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51話 町の現状

 シルヴィアが治めるこの半島は、資源が豊富で第一次産業も盛んだ。ゆえに孤立した半島でも廃墟都市にならずに済んでいた。

 さらに、橋が出来たことで隣国から何か商売にならないかと人がやってきて、どんどん交易が盛んになっていった。

 今まで余りがちだった収穫物が急に取り引きされることになり、エドワードとメイヤーが慌てて制限することになったくらいだった。

 急激に人の流れが活発になり都市が混乱したが、今はだいぶ落ち着いている。


 急激な人の流れで一番困ったのが宿屋だった。

 今までは、ごくたまに隣国から船でやってくる商人が泊まりにくるくらいだったのだ。宿屋としてはほぼ機能していなかったため、食事処を開いてそちらで切り盛りしていたくらいだ。


 それなのに、いきなり人の流れが活発になり、隣国からの旅人が訪れ宿屋に泊まるようになったので、てんてこ舞いになってしまった。

 一時期は客室の数が足りなくなったりもしていたのだ。

 エドワードが命じて急ごしらえで素泊まりの公共宿を建て、どうにかしのいでいた。だが、その現状を見て「援助してくれるのなら宿屋を経営してみたい」という者が現れたので、天の助けとばかりに歓迎しシルヴィアが無人の家をリノベーションして宿屋に変え、希望者に雇われ主人として経営させている。

 金が貯まったら宿屋を払い下げるとした。

 元祖宿屋もかなり儲かっているようで、増築に入ったという。


 ――そもそもこの町は人口が少なかったため、メイヤーの指導が入るにしろ、希望すればどこにでも家が建てられた。

 第一次産業を営んでいる者は適した土地の辺りに住んでいるし密集するほどではないが、第三次産業辺りになってくるとそれなりに町の形成をとってそれなりに集まって住んでいる。


 エドワードはシルヴィアも交え、メイヤーと相談して都市計画を立てた。

「まず、適当に呼んでいたこの城塞都市の名前を正式に『フォルテ』と名付けましょう」

 エドワードは、もともと通称が半島の名前であるフォルテ城塞都市だったので、そのまま付けたのだが、メイヤーは首を傾げる。

「……どうせなら、シルヴィア様の名前にしたほうがいいのではないですか?」

 エドワードがシルヴィアを見ると、シルヴィアは首を横に振る。


「いやです」


 珍しく、キッパリと嫌がったので、エドワードはメイヤーに告げた。

「シルヴィア様が却下されましたので、フォルテになります」

 メイヤーは肩を落とした。


 町は『フォルテ城下町』とし、橋から城塞を結んだ辺りの区域とした。

 他は『フォルテ近郊』と定める。


「今までどおり、物を仕入れて売る店や宿屋や食堂などの客商売は城下町に集めましょう。逆に、地元民のみを相手する場合は近郊にした方がよけいなトラブルに巻き込まれないかと考えます」

 メイヤーがそう言うと、エドワードもうなずいた。

「妥当です。それでいきましょう」

 メイヤーはそっと続ける。


「……せめて城下町は、シルヴィア様の名前をつけたほうが――」

「いやです」


 皆まで言わせずシルヴィアが即嫌がる。

 メイヤーは肩を落とし、エドワードは笑いをこらえる。


 メイヤーとしては、この都市をまさしく〝再生〟したシルヴィアの名前をどこかに残したい。なんなら銅像を建てたい。

 だが、シルヴィアは、そんなことをされたくない。

 自分の名前が好きなわけでも気に入っているわけでもないのに、なぜ都市の名前にしようとするのかわからない。

 フォルテのほうがいい名前だと思う。


 ついでに言うと、都市に自分の名前をつけると連呼される気がする。落ち着かないので嫌だ。

 シルヴィアは、町をいばって歩いたとき、ニコニコしながら手を振ってくれるくらいがいい。行き過ぎは怖い。


 エドワードは、二人の気持ちがわかる。

 もう破綻限界に来つつあった都市を再生したのはシルヴィアだ。

 その感謝の気持ちと尊敬の念を、『都市に名前をつける』ということで表したいのだろう。


 だが、自分だったら絶対に嫌だ。ならばシルヴィアだって嫌だろう。

 シルヴィアが英雄思考の持ち主なら素直にうなずくだろうが、シルヴィアは普通の感性の持ち主だ。そんな恥ずかしい真似をしてほしくない、と思う気持ちはよくわかる。


 なので、嫌がるシルヴィアの気持ちを尊重して、敢えてもともと呼ばれていた名前をつけるよう推したのだった。


「次は、警備の件ですが……」

 エドワードはそう言うと、眉を下げ困り顔になった。


 この町の住民は皆、気のいい者ばかりだ。

 だが、隣国との流れが出来て犯罪が増えている。実際、シルヴィアが視察中に破落戸に襲われそうになった。

 ジーナにも進言されているので、本当は有志による町の警備隊ではなく、本職を雇いたいのだが、非常に難しい。


 住民だと、人が良すぎて巡回と取り押さえくらいしか頼めないし、希望者を募るとシルヴィアの魔術を撥ねつける荒くれ者ばかりが集まる。


「困ってますか?」

 シルヴィアがエドワードに尋ねると、エドワードが苦笑する。

「騎士団がほしいです。シルヴィア様に忠誠を誓う者たちを集め、この都市と城塞を任せたいんですけどね。俺程度すら捕まらないので……」

 シルヴィアは、なんとかしてあげたいけどさすがに自分ではどうすることもできない。

 そんな魔術はないからだ。


「……馬さんと、牛さんと、羊さんと、山羊さんと……豚さんと鶏さんも、頼めばやってくれますよ?」

 考えた末に言うと、エドワードが声を出して笑った。

 メイヤーも微笑ましく思い、微笑した。


「シルヴィア様は、本当にお優しい」

「えぇ。……確かにそうなんですけど、もっと必要なんですよ。あと、彼らは城塞の守りに徹してほしいので、町の警備は他の者に任せたいんです」

「そうですか」

 シルヴィアが考え込んだ。

 エドワードは、そんなシルヴィアを撫で、礼を言う。

「気にかけていただき、ありがとうございます」


 メイヤーがエドワードに向かって言う。

「引き続き、警備の募集は急募ということで出しておきます」

「お願いします。……そうですね、城下町に店が集中しているのに、そこから外れる余所者は目立つはずですから、そのような者には住民が声がけするようにすれば、あとは町の見回りでじゅうぶんですかね。トラブルに関しては、どんな理由だろうと問答無用で牢屋に放り込んでください。一日そこで反省してもらい、時間ができたときに私がまとめて対処します」


 エドワードとしては、シルヴィアを受け入れているこの都市の住民の方が信用度が高い。

 住民同士のトラブルは住民同士で解決するから警備隊など出る幕ではないので、警備隊の出るいざこざは訪問者の方が絶対的に悪、と決め打ちにして対処することに決めたのだった。


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