、他の仕事手伝ってって言われたから行くわ」
「あいよ~」
なぜか雑用ばっかやらされるせいで、サボりと思われない。
まぁ、いいけど。
そうして、教室にもどったら、たった五分程度でいつもの教室とは思えないほど変化していた。
暗幕や、プロジェクター、それらによって教室が小さな映画館のようになっていた。
「ゆうな」
「ん、ひかり。お帰り」
教室の端にいたゆうなはしばらくすることがないといって、メイクをしていた。口に飴を加えながら。いつもとは違うメイクに一瞬ドキッとしてしまった。
「かわいいね」
「んぐっ! ……気が付いた?」
俺の突然の言葉に驚いたようで、一瞬口の中の飴を吹き出しそうになっていたが何とか我慢して、気丈に返す。
「メイクが変わったのは、分かる。でも何が変わったかって言われるとわかんないんだよな」
「あ~。じゃあ、どこが変わったか正解出来たら、デートしよ」
「それ、お前が行きたいだけでしょ」
「じゃあ、ヒント一つだけあげる」
「無視?」
「ヒントは、目元」
「無視ですね、分かります。……目元か、」
俺はゆうなの目を凝視する。ゆうなは目が合う度、顔を赤らめて、目をそらす。
こないだのお泊り以降、ゆうなは恥ずかしがることが増えた。いつもなら、このぐらいどうとも思わないのに。
「アイラインがいつもと違う気がする」
「それだけじゃないよ」
「……よく見せて」
俺は、ゆうなの顔に手を当てて、ゆうなが顔を動かさないようにする。
「あ、あの……。もう無理です……」
ゆうなの顔は茹蛸のように真っ赤で、ギャグマンガなどでよく見るグルグル目になっている。
……本当にグルグル目ってあるんだな
「いちゃついてるねぇ、お二人さん」
「香織さん」
香織さんもいつもと少し違う様子で、こっちは分かりやすい。
「髪型変わってていいね」
「ほんと?ありがと」
後ろから、殺気を感じるけど、無視しよう……。
「あんたの彼女は私なんだけどな~」
「ゆうなさん、ちょっといい?」
そこに現れたのは、柊。
柊は、どこか恥ずかしそうに、ゆうなを呼んでいた。
理由は分からない。でも、どこか胸がモヤモヤする。
俺はつい、ゆうなの制服の袖をつかんでいた。
「……大丈夫だよ、ひかり」
そのゆうなの声に、俺は何も返すことが出来ず。ただ、その手をゆっくり解くのだった。




