第100話 料理人の場合 前
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当初は使用人全員が不慣れだったが、半年以上経った今では城塞内の誰もがなじみ、親しくなっていた。
皆が手探りで進めていた部分も家令のカロージェロが音頭を取り、ベッファが細やかにサポートすることによって今ではスムーズに仕事ができていた。
筆頭侍女はジーナ、その下にエンマ、ロミー、ダフネ。
家畜の世話は老夫婦。
私設騎士団としてエドワードが筆頭騎士となり、その下にノマーニを長とするナルチーゾ族。
使用人をまとめるのは家令のカロージェロだが、そのサポートとしてベッファ、城内の掃除や見回り、給仕等の作業を行う上級使用人と、洗い物や荷運び等、人目のつかない場所で作業を行う下級使用人。
その他、畑仕事を任されているのが二人。
そして料理人は二人。
息子に店を譲ったガストンという四十歳ほどの男性と、彼の娘デボラだ。
ガストンの家系は歴代料理店を開いていて、この閉じた島の中で唯一コース料理を出していた店の店主だった。
この町の料理店は一つだけではないが、祝い事で使われるのは代々続くこの料理店だった。そのため、メイヤーが引退した彼を推薦したのだ。
ガストンは体力的に心配だという理由で自分の娘デボラをもう一人の料理人として推薦した。
デボラは長子だったが、弟のディエゴが店を継いだ。
別に長男が継ぐという縛りなどない。この国自体、爵位の継承は男女関係なく優秀な者が継ぐ。
もっというと、スキルや魔術が優れていると親に判断された者が継ぐようなしくみだ。
それだけ、スキルと魔術は重要視されている。
ならばディエゴがデボラより優れているので店を継いだのかといえばそうではなく、デボラのほうが腕前は上だった。
ガストンも、デボラに店を継がせようと考えていた。
だが、デボラがディエゴに譲ったのだ。
デボラは、大工の息子とパン屋の次女が幼なじみで、小さい頃から三人仲良く遊んでいた。
男一人に女二人――よくある話で、デボラは大工の息子であるナポリがずっと好きだった。だが、パン屋の次女であるラーナも、ナポリが好きだったのだ。
ラーナが自分の想い人を好きだとわかったとき……デボラは自分も好きだと言い出せず、むしろ二人を取り持つような言動をした。
そうして、ナポリはデボラの想いに気づかないままラーナを選んだ。
「俺、ホントはデボラが好きだったんだけどね。でも、デボラは俺に見向きもしなかったし、それに俺は大工を継ぐから料理店を継ぐデボラの婿にはなれないもんな」
最後、ラーナと結婚することを報告したナポリは、冗談のようにそんなことをデボラに言った。
「アハハ! あたしほどの女に釣り合いがとれる男はそうはいないしね! それにあたしは料理店を継ぐから、無理な相談だもんね!」
デボラはそういって笑い飛ばすしかなかった。
ガストンは、デボラとナポリが結婚するものだと思っていたので仰天し、慌ててデボラの相手を探す。
だが、ただでさえ人口の少ないこの都市にはデボラと年近い男性がほとんどいない。また、いたとしても既婚者か恋人がいる者ばかりだった。デボラ自身、まだナポリが忘れられずにいる。
デボラの婿捜しが暗礁に乗り上げる中、ディエゴの恋人が妊娠してしまった。
ディエゴの恋人は幼なじみのパン屋の娘で三女。パン屋はすでに結婚した長女が継いでいる。
二人は互いに実家で手伝いをしてお金を貯め、貯まったら結婚して小さな仕出屋を始めようと話し合っていたのだが、妊娠したことで計画が崩れた。
ガストンは「順序を考えろ!」と息子を張り飛ばし、パン屋の方は「しかたないわね~」と苦笑して実家で育てることに決めたのだが、デボラが急に言い出した。
「なら、ディエゴに継がせればいいよ。あたしはもう結婚できないだろうし、そうなるとこの代々続いた料理店が潰れちまう。すでに次の代までいるディエゴが継ぐのが一番だろ」
ガストンとディエゴは絶句した。
デボラがナポリを好きだったことは家族だから知っている。
店を継ぐから彼と結ばれるのを諦めた、と二人は思っていた。
なのに相手がいないから店を継がないってなるんじゃ、だったらナポリと結ばれて良かったんじゃないか、と考えたのだ。
とはいえ、ナポリはすでにラーナと結婚している。
ディエゴはそんなつもりじゃないし自分には荷が重すぎると断ったが、デボラは聞かない。
ガストンも、バカ息子に責任をとらせさっさと結婚させるにはそれしかないのがわかり、息子に譲ることに決めた。
そうしてディエゴは二人からビシバシしごかれ怒鳴られまくり時にはどつかれ、泣きながら修業することになったのだが……これが波紋を呼び、現在につながっていく。




