敵に勝ちたければ敵から学べば
「やばい。ひかり。私足速くないんだよね」
私は、体育祭のリレーに参加するために陸上部の人達と勝負することになった。
でも、一つ言いたい。私、運動は苦手という程ではないけれど、運動神経抜群!という程でもない。
特に走るのは苦手で、短距離走なんて尚更苦手だ。
「知らんよ。俺も運動得意じゃないしな」
こんなことを言っているが、ひかりは卓球でひなのちゃんと共に県大会に入賞するレベルで上手い。
「ちなみに、俺が卓球上手いのは死ぬほど練習したからで元々クソほど下手くそだったからな」
「じゃあ、私もいっぱい練習すれば勝てるかな」
ひかりは、準備体操をしながらんーと唸っている。
「正直、厳しいだろうな。1週間で数年分の練習ができる訳ないし、向こうは知識もある。圧倒的不利ってやつよ」
ひかりはこういう時絶対人を甘やかすことは無い。それは、自分が才能がなくて、才能のある人達と努力だけで戦ってきたからこその厳しさなのだろう。
「ゆうなちゃん。お兄ちゃん。私にいい考えがあるよ」
「わっ!」
気がついたら後ろに準備体操をしているひなのちゃんがいた。
「お兄ちゃんに呼ばれたから一緒に練習しに来たんだ」
「多分、俺よりひなのの方がゆうなは合ってるから呼んだ」
こういう配慮とか相性みたいなのすぐわかるのはすごいしありがたいけど、
そうしたら私とひかりが2人っきりになれないってことを察して欲しいかな。
「あっ、ちなみにお兄ちゃん。後でアイスね」
「なんで」
「罰」
ひかりは何が何だか分からないというような感じだったが、ひなのちゃんの目線に負けて分かったよ。と頷いていた。
「まぁ、ゆうなちゃん。話は聞いたんだけどリレーのメンバーになりたいんだよね」
「うん」
「じゃあ、私達の先生のところに行こう」
「先生って伊藤先生?」
伊藤先生はひなのちゃんの担任で陸上部の顧問だ
「違う違う。私たちの先生はあそこにいるじゃん」
そうして、ひなのちゃんが指さした先には私が来週戦う陸上部の3人が
「敵に勝つには敵に学べってね」
「え、でも、、」
正直、陸上部の3人からしてみれば私は敵だ。
そう簡単に私に教えてくれるだろうか。
「ちなみに、私はお兄ちゃんから卓球のこと色々教えて貰って今お兄ちゃんに勝ち越してるからね」
「うるせぇ6対4だ。言うほど差はねぇよ」
「まぁ、別に卑怯でもないし、ずるでもないよ。だから大丈夫だよ」
そうしてひなのちゃんは私の手を引っ張って3人の元へ走っていく。
「ねぇねぇ、ゆうなちゃんが話したいことがあるらしいんだけど今いい?」
「大丈夫だよ。ゆうなどうしたの?」
陸上部の1人が私の元に寄ってくる。
「あっ、、あの、」
私は言葉に詰まった。不安だったから。
でも、それじゃあ今までと何も変わらない。
私は勇気を振り絞った。
「私走り方教えてください!」
3人は少し驚いたように目を丸くし、顔を見合わせる。
一瞬の間を置いて3人の笑い声が響く。
「いいよ。一緒にやろ」
その時胸がふっと軽くなった。
「ありがとうございます」
「そんな敬語なんていいよ。私たちタメなんだし」
そう言ってにかっとはにかむ姿はとても可愛らしく私の目に写った。
「ひなのも一緒に走ろうよ」
「うん。いいよ」
こうして、5人の練習の日々が始まった