第81話 侯爵令嬢の情報
ベッファの言葉にカロージェロはうなずくが、エドワードはけげんな顔でベッファを見る。
「お前の独自ルート、ノマーニたちだったんだろ? あいつら騎士団員になったってのに、どうやって侯爵令嬢を調べたんだ?」
ベッファが笑顔で答える。
「ノマーニは引き継ぎしてますよ。そこを使ってます。いざとなれば、ナルチーゾ族が動きます。団員以外は基本、定職があってないようなものですから頼めばやってくれますよ」
それもそうか、ノマーニは一族の長だけあってその辺は抜かりのない男だなと、エドワードは感心する。
「では、別室で聞きましょう」
カロージェロが促し、執務室へ向かった。
執務室に入り、カロージェロが防音のスイッチを入れた。
これで盗聴の心配はない。
カロージェロが促すと、ベッファが報告を始めた。
「ブリージダ・カンタ侯爵令嬢ですが、歳は十六歳。カンタ侯爵家の第一令嬢で、弟が一人います。弟は、カンタ侯爵家当主の後妻の子で、姉弟仲はあまりよくないようです。あと、彼女、第二王子の婚約者でした」
カロージェロとエドワードが絶句する。
ベッファは二人の反応を見て、うんうんとうなずく。
「ですよねー。私も驚きました。で、先日婚約破棄されています。しかも、衆人のもとで第二王子が一方的に破棄したとかで、かなり噂になっています。王家は揉み消そうとしていますが、平民にまで広まっていますね!」
カロージェロもエドワードも二の句が継げない。
大勢の前で婚約破棄を宣言するとか、いったい何があったらそんなことになるのだろう、と二人とも考えた。
二人の考えを読んだようにベッファが続ける。
「なんでも、第二王子が可愛がっていた男爵令嬢をいじめた、とかいう理由で……」
カロージェロとエドワードは顔を見合わせた。
「……大丈夫なのか? 隣国は」
「私がいたころから大丈夫ではなかったですよ。国の司法を司るトップが私利私欲にまみれ、幼気な男子を襲っては脅し、さらには殺人まで犯していましていましたから」
エドワードの言葉にカロージェロが返すと、エドワードがあっさり納得した。
「それもそうだな。ベッファ、続けてくれ」
「はい。とはいっても、報告すべきはそれくらいです。品行方正成績優秀な典型的貴族令嬢です。いじめの件も、上位貴族が下位貴族にマナーの悪さを注意した程度ですから」
二人はそれを聞いてホッとした。
シルヴィアの作法はお世辞にもうまいとは言えない。
それを理由にいじめるような令嬢がだったらどうしようかと思ったのだ。
正直、多少悪くとも不快感はなく「がんばれ、がんばれ」という気持ちや、合っているか心細そうにこちらを見るのでうなずくと胸を張ってドヤ顔をするかわいさで、なかなか厳しく出来ないのがシルヴィアのマナー上達を妨げているのだが……。
「じゃあ、一応は人間性合格ラインの令嬢だってことだな。ホッとしたよ」
エドワードの言葉にカロージェロもうなずいた。
ダフネとロジーに、交代でブリージダにつくように指示し、今度はジーナとシルヴィアのチェックをする。
「今日は、城主として挨拶しよう」
「わかりました! では、出来る限り威厳ある服装をコーディネートしましょう!」
ジーナが張り切った。
「城主としてはやはり、ドレスよりもパンツですね……。ベストとキュロットパンツにしましょう。落ち着いた色合いにすればより威厳が出ますね。飾りもふんだんにつけて、フリルのあるシャツにすると、女性らしさが出ると思います。ステッキはマストですね! 胸元のリボンは派手めにしましょう! 靴は、パンプスではなく白ベースのウイングチップでかかとのあるシューズを」
コーディネートをテキパキと決めていく。
「髪型がどうにもならないのがつらいですね……。ダフネさんとロジーさんもお手上げらしいです」
髪質が柔らかくてスルッとしていてしかも量が少ないため、二つに結うのすら難儀なのだ。
くせっ毛なのでどうにかなるかとおもいきや、わりとどうにもならない髪質だった。
エドワードが苦笑する。
「シルヴィア様がまだ幼いからかもしれないから。成長するにつれ、自然とどうにかなってくるよ」
「そう思いたいです!」
ジーナが願うように力いっぱいに言った。