第107話 覚悟を決めた二人
『城塞幼女シルヴィア』1巻2巻と連続刊行しました!
webはもちろんのこと、旧作からもブラッシュアップし既読の方にも、というより既読の方こそ楽しめる内容にしました!
webとは印象が変わった登場人物もいるかもしれませんよ!?
まだお求めでない方は、何卒よろしくお願いします!!!!
呆れと腹立たしさが去り、今度は家族としての情愛と心配が二人の胸の内に広がっていくのを見てとったカロージェロは、さらに二人を諭す。
「どちらにしろ、ディエゴさんに自身でどうにかしようという気概がなければ、お二人が料理店に戻るしかない。ディエゴさんに技術を指導しても、その心構えや気概がなければ無理でしょう。それは、ディエゴさん自身が乗り越えるべき壁だと、私は思います」
「「…………」」
ガストンとデボラも、カロージェロの言っていることは理解できる。
だが、家族としては納得できていない。
自分たちが料理店を任せられるまでしっかり指導すればいいのではないかと、どこかで考えている。
納得できていない様子の二人に、カロージェロはわかりやすくたとえる。
「今回、ディエゴさんは頼れる二人を追いだし一人でやろうとして失敗しました。だから、二人に来てもらって建て直してもらいたい、そう考えているようです。――それで、建て直した後ディエゴさんに任せたとして……ディエゴさんがまた失敗しお二人にまた戻って建て直してほしいと頼んできたら、どうするのです?」
二人は絶句した。
だが……あり得る未来だ。恐らくディエゴはそうするだろう。
失敗したら親父と姉貴を呼んで尻拭いしてもらえばいい、自分はこっぴどく怒られてしごかれるだろうが、それを我慢すれば丸く収まる――そう考えるだろう。
ようやく理解できたガストンとデボラに、カロージェロは優しく笑いかける。
「ですので、長期的に考えてください。ディエゴさんがどうするかはわかりません。それはディエゴさんが決めることです。ただ、もしディエゴさんが店を諦めたとしても、お二人がここで他の料理人を育てあげ、その者たちに任せられるほどになったとき、そこで引退してまた料理店を興せばいいじゃないですか。シルヴィア様とブリージダ様のお墨付きの腕だと声高らかに宣伝すればいいのですよ。そうしたら簡単に復興できます」
カロージェロの説得に、二人は遠い目をしながらもうなずいた。
――それは、かなり先の話になるだろう。
だが、そうするしかないのはわかっているし、そうやって復興したとしても次代には続かないのもわかっている。
だが、もうそれはしかたがない。
何もかもうまくいかなかったわけではない。
こうやって、今貴族の料理人として認められたのだから、胸を張ろう。
*
二人が納得したところに、シルヴィアが現れた。
しかも、扉の陰から中の様子をうかがうように覗いている。
シルヴィアが抱っこしている鶏も、同時に覗いている。
カロージェロがいち早く気づき、すぐに礼をした。
「シルヴィア様。どのようなお話でしょうか」
恐らくはエドワードから頼まれ、『城塞の料理人として代わりが見つかるまでは辞めるな』とガストンとデボラに命令するためにここを訪れたのだろうと察したので、シルヴィアに優しく水を向ける。
「……えっと」
トコトコとやってきて、鶏を抱えたまま話しだす。
「……いつもおいしいごはんを作ってくれてありがとござます。えっと、それで……。いつもおいしいごはんを食べたいので、ここをやめるのはやめてほしいです。ブリージダ様も、おいしいごはんが食べたいから、やめないでって言ってます」
シルヴィアの言葉を聞いたガストンとデボラは絶句し、そして同時にシルヴィアに向かって深く頭を下げた。
エドワードから言われてここに来たのだろうが、シルヴィアのその言葉は、シルヴィア自身が紡ぎ出した心の内そのままの言葉だ。
幼いながらも立派にこの都市を治めている城主が、自分たち二人の残留を望んでいるのだ。
どうして戻れよう。
「もちろん、辞める気はないです。願うなら、ずっと働かせていただきたいです……ッ」
途中、涙声になってしまい、デボラは必死で声が揺らぐのを抑えた。
ガストンは口を引き結ばないと声を上げて泣いてしまいそうだ。
シルヴィアはパアッと顔を輝かせる。
「よかったです! エドワードが二人がいなくなっちゃうかもしれないと言ったので、ビックリしたのです! ブリージダ様もビックリして、私にお願いしてきてって頼んだのです! エドワードはてんさいなのでごはんを作れるけど、二人にお願いしたいです!」
デボラが泣き笑いの表情でシルヴィアを見た。
「ハハッ。そりゃあ驚かせてすみませんでした。でも出ていくなんて考えたこともないですよ。あたしはシルヴィア様の料理人ですからね! 確かに昔はエドワードさんが作っていたって聞きましたけど、あたしがここに来た以上、エドワードさんにシルヴィア様の料理人の座を譲る気はないですからね!」
ガストンも、涙を拭って笑う。
「ハハハ! そりゃあそうだ。シルヴィア様、エドワードさんなんかに渡しませんから安心してくださいや!」
安心したシルヴィアが鶏と一緒に出ていき、ガストンとデボラはスッキリした顔でカロージェロに告げた。
「今ので吹っ切れましたわ。俺とデボラはシルヴィア様の料理人です。シルヴィア様の話っぷりじゃ、俺らがいなくなったらエドワードさんにその座を明け渡すみたいですが、御免ですね。この数か月間必死で作り続けてようやく認められたってのに、料理人でもない御方に負けるワケにゃいかねーですわ」
「その通りだね! 同じく鍛え上げられた料理人に譲るってのならともかく、エドワードさんに譲るのは断固お断りだ! あたしは絶対に振り返らない。ずっとシルヴィア様の料理人を務めますよ」
ガストンとデボラは明るい声で口々に言い切る。
カロージェロはホッとして息を吐いた。
エドワードの采配かどうかわからないが、命令するよりもお願いのほうがはるかに効果があったようだ。
過去も未来も考えず、『今望まれているから』という理由ですべてを吹っ切ってくれた。
もしディエゴがここを訪れて『戻ってきてほしい』と懇願しても、シルヴィア様の料理人としての矜持を強く持った二人なら、うなずくことはないだろう。
ここが書きたくてこの話を書いたと言っても過言ではないのです。




