表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/51

虚無の空間


 「...ここは」


 リーゼに崖から突き落とされて失った意識を取り戻した僕は身体を起こして辺りを見回すが━━━


「真っ暗だ...何も見えない」


 目の前どころか自分の手のひらや足元も何も見えない暗闇だった


「死んだら地獄も天国もない"無"だって聞いたことあるけど...僕は死んだのか?」


 死という現実を受け止められず乾いた笑いが込み上げる


「はははっ...それもそうだよな。リーゼにあんな場所から突き落とされて生きている訳がない......でも━━━」


 死んだことを受け入れようとするがそれとは別の黒い感情が心の底から込み上げてくる


「僕は結局勇者に何もできずに死んだのか......僕をゴミのように捨てたあの2人にも何もできずに━━━」


 幼い頃見た母と勇者の情事やリーゼに殺された瞬間が2人から浴びせられたナイフのような罵声と共に頭の中で繰り返し再生される



『━━━あの子より勇者様の方が大切です』


『私は勇者様のモノなの! アンタみたいな小汚い子供の面倒なんてもう懲り懲りよ!』


『アンタみたいにいつもウジウジして親もいない人間に私が嫁ぐとでも? 私の旦那様は最初から...勇者様に決まってるんだから』


『アンタとは結婚なんてできない。私の身体も心も全て勇者様のためのもの......』


 そして最後2人に言われた同じセリフが最後の良心を抉り取るように蘇る


『『さようなら......無意味で無価値なフェル』』





 僕の中の全てが壊れた





*      *      *





「くそっ! くそっ! くそぉぉぉっ! 結局何も出来なかった! 再び母さんと会うこともリーゼと幸せに生きることも勇者に復讐することも! ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」


 僕の中でグルグルと繰り返される感情


 怒り

 悲しみ

 憎しみ

 復讐心


 そして死んだ事によりそれら全て何も出来ない絶望感が襲う度に全身を爪で掻き毟る。

 皮が捲れ皮膚の内側が剥き出しになり燃えるような痛みが僕を襲う。

 捲れた皮膚から溢れ出る血が手のひらに滴る時、あの日の出来事が蘇る。

 勇者に斬られて溢れ出たブレナンおじさんの血とおじさんが言った最後のセリフ━━━



『お前は幸せになれ...お前はいい男だ...』



「おじさん...僕は幸せにもいい男にもなれなかったよ...」



 支柱を失った建物のように僕は倒れ込み━━━


 『もし願いが叶うならせめて死ぬ前にあの2人とクズ勇者に味わされた絶望の報復をしてやりかった...』


 再び目を閉じた━━━












「お前はまだ死んでない━━━」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ