第77話 例外はいる
ノマーニたちは、休日をうまく使い一族を呼んだ。
ナルチーゾ族がバラバラになってから十年以上経つ。
ちなみに、以前の勤め先から追い出したのは司法官長だ。
当時、ナルチーゾ族が勤めていた子爵家の息子に司法官長が手を出し、探りを入れていた彼らを司法官長が疎ましく思って権力と弁説をふるって子爵家から追い出したのだった。
結婚相手の親族を頼ったり偶然いい仕事を見つけられて生計を立てた者もいるがそれはごく少数で、ほとんどは情報屋等の裏稼業的なことをこなし、一族で支え合い生活してきた。
ナルチーゾ族のほとんどに『絆の強い家族』という意識があるため、一族で固まって住みたがったのだ。
ノマーニから仕官の話を聞いた一族は大喜びだ。
裏稼業から私設騎士団は大出世、しかも住居も整備されているところが与えられ、すぐにでも農業や漁業が出来そうな設備まであるときたら、一族でない嫁なども大喜びした。
――だが、そういう意識が薄い者もいる。
ノマーニはナルチーゾ族の長の家系で、現在の長だ。
父親である先代の長は子爵家から追い出された後一族のために奮闘し、住み処を探したり職を探したりしているうちに無理が祟って亡くなった。
情報屋は、ノマーニの案だ。
一族は諜報を得意としていたので、それを活かすとなると情報屋が一番だったのだから、ノマーニは後悔していない。
ノマーニは結婚して息子がいたが、貧乏暮らしで苦労をかけたし、人に言えない職業で肩身の狭い思いをさせてきた、という自覚はある。
そして、そんな父を尊敬できないと思う気持ちも、反発心もわかっていた。
だから――
「その人はダメです。住めないです」
シルヴィアが冷然とノマーニの息子マリアーノを指して告げたとき、「やはりな」という気持ちの方が強かった。
そもそも、態度が悪かった。
妻のフローラがどれだけなだめても、マリアーノはふてくされたような悪びれた態度で当たり散らし、「こんな端っこの僻地の、小さな騎士団なんかに入れるって喜んでるのかよ!」と、とんでもないことを抜かしたのだ。ノマーニはひっぱたいて黙らせ周りに謝罪した。
父であるノマーニが周りに謝っているのを見たマリアーノは、涙目で睨みながら侮蔑の視線を向けていた。
そして現れたシルヴィアを見て、啞然とした後、心底ガッカリした態度を取ったのだ。
ノマーニは、エドワードが斬りかかるんじゃないかと思ったが、特に反応はない。
むしろ、斬りかかりそうなのはベッファだ。
「助けてもらった恩は返したし、紹介した恩は仇で返ってきたことだし、首を刎ねていいですかね?」
「もちろんダメに決まっているだろう? あと、住民希望で十人に一人はこんなんが雑じっているから、いちいち気にしていたら身が持たないぞ」
と、ベッファにエドワードが諭していた。
シルヴィアに住めないと宣告されたマリアーノは、口を目を大きく開けて呆け、その後激昂した。
「なんだとチビ! もう一回言ってみろ!」
ベッファは一歩踏み出し短剣を握りしめ、エドワードに声をかけた。
「エドワードさん――」
「ベッファ、ステイ。これもよくある発言だ」
エドワードは笑顔で言っているが、こめかみに血管が浮いている。
ノマーニは、シルヴィアに詰め寄ろうとする息子の頭をつかみ、床に叩きつけた。
「処罰は、いかようにもお受けいたします」
エドワードは直立した姿勢のまま、シルヴィアに確認する。
「シルヴィア様、いかがなさいますか?」
「その人は住めないです。ここにはいられません」
シルヴィアは無表情で機械的に繰り返す。
エドワードはうなずくと、ノマーニに告げた。
「だ、そうだ。――住民希望者がシルヴィア様に『ノー』と言われた者はどうするか、覚えているか?」
ノマーニは、頭を下げつつ答える。
「この城塞都市から追い出し、二度と入れないよう手続きを取ります」
エドワードはノマーニを見ながら答える。
「その通りだ。なら、手続きを取ってくれ。暴れるだろうが決して逃げ出さないよう、複数人で対処するように」
「「「はっ」」」
今日の警備担当が返事をする。
痛さに悶絶しているマリアーノを数人が持ち上げ、引きずっていった。