第78話 その忠誠を信じよう
ベッファが小声でエドワードに尋ねた。
「……探りますか?」
エドワードは少し考えた後、シルヴィアに尋ねる。
「シルヴィア様。どうされます? 騎士団員は忠誠を誓っておりますが、家族はそうではありません。勝手に住まわせる可能性があります」
尋ねられたシルヴィアは、キョトンとする。
「ん? そんなことはしないです。勝手しないです」
シルヴィアは言い切り、その場にいたナルチーゾ族団員とその家族が絶句した。
「…………そうですね。――ということだ、ベッファ。騎士団員の忠誠を信じよう」
「…………承知いたしました。浅慮でよけいなことを申し出まして、申し訳ありません」
ベッファは感動し、深く頭を下げて謝罪する。
「いいよ。俺もチラッと思った。……けど、シルヴィア様を受け入れ忠誠を誓った、その気持ちを俺も信じるよ。何せ、お前っていう前例もあることだしな」
ベッファが最初シルヴィアを騙そうとして失敗し、シルヴィアに拒否され、そこから挽回したことを当てこすったらベッファがものすごく情けない顔をした。
「あれは、人生最大の失敗でした……。そうですね、俺も最初はシルヴィア様に拒否されエドワードさんには疑われましたが、受け入れていただいてからは絶対に裏切らないので信じてほしい、と、常に思っています」
すると、騎士団員やその家族も口々に言った。
「もちろん、私も忠誠を誓っていますし、シルヴィア様が受け入れない者を隠れて住まわせるような真似はいたしません。そして、そのような者は、たとえ誰であれ叩き出します」
「私も一緒です。住居までいただいているのに、仇をなすような真似はいたしません」
「私もです!」
シルヴィアはうむ、とうなずき、エドワードはそんなシルヴィアをふわふわと撫でた。
*
ノマーニは、暴れ逃げようとするマリアーノに猿ぐつわをかませ縛りあげた上で担いで運び、関所でマリアーノの入国拒否手続きをとり、自身もそのまま出た。
「……話をつけてくる。今日中に戻れないかもしれないが、朝イチで入国して城塞に入るよ」
「…………お気をつけて」
微妙な顔をしている他の警備の者に、苦笑して見せた。
「子育ては、ままならないな。……だが俺は長だ。俺の家族はコイツだけじゃなく、ナルチーゾ族全員。一人の不届き者のため、全員を犠牲には出来ないのをわかっている」
警備の一人が控えめに言った。
「……ベッファも、一度は拒否されても再度願い出て受け入れてもらえたと言っていました。ならば――」
「いや無理だろう。万事そつの無いベッファが、シルヴィア様の悪口を言ったなんて思えない。コイツはあろうことか、我らナルチーゾ族の主に暴言を吐き詰めよろうとした。同じ血の者だからこらえたが、これが赤の他人なら、ベッファでなく我らが首を刎ねただろう」
「…………」
仲間が黙った。
確かに、族長の息子でなかったら、仲間も耐えていなかった。
ノマーニは、追いかけてきた妻に目線を送った。
妻は、マリアーノを溺愛している。
マリアーノの反抗的な態度の一端は、父親の仕事、日々の貧乏暮らしに文句を垂れ流すマリアーノを、叱らず諭さず謝ってばかりいる妻のせいもあった。
ノマーニは、そこまで嫌っている情報屋の仕事を継がせる気はなかったし、それほど貧乏暮らしが嫌なら別のところに働きに出ろ、と常々言っていたのだが、文句を言うわりには家から出なかったのだ。
自分が同い年の頃は、すでに族長の息子としての自覚を持って身体を鍛え父親についていろいろ勉強していたぞ……と、ノマーニはマリアーノの貧相な身体を見ながら思いを馳せた。




