彼女に見とれて油断する
「ゆうなちゃん。走る時は姿勢意識した方がいいよ。」
放課後。彼女。努力。
響きだけは綺麗で素晴らしい。
でも、実際は違う。
俺の理想は、ゆうなと一緒に走ったりストレッチしたりすることだ。
でも?俺運動できないし?
なんか運動出来るように見られてるけど気づかれないように放課後に練習してかっこいい俺を見せてただけだし?
俺と一緒に練習するよりも陸上部のヤツらとやった方が効率がいいだろ?
「お兄ちゃん、今後悔してる?」
俺の背中に当たる最高で最悪な感触。
ゆうなのものなら最高だった。でもなんで親族の胸の感触を楽しまにゃあかんのや。
「控えめに言って最高だよな」
「でしょ?」
そう。最高だ。
俺の理想はゆうなと一緒に練習すること。
ゆうなの香り、息遣い、声。それらを俺は摂取することが出来る。
ただ、今のこの距離から見るゆうなは今まであまり見ることのなかったゆうなだ。
こうやって見るとあれだな。
ゆうなの体操着姿もいいし。少し揺れてるのも良いし。足も綺麗だし。
簡潔に言おう。幸せだ。
「お兄ちゃん。次お願い。」
ひなのが背中を押すように促す。
俺はひなのの背中をグッと前に向かって押す。
以外にこいつ柔けぇな。
ひなのの体がという訳ではなく。こいつの肌が柔らかい。
ゆうなもこんな感じなのかな。
ふとゆうなの方を見るとゆうなの背中が気になった。
胸によって引っ張られている体操着。
それによって現れる背中のシルエット。
あれだな。すごい罪悪感。
俺は顔をブンブンと降って邪念を追い払う。
「こんぐらいでいいだろ」
「うん。ありがと」
俺はひなのの背中から手を離し短距離用のトラックに向かう。
ゆうなとは背を向ける形になってしまうが、
俺は気になってゆうなの方を見る。
「あっ!すいません!」
前から叫び声が聞こえる。
前を向いた瞬間。俺の景色は黒と白の、恐らくサッカーボールだろう。
そう。俺の目の前にはサッカーボールがある。
もう気づいた時には遅い。
避けることはできない。しかも、ボールの位置が悪い。
これは顔面コースかな?
俺は目を閉じ、目の前のボールを受け入れた。
(この間約0.2秒)
「ふぎゃっ!」
俺は無様な悲鳴と共に吹き飛ぶ。
地面に頭から落ち、俺の足は空を向く。
踵が地面にずんっと落ちると同時、聞こえるのは
大丈夫ですか?という心配の声と笑い声。
笑い声は確実にひなののだ。
あいつは後でコロス
「ひかり!大丈夫!?」
練習中のゆうなも俺の元に走って寄ってきた。
そしてすかさず、抱きついて俺の顔面はゆうなの胸によって呼吸困難へと向かう。
苦しい。
でも、幸せだから止められない。
俺の死因は彼女の胸に挟まれたことによる窒息死か。
ダサいが、しょうがない。
「ゆうなちゃん。体操着汚れるよ?」
「えっ?」
ゆうなは俺をばっと離す。
俺の鼻から血が滴っている。
さっき顔面にボールを食らったからだろう。
ゆうなはまた大丈夫!?と叫んで俺の肩を掴んでガンガン揺らす。
こいつは馬鹿か?
「ゆうなちゃん。お兄ちゃんをちょっと向こうまで連れてってあげて?」
「うんわかった、」
ひなののおかげでゆうなの無意識アタックは止まった。
ナイス。ひなの。
そうして、俺はゆうなの肩を貸してもらってグラウンドの横のベンチまで運んでもらった。