斯々然々
そう。一瞬間においてそうなった。もう既に歩き終えたこの今、閉じているところのものは皆閉じている。それで以てこの屋内が何らかのそうした屋内であるために、私は彼と二人きりである。これはどんな場合でも正しくなければならなかった。
彼は何者であるか、彼は斯々然々である。
だからこれ以上は会話に困らないが、困らないだけである。そしてまたそれの弊害か。彼の姿は全く見えない。既に見たはずなのに。それだから彼が見えない。もうこれ以上見ることの無い彼である。
お分かり頂けただろうか。生まれて初めて、時間停止に成功した。もう何回目のことだろうか。けれども順番は本当に回ってきたのである。ああ、生きていて良かった。もう私は一生このままなのだろう。
私も動かなければ、彼の姿を今も見続けていただろうが、それは辛抱ならなかった。そういうところの彼であったから。
私は既に動いてしまっているから、だから彼はブレてしまった。それすら空想であるところの今である。今ではない。どこにも無いはずの今だから。
だから、私の目は何も見ていない。既に真っ暗闇か、それに準ずる何かでしか無い。しかしそれではきりが無い。きりが無いとはおかしい。何故ならばそれにはきりが有ったから。
つまり、彼が口を開いた。