第95話 ケイショリー
コスマはジーナを撫でた。
「成長したな。……無理やりでも連れていこうかと何度も考えたが……。今の明るい笑顔を見て思ったよ。結局、俺のところにきてもお前を幸せにしてやれたかはわからないとな」
ジーナは苦笑する。
「一度だけ、叔父さんについていけばよかったかも、とは考えました。……でもやっぱり、私は今の生活が一番です。私は、大好きなシルヴィア様のもとで働きたいのです!」
こうしてここにいる間も彼女を想う。
ジーナは別れ際、心配そうな顔を初めて自分に向けたシルヴィアを見て、過去のしがらみと決別してくることを誓ったのだ。
「私は、絶対にシルヴィア様のもとを離れませんよ!」
「……ホントですか?」
「もちろんですとも!」
自信を持って胸を叩いてみせたら、シルヴィアが破顔した。
その笑顔を見てジーナは柔らかに微笑み、しゃがんでシルヴィアの目線に合わせる。
「ですので、私を待っていてくれますか? シルヴィア様」
「待つです。いい子にしてるです」
「ふふふ、シルヴィア様はいい子ですから心配いりませんね。……私の戻る場所はいつでもシルヴィア様のもとです。何者にも邪魔をさせませんから」
……その光景をそばで見ていたエドワード、カロージェロ、ベッファは思った。
なんだかんだで全員、どこか過激なんだなと。
*
ジーナはケイショリーに礼を言った。
「最初は逃げ出す手助けを、そして今回は証人になってくださりありがとうございます」
正直、ジーナはケイショリーに味方してもらえるとは思ってもいなかった。
ケイショリーは、カティオの婚約者だ。
カティオが不利になるようなことはしないだろうと考えていたが、ダメもとで頼んでみたら、あっさりと引き受けてもらえて拍子抜けしたほどだ。
ケイショリーは苦笑している。
「まさか、お針子から公爵令嬢の侍女になるとは思ってもみなかったわ。……もちろん打算はあるわよ? 恩が売れるもの。まぁ、あとは……あなたに悪いことをしたって自覚が、なくもないから」
ジーナがキョトンとする。
「カティオを奪ったこと。……逃げ出したところを見れば兄妹以上に想ってなかったんでしょうけど、私が割り込まなければそのまま仲良く働いていたでしょう? 結果的に私が全部壊しちゃったのかなって思って」
そう言ったケイショリーを見て、首を横に振る。
「むしろ、あれで目が醒めました。……私は利用されていたんだなって。むしろ感謝しています。私……今の主人に仕えて、本当に幸せですから」
ジーナの幸せそうな顔を見て、ケイショリーが肩すかしを食らう。
「……それならいいんだけど……。じゃあ、良いことをしたって思っておくわ」
「はい。本当にありがとうございました」
ケイショリーがジーナを見て少し考え、
「……なら、私が困ったときに手を貸して。できる限りでいいわ。公爵令嬢の侍女として、私を助けてちょうだい」
ジーナはケイショリーを見た。
「……シルヴィア様を頼ることも迷惑をかけることも出来ませんが、公爵令嬢の侍女としての私が役に立つことがあるのなら、今度は私が手助けいたします」
それがなんなのかはわからないが、頼られたときに考えよう。
シルヴィアの決めゼリフではないが、エドワードに相談すれば一人で突っ走るより良い案を出してもらえるだろう。
ケイショリーが、ついでのように言った。
「あ、もうどうでもいいでしょうけど。……カティオとは婚約解消したわよ」
ジーナは目を瞬いた。
「……それは……」
しょうがないだろう。なんせ精神を病んでしまったらしいし。
病んでなくても犯罪者だ。お金持ちのお嬢様の結婚相手にはふさわしくない。
察したケイショリーが首を横に振る。
「この件より前に決定していたの。……アイツ、私の上をいくワガママ男で俺様気質なんですもの。最後に会ったときなんて、私に殴りかかろうとしたのよ? 護衛が慌てて取り押さえて外に放り出したわ。あなたがいなくなってから、つまらないことでいっちいち突っかかってきてイライラしていたけど、あのことがもう決定的。即日お父様に頼んで婚約解消してもらったの。……というか、お父様は私とカティオは合わないってわかってたらしくって、口約束で止めていたらしいわ」
カティオの見た目が好みだったらしいが、中身は一番嫌いなタイプだったらしい。
というか、カティオの性格に付き合えるのはジーナくらいだろうと言われていたそうだ。
「……いえ……。私も目が醒めた今となっては、ちょっと……」
カティオが好きだったわけではない。本物の家族になりたかったのだ。
家族同然ではなく、家族の一員として温かい家庭を築きたかった。
だがそれはジーナだけが望んでいたことだと理解したので、あの一家に未練は一切なくなった。
「じゃあ、元気でね。……また会うことがないことを祈るわ」
ケイショリーが手を差し出した。
つまり、次に会うときは困ったことが起きて助けを求めにくるってことだろうなとジーナは理解し、苦笑して手を握った。
「そうですね。……でも、そうじゃなくても、旅行か何かで来てください。フォルテはとても良いところですよ」
「……そうね。そうするわ」
ケイショリーは笑顔で返した。
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