第108話 ミックとディエゴ
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ディエゴに関しては、ミックに様子を見てきてもらうことになった。
もしディエゴから二人のことを聞かれたら答えていいが、二人が料理店に戻ることはないということだけは最後に必ず付け加えるよう、カロージェロはミックに頼んだ。
*
ミックは石材屋の三男坊だ。
石材屋は、鉱業とは違い必要ではあるが、さほど需要がなかった。
三男坊ともなれば、確実に家を出されること必至だ。
次男坊はうまいこと雑貨屋の娘のところに婿に行った。
家を出ることが決定しているミックは家業を教わることはなく、幼いころから荷運びばかりさせられていた。
また、それだけでは暮らしに困るからと、時間雇いで荷運びの仕事をメイヤーから斡旋してもらっていた。
その日暮らしで、体を壊したら一巻の終わり。
怪我でもしたら、とたんに明日からの賃金に困る。
そんな仕事をしているミックがディエゴをうらやむのは当然だ。
ガストンとデボラは、ディエゴの将来の仕事を考えて料理を教えていた。
仕出屋でもやるか、なんて呑気に言って笑っているディエゴは、自分が恵まれていることに気がついてもいない。
石材屋の三男坊に産まれたばっかりにみそっかす扱いで、家族からは行く末の心配すらされない。
一時は隣国へ渡ろうかと考えていた。恋人ができたので、踏みとどまったのだ。
だが恋人も服飾店のお針子で、ミックと同じく儲けは少なく怪我でもしたら明日からの食いぶちに困るし、他人を養う余裕などミックにも恋人にもない。
結婚は、ミックが定職に就いて安定したら、という話になった。
だからミックは恋人とは結婚できないだろうな、と考えていた。
ところが、城塞にシルヴィアが滞在するようになってから風向きが変わった。
城塞で、使用人を大量に募集したからだ。
ミックはすぐさま立候補した。
最初のころは人手が足りず、なんでもやった。
荷運びはもちろん、掃除、洗濯、町の警備、頼まれるがままに東奔西走した。
今は荷運びで落ち着いている。
ミックはもともと荷運びをやっていたので荷詰めも上手だし、どこをどう行けばいいのか、誰がいつどこにいるかを熟知している。
本人は自覚がなかったが、荷運びに関してはプロだったのだ。
道で行き交う住民に、
『ミックが荷運びをやってくれなくなって困ってるよ』
と言われるのを社交辞令だと思っていた。
だが。
ミックがベッファに相談したときに言われた、『ミックも城塞に必要な人材だ』という言葉に心を揺さぶられた。
ミックが重い荷物を運ばなければ、誰が運ぶというのだ。城塞には暇を持て余している使用人など一人もいないのだから。
「ディエゴの様子を見たら、帰りに服飾店に寄ってみるかな……」
そろそろプロポーズをしてもいいのかもしれないと考えた。
*
――と、思いをはせつつ料理店に向かう途中で、ばったりとディエゴに出会してしまった。
「「あ」」
互いに姿を見て、声を洩らす。
ミックは、見つからないように様子をうかがうつもりだったのにと反省したが、いまさらしらばっくれるのも不自然なため挨拶した。
「よう、久しぶりだな」
これで別れようと思ったが、ディエゴはミックに向かってズンズン近づいてきた。
「お前、確か城塞で働いてるよな!?」
ミックは舌打ちしたくなった。
そう、ミックは定職に就けると浮かれて、たまたま近くにいたディエゴに話したのだった。
ディエゴは関心がなさそうに相づちを打っていたので忘れていると思ったが……覚えていたのか。
「だから? ……お前、俺が話したときはなま返事で相手にしなかったのに、急にどうしたんだよ」
嫌みを混ぜたが、わかっていないのかそれどころじゃないのか、食ってかかるように言ってきた。
「親父と姉貴に、料理店に戻るように言ってくれ! 追い出したことは謝る! なんなら俺が城塞で働くよ! だから――」
「バカにするのもいい加減にしろ!」
思わずミックは怒鳴った。
ディエゴはわかっていない顔で呆けている。
「城塞には、シルヴィア様がいるんだぞ! お前程度の腕前の奴が働ける場所じゃないんだよ! ガストンとデボラはシルヴィア様から認められる腕前で、いまさら料理店へは戻れない! だいたい、追い出したんなら自分がなんとかしろよ! なんでお前の失敗を家族に尻拭いさせんだよ、もうお前の料理店なんだろ!?」
ミックにそう怒鳴られたディエゴは呆けたままだ。
ミックは、呆けているディエゴが信じられなかった。
ミックの言葉が理解できていないようなのだ。
シルヴィアは貴族。
ここを含めた領地を治める公爵家の令嬢で、さらにはこの都市を治める城主でもある。
それでなくたって、これだけこの都市の発展に貢献している方だというのに、そんな彼女を侮った発言をして、それに対して怒鳴られたことが理解できないことが理解できない。
ミックはどう言ったら理解できるのだろうと途方に暮れそうになった。




