第102話 料理人のその後
【お知らせ】
城塞幼女シルヴィア1巻、GCノベルス様より絶賛発売中です!
来月には2巻を控えておりますので、何卒よろしくお願いします!!
そして、ガストンとデボラの現在はというと……。
「――エドワードさん。夕食のメニューはこんな感じですけどどうですかね?」
「うん、いいですね。この魚は調理が難しいと聞いていましたが、非常に素晴らしい出来上がりです」
エドワードに合格をもらったガストンとデボラは大きく安堵の息を吐いた。
二人は、『所詮町の料理店だった』ということをエドワードとカロージェロから思い知らされた。
二人とも舐めてかかっていたのだが、勤めてから一か月後、
「そろそろシルヴィア様にテーブルマナーを学んでいただきたいと考えています。ですので、お二人にも『平民の食事』ではなく『貴族の料理』を作っていただくようお願いしたいと思いまして」
と、エドワードからニッコリ笑顔で宣告され、凍りついた。
エドワードは元侯爵家子息。そしてカロージェロは隣国の侯爵家後援の男爵家子息。
二人から『貴族の料理とは』をよってたかって教え込まれた。
何度もダメ出しをされ、作り直しさせられた。
「想定しているのは、隣国との食事会でしょう? まずは、隣国の料理で教えるべきです」
「その前に、こっちのテーブルマナーを教えとかなきゃだろうが! 基礎があってから応用だよ!」
罵り合いはガストンとデボラの比ではないエドワードとカロージェロ。さらにガストンとデボラが加わるのですさまじいことになる。
シルヴィアは真似をさせれば異なるマナーでも特に混乱することはないため日替わりでこちらと隣国の料理を出すことになったのだが、どちらも作ったことのないガストンとデボラは毎日が挑戦だった。
もともと腕前が良く、しかも負けず嫌いで向上心の高い二人だったので新しい料理をどんどん覚え、見た目も美しく味も繊細な料理を作れるようになったのだが、この町の他の料理人なら音を上げて辞めてしまっていただろう。それほどにダメ出しを食らい作り直しをさせられてきた。
*
使用人までの賄いをようやく出し終わり、ガストンとデボラは一服する。
ふと、デボラがこぼした。
「……あんとき、隣国に行ってたらさ……」
ガストンがデボラを見た。
デボラは遠くを見つめながら続ける。
「どっかで野垂れ死んでたかも。この小さな町でいい気になってたんだね、あたしってさ。隣国に行ったら、あたしなんかより腕のいい連中がゴロゴロしてて、誰にも相手にされずに終わってた気がする。あの、最初に言われた『庶民の手料理に盛りつけをちょっと頑張った程度じゃなくて』って、あたしのプライドをバッキバキに折ってくれたよ」
ガストンが笑った。
「そんなん、俺の方がもっとだろうが。お前の親父で師匠だぞ俺は。それが、『もっと見た目と味に気を遣った料理を』とか言われたんだぞ? どうだよ?」
デボラも笑った。
「……なんか、いろいろあったけどさ。あたし、今が一番充実してるって気がする。お貴族様の料理を作ってる料理人だって自負があるよ。……親父、あたしをここに入れてくれてありがとう。ホントは親父しか声をかけられてなかったのに、無理やり入れてもらったもんね」
ガストンはデボラはそんなふうに受け取っていたのかと思い、驚いた。
「いやいや、お前が俺に気を遣ったんだろ? お前、ホントは隣国に行きたかったんじゃないのか?」
ガストンの問いにデボラはうなずく。
「行きたかったよ。……っつーか、何もかも投げ出したかった、ってのが正解かな。なげやりになってた。自分のこの性格を呪ったし。どこかで野垂れ死んだら誰か泣いてくれるかな、とかも考えたし、真逆に、隣国で一発当ててとんでもなく金持ちでイケメンの旦那を捕まえて凱旋してやる! とも考えた」
でも、とデボラが最後に小さく付け足す。
「どっちもできずにひっそりと死んでいきそうだなとも考えた。あたしの性格じゃ、隣国でもまた割を食うようなことがあるだろうしね。ただ……それでも一人は寂しいから、親父と一緒にいたかったんだ」
ガストンはデボラの頭をそっと抱えた。
「……口の悪さは俺譲り、お人好しさは女房譲りってか。でも、いつかそんなお前を気に入る奴がきっと現れるさ。大工の息子は見る目がなかったんだよ」
それを聞いたデボラが身体を起こし、真顔でガストンを見た。
「いや、こうなったらもう結婚するつもりないよあたしは。親父だって困るだろ。あたしがもし結婚して妊娠でもしたら、親父一人で作る羽目になるんだよ? あたしも親父に倒れられるとマジで困るし。少なくとも、もう数人入ってくれてどっちか倒れても大丈夫ってならない限りは無理だろ」
ガストンも真顔になった。
「そうだな。悪いデボラ、結婚は諦めろ。職場は最高だ。給料も高いし部屋も提供してくれるしなんなら元いた家よかいいとこだしな。ここで骨を埋めようぜ」
デボラがうなずく。
「最初から雇われ者なら一国一城の主をうらやましく思うのかもしれないけど、一国一城の主から安定した雇われ者に移ったからね。こっちの方がいいって思うね。――ディエゴにゃ悪いけど、あたしも親父ももう戻れないから、万が一戻って助けてくれって縋られても、お前一人で足掻いてどうにかしな、としか言えないね」
「まったくだ」
二人は真顔でしっかりとうなずき合ったのだった。
今年の投稿は本日で終わりたいと思います。
書きためて、2巻の発売前後に投稿が再開できればいいかなーと考えています。
思い起こせば去年の今ごろは、不安で胸が潰れそうでした。
本当に再出発できるのか……一度刊行しているため、リスクを負ってまでこの作品を書籍化してくれるレーベルなんてあるのかと悶々としつつもカクコン10の作品とネクスト作品を連続投稿していましたね……。
年明けて、契約が切れて即GCノベルスさんが声をかけてくださって、それから今日ここまでずっと走り続けてきて先日、無事に1巻が出せました。
年明けには2巻の刊行が待っています。
それもこれも、拙作を読んでくださっている皆様の応援のおかげです。
今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。
それでは、よいお年をお迎えください。




