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愛する人のため

 

 大男がこっちに向かって何やらボソボソ言っているので俺は隣にいた男性に声をかける


「お兄さんお兄さん、そこのオークが金置いてママの所へ帰れってさ」


「それ言われてんの俺じゃなくてお前! それよりオークって...ガイルに殺されるぞ...」


 お兄さんは青ざめた顔で早足にその場を去ってしまった。

 金が欲しいオークの名前はガイルというらしい。

 一年前にこんな悪そうな奴居たっけ━━━?


「クソガキ......。この街で俺に舐めた態度取ってきた奴は全員犯すか血祭りにあげてきた。テメェもその1人になりてぇようだなぁ?」





「ガイル!」


 怒声と共に若い青年が俺の間に割って入る


「俺の愛する妻を何処へやった! お前だけは...お前だけは絶対に許さない! アンナを返せぇぇぇ!」


 青年は叫び声をあげながら手に持ったナイフでガイルに襲いかかる


「ゴミが...」


 肩に抱いた女を突き飛ばし大柄な体をフワリと宙に浮かせてナイフによる攻撃を軽々と避ける。

 そして避けた勢いで青年の頭を思いっきり踏みつける


「ぐっ....クソ...!」


「誰が何を許さないって?」


 ベキッ...


「なぁ!」


 グシャッ...


「なぁ!!」


 グチャッ...


 鈍い音を立てた後床には血溜まりが出来ていた


「...ア...ン....ナ...」


「死ぬ前に教えてやるよ。お前のだーい好きなアンナは俺の上で一心不乱に腰振ってたよ、薬漬けにしてな。ぐしょぐしょの顔になりながら『アナタゴメンナサイ...!』って何度も叫んでたぜ? まぁ薬が強すぎたせいでその後死んじまったけどな」


「な...ん...だと...」


「お前もすぐあのバカな女房の元に送ってやるよ...」


「ク゛ソ゛ォ゛! コ゛ロ゛シ゛テ゛ヤ゛ル゛!」


 ガイルの足が再び持ち上がり青年の頭目掛けて踏み下ろされる━━━



*      *      *




『━━━君の母は僕が貰っていくよ』


『お前みたいなクズはお荷物って散々昨日ベッドで喘いでたぜぇ?』


『そうだエレナ、決別にコイツを殺せ━━━』




*      *      *




「コイツもあのクズたちと同じか...」




 ドンッ━━━!




「...! 消えた...?」


 さっきまで骨肉を踏みつけていた鈍い音から床を踏みつける硬い音に変わり、驚いた顔でガイルが床を凝視する


「ア...レ? 俺...は...」


「遅くなってごめん。あなたがココで死んだら殺された奥さんが浮かばれないよ」


「うぅ...アンナ...」


「後は俺に任せて。お兄さんの代わりにアイツを文字通り2度と喋れない体にするから」

 

 俺は血だらけの青年を抱えてガイルの前に立った━━━

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