第103話 幼なじみの訪問
『城塞幼女シルヴィア』1巻、恐らく好調で売り切れ店舗も出ているようです。
悩んでいる方はお早めにどうぞ!
食材は、すべて獲れたての最高品質が城塞に運び込まれる。
領主に一番良いものを納めるのは当たり前だし、ましてやシルヴィアは住民の人気者。言われなくても朝イチで獲れたて野菜が運び込まれ、肉や魚も狩人や漁師が一番いいものが手に入りしだい持ってくる。
料理人としてそれなりの目利きができるガストンとデボラも文句のつけようがない食材ばかりで、だからこそ、この食材を使って『貴族の料理』を出せないのなら、己の腕前以外の理由は考えられないのだ。
「……今日はグレートチキンか……。ホワイトソースで煮るか?」
「シンプルに焼いてもいいけどね。シルヴィア様は骨付き肉はイケるんだろ? ちょっと食べ方の難しい料理にしてもいいと思うよ」
「そうさな。煮込み料理はもう少し寒くなってからでもいいか」
ガストンとデボラが相談していると、荷運びのミックが声をかけてきた。
「デボラ。ラーナが呼んでるんだけど、ちょっと時間とれないか?」
デボラはいぶかしげな顔になり、そしてガストンと顔を見合わせた。
ラーナとは、大工の息子ナポリと結婚したデボラの幼なじみ、パン屋の次女だ。
もしかしたら結婚式の日取りを教えにきたのかもしれないが……。
「悪い、無理だって返してくれるかい?」
デボラがそう言うと、ガストンが口を挟む。
「いや、ちょっとなら俺一人でやってるから行ってこい」
気を利かせたつもりのガストンだが、デボラが信じられないといった顔でガストンを見た。
「親父、正気かい? あたしたちはシルヴィア様の料理人だよ? 約束もなく来た奴のために、シルヴィア様に提供する料理を遅らせるって言うのかい?」
「そうだ、無理だな。ミック、悪いがそういうことだ」
ガストンが即意見を翻したら、ミックもうなずく。
「そりゃそうだ。邪魔して悪かったな。これからは最初から断っとくよ」
城塞の中で働く人々は、上から下まで染まっていた。
*
ミックが使用人用の門の外に立つラーナに告げる。
「無理だってさ。……っていうか、デボラはシルヴィア様の料理人だ。ガストンと二人でやってて、めちゃくちゃ忙しいんだよ。予告もなく来てもまず会えない。ラーナと会ってくっちゃべってたせいでシルヴィア様に提供する料理が遅れるなんて、あっちゃならないだろ?」
ラーナもその言い分に納得する。
「そうよね……。料理店を手伝っていたときもすごく忙しそうだったし……。じゃあ、伝言だけお願い」
ラーナはひと息つくと、ミックに伝えた。
――ミックはその伝言を聞いて、デボラではなくベッファに伝えた。
「デボラは仕事に厳しいけど、わりとお人好しなところがあるんですよ。デボラが大工の息子のことを好きなのなんてみんな知ってたのに、幼なじみがソイツを好きだってデボラに告げたせいで、譲るような真似をしたし。……なんで、この伝言を聞いてデボラがどう動くのか心配で」
ミックも、てっきりナポリとラーナの結婚式の日取りが決まったという伝言かと思っていた。
招待したとしても、デボラが行くのは無理だろう。
シルヴィアなら『きょかします!』とか言いそうだが、今は隣国の侯爵令嬢が滞在している。
下級使用人のミックは見たことがないが、他の使用人から聞くところによると、マナーを教えにきただけあって、高貴で優美な令嬢らしい。
そんな人が滞在しているのに、料理人が抜けたらまずいにもほどがある。
なので、デボラに伝える前に『無理だよ』と断ってやろうかと思ったら、そんな話ではなかったのだった。
「……実は、今話した、デボラの幼なじみっていうパン屋の次女が今日来ましてね。デボラは忙しくて会わなかったんで、俺が伝言を聞いたんです。そしたら、ちょっと……デボラに伝えるのはどうかって思う内容で」
ベッファはうなずくと、その伝言を聞いた。
内容は、ラーナの妹の話だった。もっと言うと、デボラの弟であるディエゴの話でもあった。
ひと言にすると、うまくいってない。
まず、デボラとガストンを追い出したディエゴは、妻であるエリサを呼び戻した。
さすがに一人で店を切り盛りはできないので、給仕だけでもと頼んだのだが……慣れてないエリサは失敗ばかり。
さらに、ディエゴも一人で店を回せる力量がない。
ディエゴは強い口調でエリサを叱り、それでまたエリサは実家に帰ってしまった。
エリサに頼むことを諦めたディエゴは人を雇うことも考えたが、そうなると給料を払わないといけない。
いくら払えばいいのか、どこまでをどうやってもらえばいいのかわからない。
しかも、ディエゴの腕はガストンにもデボラにも劣る。
味が落ち、サービスが落ち、さらに提供も遅いとなれば、当然客は寄りつかなくなる。
この状況で雇ったとして、果たして給料が払えるほどの客が戻って来るのか。
ディエゴは悩みすぎて、店を閉めてしまった。
エリサはエリサで、姉二人から叱られた。
『怒鳴り合いが怖い』と脅え泣いていたときは、今までと環境がガラリと変わったし妊娠中だから過敏になってもしかたがないと家に置いたが……。
エリサのためにディエゴは父と姉を追い出したというのに、一人になった夫を支えずにまた戻ってきて『あんな意地悪な人だとは思わなかった』などと言ってむくれているのには呆れるしかない。
そして、もう料理店を手伝う気はないようで、
「やっぱり私はずっと実家にいるここを手伝う、あんな人と一緒にはやっていけないし、料理店は大嫌い」
と言いだしたのだった。
ナポリはラーナからそんな愚痴を聞き、弟分としてかわいがっていたディエゴの様子を見にいったら店が閉まっていて仰天した。
店の戸を叩き、出てきたディエゴから事情を聞いて以上が判明したのだ。
ディエゴはすっかり自信を失い、
『俺では店を潰してしまう。俺が家を出て城塞の料理人になるから、せめて姉貴だけでも戻ってきてほしい』
とナポリに訴えたという。
ナポリはデボラと連絡を取り合ってない。
最後に、冗談交じりで告白して以降、会ってないのだ。
もしかしたらラーナは会っているかもとディエゴから聞いた話を伝えると、ラーナが請け負って城塞に現れた……というわけだった。
あけましておめでとうございます!
本年も拙作をどうぞよろしくお願いいたします。
返信、途中からですがお返ししました。
途中で力尽きた回は申し訳ありません……。遡って全部は無理でした。
時間を見つけてはちょいちょい返しているんですけど、どんどん溜まっちゃうんですよね……。
いよいよ今年、1月30日に切望した2巻が刊行されます! 出せてよかった……!
それとは別に、2月に『脳筋聖女は、すべてを物理で解決する。』って作品が電撃の新文芸様より発売されます。
合わせて3か月連続刊行です! 大変過ぎて死ぬかと思いました!
何卒よろしくお願いしますー!!




