第105話 呆れる二人
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ガストンとデボラの二人には、カロージェロが話すことになった。
二人がどういう反応を示すかを確認し、そこからどうするかを決めていく。
もちろん、現時点で二人が料理店に戻るのは許されない。
ブリージダが滞在しているからだ。
今、貴族の料理を作れるのはガストンとデボラしかいない。
ゆえに二人の意思とは関係なく、二人は貴族の料理人として料理を作り続けさせられる。
――ただ、二人が嫌だというのに命令できるようなシルヴィアではないので、そこを、エドワードがうまく伝えてシルヴィアを動かすことになった。
*
カロージェロが現れたことに、ガストンとデボラが驚き顔を見合わせる。
最近は要望がないかぎりは滅多に訪れなかった。代わりにベッファが各使用人に会って話を伝えていた。
「今朝、デボラさん宛に訪問があったと聞きました。そのことで話があります」
「……はぁ……。でも、会っていませんよ?」
「えぇ、知っています。ですがミックさんが伝言を頼まれ、その内容があまりよろしくない事態を引き起こすかもしれないので、私が伝えにきたのです」
デボラは困惑しているし、ガストンも戸惑っている。
カロージェロは、二人の家族であるディエゴの現状を伝えた。もちろん、彼の妻であるエリサのことも全て話す。
デボラは口を開けて呆け、ガストンは怒りで真っ赤になった。
「あの……あのバカ息子は……本当にバカだったのか……!」
ガストンとしては、デボラに譲りたかったのにバカ息子が相手を妊娠させてしまい、デボラも結婚相手がいないからというので店を譲ったのだ。
ディエゴは仕出屋をやるつもりだと言っていたが、たとえ隣国との流通が盛んになり観光客が増えたとはいえ、新参者でしかも仕出屋なんてそうは儲からない。
仕出屋の客は地元民。そうなると、いつもの店に頼むに決まっている。
ならば、まだ屋台を開いたほうが観光客に買ってもらえる可能性がある。
それがガストンにもデボラにもわかっていたから譲った。
本来なら、ディエゴとエリサはそれぞれの実家で手伝いを続け、徐々に仕出しを任せていき、タイミングを見て『仕出しはディエゴに頼む』とのれん分けのようにするつもりだったのに……。
嫁に来たエリサが実家に帰ってしまったときも、本音を言えばホッとした。
妊婦の嫁に気を遣っていたが、暮らしが違いすぎてどうしていいかわからない。
何もしないで無事子どもを産み子育てに専念してくれたほうが楽だしそのつもりでいたが、エリサは怒鳴り声に過剰に反応して、なだめようにも脅えて近寄ることすらできなかった。
そしてディエゴは、エリサをそんな状態にしたと二人を責め、追い出した。
だというのに……あれだけ啖呵を切って『出ていけ』と言っておきながら、いざ一人でやってみたらうまくいかなくて『帰ってこい』と言うのか?
嫁も嫁だ、料理人と結ばれるのなら、相応の覚悟を持って嫁いでこい。
料理店を任されたのが嫌なら、最初からディエゴに伝えろ。
そうしたら女房想いのディエゴが『エリサが反対するからやっぱり仕出屋をやるよ、姉貴が料理店を継いでくれ』と言っただろう。
デボラだって、今なら探せば相手が見つかったはずだ。
閉じられた町ではない。今はたくさんの人がいる。
この城塞にも独身男性はいるのだ。
貴族の料理人となってしまった今、ガストンもデボラもここを抜けられない。
だからデボラも結婚を諦めた。
もし結婚したとしても、後継が育ってガストンとデボラが抜けても問題がなくなったときだろう。
だというのに……。
ディエゴの我が儘いっぱいの泣き言を聞いて、あまりの腹立たしさに血管が切れそうだった。
デボラとしては、エドワードと同じく『何言ってんだ?』と思った。
どうにかならないじゃない、どうにかするのだ。それがデボラの考えだ。
デボラより劣る腕前だと思うのなら、デボラを超える腕前になるようひたすら腕を磨けばいい。
材料費なんかはかかるだろうが、でも今後を考えるならやるしかない。
デボラだって城塞に来て悔しさで涙をこぼしそうになりながらも合格レベルに達するため、ひたすら作り続けた。
むしろ、エドワードの優しいひと言のほうがガストンの怒鳴り声より堪えた。
ベッドでは毎夜泣いていた。枕を拳で叩き、それでも早朝から夜遅くまでひたすら作り続けた。
休みなどない。代わりはいないのだから。
倒れないためにも体調管理をキッチリ行い、『絶対にお貴族様を納得させるだけの料理を作ってやる』という情熱だけでここまできたのだ。
それよりは楽だろう。だって、所詮は町の料理店なのだから。
隣国の侯爵令嬢が滞在することになったときは、カロージェロとベッファに聞き込みをして、ガストンと何度も打ち合わせと試行錯誤を繰り返し、カロージェロとベッファに見てもらって研究した。
食事を提供したときは、ガストンと無言で反応を待った。
『侯爵家にひけをとらないほど、おいしい料理でした』という言葉をいただいたときは、さすがに泣いた。
それくらい今の職場は厳しく、そしてやりがいがあり、料理人としての誇りを感じられるのだ。
……それを、『自分が代わりにそっちで働くから、料理店をお願い』って……。




