第76話 私設騎士団設立
ノマーニたちは、次にエドワードのもとへ向かった。
騎士団のトップはエドワードだ。
ゆえに、ノマーニたちはエドワードの指示を常に仰がなくてはならない。
「エドワード団長、指示通り確認を行い、ひとまず引き揚げてまいりました」
エドワードは、ノマーニたちを見て何度かまたたきした。
ずいぶん違ったな、と、思ったのだ。
だが、そこには触れず報告を促した。
聞いたところ、畑や漁業を行っていたらしく、それらしき場所が復活していたそうだ。
住居もすぐにでも住める状態だったという。
「特に支度はいりませんでした。とはいえ、まだ雇っていただいたばかり。お役に立ってから家族を呼びたいと思います」
生真面目に言ったノマーニに、エドワードが返した。
「いや、そこは好きにしてくれ。どのみちシルヴィア様がノーと言ったら住めないし」
ノマーニが笑う。
「もちろん、きちんと言い渡します。シルヴィア様を敬わないと縁を切る、と」
全員が深く頷き同意したので、エドワードは、どうして皆そう極端に走るんだ……と首を傾げながらも、
「……そこも好きにしてくれ」
と、返した。
ノマーニが、シルヴィアにも礼を言いたいというので連れていくと、シルヴィアは豚に乗っていた。
「突撃です!」
と、豚に指示し、豚はシルヴィアが振り落とされない程度のスピードでトコトコと進む。
今日はダフネとロミーがシルヴィアについていたが、二人ともニコニコしながら小さく拍手している。
遠方では、シルヴィアを見たベッファが鼻血を噴いていた。
威厳はないけどかわいいんだよなぁ、とエドワードは思いつつシルヴィアに声をかけた。
「シルヴィア様。ノマーニたちが集落を魔術にて復旧させたことに対して礼を述べたいそうです」
と、エドワードが振り返ったらすでにノマーニたちは片膝をついて頭を下げている。
「ん!」
シルヴィアがこちらに来て豚から下りると、ノマーニが代表して礼を述べる。
「シルヴィア様の素晴らしい魔術のおかげをもちまして、我らは悲願を達成いたしました! これからはその恩に報い、シルヴィア様に忠誠を誓いシルヴィア様に仇なす者はすべて粛清し血祭りにあげ――」
「ストップストップ」
エドワードが遮った。
「なんでそうなるの? 物騒すぎるだろ。あと、よけいにもめ事が増えるから却下だ。普通に勤めてくれ」
エドワードが注意すると、
「大丈夫です! 我ら暗殺も得意としております! 情報収集もお手のもの! 秘密裏に始末いたします!」
と、ジルドという名の男が嬉々として言った。
しかも、全員笑顔でうなずいている。
エドワードは頭が痛くなってきた。
「命令に従ってくれ。……気持ちはわかるが、やり過ぎるとシルヴィア様の名に傷がつくから」
エドワードが説得すると、顔色を変えて深刻そうにうなずいた。
シルヴィアは、エドワードも襲いかかってきた弱っちい相手をしつこくかまうし、おんなじじゃないかな? と思ったが、首をかしげるだけにした。
好きにすればいいのです。止めないのです。
――こうして無事、シルヴィアの私設騎士団が作られた。
ジーナがデザインし服飾店に発注した制服も出来上がり支給され、見た目はじゅうぶんだ。
エドワードは武器庫にある武器を貸し出し、見回りと警備のときに装備するように言った。
そして、ノマーニたち騎士団が町や城塞を定期的に巡回することにより、治安が復活してきた。
帯剣した騎士は、犯罪者の牽制になる。
それだけではない。
彼らはもともと情報屋だ。町に溶け込むのも上手いし、警戒心を解くのも上手い。
すぐに町民とナルチーゾ族はなじみ、頼りにされていった。




