第86話 あなたもですよ?
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5日ほどフライングですけど読んでください。
「この城塞には行きすぎた変なのしか集まらないのか」
とエドワードがぼやいた。
ジーナは、エドワードのぼやきを聞いて首をかしげる。
あなたもですよ?
と、ツッコみたいが、私もそうかもしれない、とジーナは思い至ってツッコむのをやめた。
「……シルヴィア様は、寛大な方ですから。でも、互いに注意し合い、シルヴィア様の負担を減らすよう努力しましょうか」
ジーナが優等生な回答をして、エドワードが苦笑した。
「そうだな。念のため、シルヴィア様にも聞こう。負担に思われているなら、それこそ互いに行き過ぎを止めないとな」
エドワードは、シルヴィアのもとへ向かった。
「たまになので、だいじょぶです」
シルヴィアがエドワードとジーナに伝える。
「気持ちがばくはつしちゃった、って言ってました。侯爵令嬢としてダメダメなので、もうあんまりしない、って」
ブリージダ侯爵令嬢は、落ち着いた後で落ち込み、シルヴィアに謝罪したそうだ。
「……あんまり、ってところに不安が残りますが、シルヴィア様がよろしいのでしたらブリージダ嬢に関しては何も言いません」
エドワードが考え込み、シルヴィアに尋ねる。
「他は……カロージェロや、特にベッファは大丈夫ですか?」
シルヴィアはキョトンとした。
なんで大丈夫かって聞くのだろうと思ったのだ。
「二人とも、よく働くとってもいい人ですよ?」
「それはそうですが……。ベッファは、ブリージダ嬢と似た反応を示しますが、それについてはどうでしょう?」
「? 普通です」
本当になんとも思ってないようだ。
そういえば、シルヴィアは良く言えば他者の感情に左右されない、悪く言えば周りが何を思おうが気にしない人だったな、とエドワードは思い返した。
両親に見捨てられ城塞に追いやられたことへも気にも止めておらず逆に城塞をもらえて喜んでいたし、移住不可を宣告した住民希望者が罵倒してこようが泣き縋ろうが、傷つくことも心を揺らすこともない。
そういうシルヴィアだからこそ、カロージェロのスキルに映ることがないほどに罪悪感とは無縁で、ベッファが心酔しているのだが。
ジーナが前に出て、笑顔で問いかけた。
「私や侍女たち、そしてエドワードはどうでしょう?」
エドワードが急に慌てている。
「え? 俺のことも訊くの?」
「当たり前です! 何をカロージェロさんとベッファさんだけがおかしいみたいに言ってるんですか!」
ジーナがエドワードを叱っている。
「エドワード以外はなにもないです!」
シルヴィアがキッパリ答えると、エドワードがショックを受けた。
「……え……。俺、連中より酷いの?」
シルヴィアは、ここぞとばかりに言い募った。
「エドワードは、すぐ私以外を構います! どうでもいいのにです! すぐあの牢屋でおこもりするのです! 私のごえいきしなんだから、私のそばにいるのです! こもらないのです!」
「わかりました! 以後気をつけます!」
エドワードは、直立して返答した。
シルヴィアは、満足げに息を吐く。
ジーナは笑いをこらえる。
「……エドワードは、行き過ぎでシルヴィア様から離れるんですよね。構いすぎも反省しないといけませんが、想いすぎるあまり離れるのもよくありませんよ」
エドワードがうなだれる。
シルヴィアは、これでエドワードがそばにいてくれるようになるといいな、と思った。
*
ブリージダの教育は、順調に進んでいた。
シルヴィアの口調は、表面上は良くなり、礼儀作法もどんどんと直されていく。
ただ、常日頃の口調はそのままでいた。
「せっかくおかわいらしいのに、面白みもない令嬢の口調にする必要はありませんわ。シルヴィア様はここぞというときにちゃんとされる方ですから」
と、ブリージダが止めている。
エドワードとカロージェロは同じような顔をして言葉を呑み込み、礼をするに留める。
二人とも、「本当にここぞというときにできるのか?」と、疑問に思ったのだ。
カロージェロはシルヴィアを崇拝しているが、それはそれ、これはこれ。
礼儀作法においては貴族時代の教養があるため、重要さは理解している。
ゆえに、ふだんのシルヴィアでは通用しないことをよくわかっている。
幼い貴族令嬢としてはかわいらしくていいのだが、何せ城主だ。
この城塞のトップとして、作法をきちんとしなければ舐められてしまうのではないか……と、喉元まで出かかっているが、侯爵令嬢であり家庭教師である彼女が「いい」と言うのだったら家令としては納得しなくてはならない。
エドワードはサクッと諦め、丸暗記は出来るのだから、貴族の相手をするときの言葉は自分が考えて動作込みでそれを覚え込ませよう、と決意した。
カロージェロがエドワードと二人きりになったとき。
「……よろしいのですか?」
と尋ねた。
エドワードはため息をついたが、うなずく。
「貴族の令嬢としてのマナーは出来ている、ということだ。それ以上は俺が演技指導する。シルヴィア様は、丸暗記なら即座に出来るしな」
カロージェロは、それで納得した。
「なるほど。……応用も徐々に理解されるようになりましたし、数年先を見越してならばいいのかもしれませんね」
貴族令嬢としてのデビュタントも、十歳から。すでに交流がある場合もあるが、親しい間柄や親戚で年近い子どもがいるという理由があればだ。
どちらも満たしていないシルヴィアなら、十歳で完成を目指せばいいだろう。
ただシルヴィアの場合、城主としての交流になってしまうので、大人たちを相手にしないといけないのだが……。
どうにかするしかないな、とエドワードとカロージェロは同時にため息をついた。
※『カロージェロが視えた文字』大募集!
感想をいただきまして、面白かったので……。
最初にカロージェロがブリージダを見たときは、「偽」のみでした。これは、隠し事や嘘をついたときに出るためほとんどの人にあり、カロージェロは色が薄かったら問題視しません。当たり前だと思っています。
シルヴィアに会ってから(ある意味)罪深さが進んだブリージダがどう変わったのか……作者的には特に変えるつもりはなかったんですけど、一文字書くなら何がいいかを募集します!
文字色は濃いピンクにしようかなと! さらに、ドキがムネムネな感じに文字が動悸を撃っているといいかなと思ったりしました。




