焦りは頑張ろうとしている証
ゆうなが怪我したと響が血相を変えて飛びんできた。
俺は練習を切り上げてひなのと響と3人で保健室に向かって走った。
激しい練習で俺もひなのも息が荒く、疲労が目に見えてわかる状態だったが、
構わず走り続けた。
途中、篠崎せんせーに走るなって言われたけど、
そんなこと守る余裕は俺にはなかった。
あんなにひなのは頑張っていたのに怪我のせいで
全部水の泡になった。なんてあいつが悲しまないわけが無い。
保健室に着いて扉を開ける。
扉を開けたら怪我の処置をしてもらってるひなのの姿が見えて少し安心した。
あいつは元気そうに友達と話をしているから。
「あれ、ひかりにひなのちゃん。響くんも来たんだ」
「そりゃな。心配だし」
「そんな心配するほど大きな怪我じゃないよ」
ゆうなは軽く笑っていたが俺が心配しているのはそれだけじゃないんだよ。
「ごめん2人とも外してもらえる?」
俺はひなのと響にしか聞こえないように小さい声で言った。
「そっか、それならいいんだよ。ホント無茶はしちゃダメだよ?」
「わかってるよ」
「ならよし!響くん長居するのもあれだし戻ろ?」
「うん。ゆうなさんお大事にね」
そうして、ひなのと響は保健室から出ていった。
保健室には今先生も居ない。完全に2人きりだ。
「あの二人って仲良いの?話してるとこ見たこと無かったから」
「あいつ何回か俺ん家来てるしその時に仲良くなったらしい」
「へー、そうなんだ」
いつもとは違ってゆうなは静かだ。
いつもがうるさいという訳ではなく、
ただ異様と言えるほどゆうなは静かに俯いている。
悲しみにくれていると言うよりは、
この後自分がどうするべきかを冷静に考えている感じだ。
ゆうなの事だし、無茶してでも走って怪我を悪化しかねない。
あと3日で怪我が治るわけが無いんだ。
俺はどしっとゆうなのベットに腰掛けた。
保健室の布団の少し苦手な香りがふっと鼻を抜ける。
「ゆうな。お前今焦ってるでしょ?」
「どうしてそう思うの?」
「見てればわかるよ。今お前夏休み前と同じ顔してたもんw」
「えっ、うそ!」
「うん。嘘w」
もーっ!と怒るような仕草をしているが、
その顔はさっきより柔らかく、微笑みが見える。
「でも、焦ってるってのはほんとに分かるよ」
「そりゃ焦るよ私みんなより遅れてるのにまた差つけられちゃうじゃん」
「まぁ、そうだよな。でもよ、焦ったってなんもいいことないよ。だから今は治すことだけ考えてな」
「でも、そうしたら、、」
元気に溢れたゆうなの声は段々と弱々しく、
その目には涙が段々と溜まってるのが分かる。
「本番まではまだ時間あるから、俺が選手決めを伸ばすように頼んでみるよ。それでもし無理ならごめんってなるけど、」
「でも、そんなこと頼めないよ」
「なーに言ってんだ。俺はお前の頑張りを全部見てたし、俺はお前の彼氏だろ?お前の次は俺が頑張る番だよ」
「本当にいいの?」
「任せとけ」
ゆうなはその言葉で今まで張っていたものが緩んだのだろう。声を荒らげてゆうなは泣いた。
「ゆうなが焦ってるのは今までの頑張りを無駄にしたくないって頑張ろうとしているからだよ」
俺はゆうなの肩を優しく抱いてやった。
ゆうなはまだ俯いていたけれど、どこか嬉しそうに見えた。