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5話 幼女、優男を従える

 シルヴィアとエドワードは、次の町まで安全かつ迅速に着いた。町に着いたエドワードは、そのことに対して酷く不審に思った。


 シルヴィアの【防犯】やら【害獣駆除】やらの謎魔術はもう理解出来ないのでそういうものだと思うようにしている。だが、エドワードが一番疑問に思ったのはシルヴィアや家畜の移動スピードだ。

 青年であるエドワードと四足歩行の家畜はともかく、幼女と鶏はなぜこのペースで歩けるのだろうか。普通なら一時間もしたら疲れて歩けなくなるはずだ。

 自分の知らない謎魔術の一つかもしれないと考え、エドワードはシルヴィアに尋ねた。

 すると、【支配】の効果だとシルヴィアは言う。

「なんだその魔術?」

「『私がリーダーです――【支配(ドミナント)】』」

 シルヴィアが唐突に言った。

 エドワードは戸惑いつつもうなずく。

「そうだな。……確か最初に会ったときも言ったな」

 一緒についていってやろうかと提案した後で、そう言ったのだ。

 幼女の子どもらしい虚栄心かなとうなずいたのだが。

「私をリーダーだと認めたら、私の言うことを聞くのです」

 エドワードは、その言葉をじわじわと理解していった。

「……それが、【支配】の詠唱なのか?」

 シルヴィアがうなずいた。

 エドワードは、その魔術はシルヴィアだけではなく己自身にもかかっていることを瞬時に悟った。

 エドワードは油断した、と顔を白くした。気づかないうちにエドワードは、シルヴィアに支配されていたのだ。

 シルヴィアは感情のない瞳で白くなったエドワードを見て言う。

「私をリーダーと認めたら、リーダーのために疲れないです。リーダーのために強くなるです。私もそうなるです」

 それを聞いて、そういえば自分も全然疲れないな、とエドワードは思い至った。

 隣町まで歩く程度ならさほど問題はないが、それにしたって疲労感や軽い筋肉痛すら起きないほど全然疲れない、などということはないのだ。

 ……だが、たとえその利点があったとしても他人に支配されるのはまっぴらごめんだ。エドワードは油断した自分に内心舌打ちをしながらやさぐれた感じでつぶやいた。

「――で? リーダーが『死ね』って言ったら死ぬってか?」

 エドワードの言葉を聞いたシルヴィアは驚いたのか目をパチクリさせた。


 その表情を見てエドワードは落ち着いた。確かに、幼女がそんな命令を出すわけがないか、と。

 驚いた顔のままシルヴィアは返す。

「リーダーが言ったって、嫌なことはしないのが普通です。でも、リーダーの言うことはどこにいても聞こえます」

「あ、そういう魔術ね」

『言うことを聞く』というのはまんま言葉の通りだった。

「なら、家畜たちも、お嬢ちゃんが呼んでも無視するんじゃないのか?」

 とエドワードが尋ねたら、また驚いたのかシルヴィアがパチクリする。

「無視しないです。そんな子たちじゃないです」

 どうやらシルヴィアと家畜は、信頼関係を結んでいるらしい。


「エドワードも、私が呼んでも無視しないです」

 と、シルヴィアが言いだしてエドワードが詰まった。

 そんなワケねーよ、と言ってやろうかと思ったが、子ども相手にムキになって反発するのもかっこ悪いと、エドワードは黙ってシルヴィアの頭を撫でるだけにした。


「リーダー、か」

 エドワードがボソリとつぶやくと、シルヴィアの前にひざまずいた。

 そして、うやうやしく手で右胸を押さえ頭を下げて挨拶をする。

「リーダーであるシルヴィア・ヒューズ様に、貴族令嬢として接したほうがよろしいでしょうか?」

 シルヴィアは度肝を抜かれて立ち尽くした。

 エドワードは、してやられた感があったので、ちょっとからかってやろうと思ってやったのだ。

 調子に乗ったらすぐさま別れてやる、呼ぶ声も無視してやると考えつつエドワードが顔を上げたら、目をまん丸くしたシルヴィアがエドワードを見ている。

 そして、言った。

「エドワードは、てんさいです」

「答えになってねーから」

 エドワードはすぐさまツッコんだ。そして苦笑する。

「今までどおりでいいってことかな?」

 目をまん丸くしたままシルヴィアがうなずくと、エドワードはぽんぽんとシルヴィアの頭を撫で、手を取ると立ち上がった。

 エドワードはふと思い出したのだ。かつての上司で守る相手だった第三王子を。

 これくらいの年齢の時に引き合わされたんだよな、と思い出し、彼女はそういえば勘当されたわけではなく、辞令代わりの契約書を受け取っただけだなと思い至ったのだった。

 ならば、彼女はまだ公爵家令嬢だ。そして自分は平民。貴族時代でも彼女のほうが身分は上だ。

 知った時点で敬語を使うべきだったのに、いろいろ度肝を抜かれることが立て続けにあり飽和状態で、つい幼子に話す口調になってしまっていた。


 エドワードに臣下の礼で挨拶をされたシルヴィアは驚いた。シルヴィアは、今までそんなふうに丁寧に話しかけられたことが一度もなかったからだ。そもそも会話をしたことがほとんどなかった。

 まだ驚いたままのシルヴィアを見てエドワードはクスリと笑い、抱き上げて片手で抱えた。


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