心配性の彼氏さん。
「じゃあ、まぁ1位2位を発表します!」
体育祭のリレーの選手決めの陸上部との本気の勝負。
4人中3人がリレーに出場することができ、残り1人はチームの補欠となる。
私は最初陸上部の3人の前を走っていたが、
その後だんだん失速して、伊藤香織ちゃんとの一騎打ちみたいになってしまった。
「1位は、山崎ゆゆ。タイムは12.9」
「ゆゆ、大会の時より速くない?」
「たまたまだよ追い風だったし、」
「2位が佐藤怜。タイムは13.2」
順位を発表する、間宮くんの声がだんだん怖くなってくる。心臓もドキドキするし、
今まで、ここまで本気に学校行事に参加したことがない私にとってこの気持ちは新鮮で、
怖い気持ちもあるけど、とても楽しい。
「じゃあ、お待ちかねの3位の発表いきます!」
「3位は、」
お願い。0.1秒でもいいから香織ちゃんに勝ちたい!
「伊藤香織!タイムは13.6」
その言葉に私は全身から力が抜けるような感覚に襲われた。
泣くな!悔しくても、これはしょうがないことなんだ。
「ゆうな、お前は頑張ったよ。タイムも香織さんと0.2秒差だもん」
ひかりが私を抱き寄せる。
温かくて、優しい、私の好きなこの感覚。
でも、今それは良くない。我慢できなくなるじゃない。
私は怪我をした自分が悔しくて、負けた自分が悔しくて、涙を流した。
止まることの無いたくさんの涙を。
「香織、ほんと危なかったね」
「ほんと、勝てたのが奇跡って感じ」
「ゆうなちゃん。今回は香織が勝ったけど、もしかしたら今度はゆうなちゃんが勝てるかもしれない。だからあまり落ち込まないで」
怜ちゃんが私の背中を摩ってくれた。
みんなの優しさが余計私の悔しさを倍増させて、私が泣き止んだのは日が沈みかけた夕方だった。
*
「ゆうな、残念だったな」
「まぁね、でも今できることはやったし、後は私が出る競技全部勝って、来年のリレーであの3人にギャフンって言わせてやるからいいもんね!」
ゆうなは辛い気持ちを隠しているのではないか。
そんな一抹の不安が俺の心の中に浮かんでいた。
「なぁ、」
でも、なんて声をかければいいのか分からない。
今、ゆうなが求めているのは同情でもない。
労いの言葉をかけたって、それだけじゃ足りない気がするんだ。
結局、俺の声もゆうなに届くことは無かった。
「あっ!ひなのちゃん!」
「あれ?ゆうなちゃんとお兄ちゃん今帰りなの?」
「そうなんだ〜さっきまでリレーの選手決めの勝負やっててね」
「結果はどうだったの?」
「ギリギリで負けちゃった。悔しいけど、これで体育祭が終わったって訳でもないしいつまでもクヨクヨしてられないからね」
「あなたの彼氏さんはそーいう感じじや、なさそうよ?」
「え?」
「いま、お兄ちゃんの考えてること当ててあげようか?」
「いや、当たるはずないから」
「『ゆうなになんて声をかけてあげればいいんだろう』でしょ?」
「うるさ、、」
「はい、図星〜」
「え?そんなこと考えてたの?私でさえここまで引き摺ってないのに?」
「だって、」
「はいはい。言い訳はいいから、そんなにゆうなちゃんのこと想ってるならケーキのひとつでも買ってあげなよ」
「今手持ちない、」
「バカかよお前、そーいう時は『俺ん家に来いよ』って誘えばいいんだよ」
「ゆうなの家族に迷惑かかるだろ」
「別に今聞いたら別に大丈夫っぽいよ」
「はい決定!じゃあお兄ちゃんはケーキ屋行ってら、私ら先帰ってるわ」
「人の彼女とるなよ!」
「あっ!怒った」
結局、俺の杞憂だったのかな。なんて思いつつ
俺らはケーキ屋に向かった。
この後ゆうなより俺とひなのがケーキとかスイーツを買ったのはここだけの話。