使用人をひとり
姿がみえないまま、低い声がわらう。
『はっ、なんだ?クアット種族じゃねえか。そっちは?てめえのガキか?間違って入り込んだんなら、今すぐ出ろ。――― わざと入ったっていうなら、おれと遊ぶか?』
「ちょ、っちょっと待ってくれ!おれはキラ種族のホーリーに、大事な用があってきたんだ!あんた、ホーリーか?」
『・・・だとしたら、なんだ?クアット種族と親交を温めるつもりなんざねえぞ。てめえら、ノーム種族と仲がいいんだろ?それならおれが、ノームのジャックに《何をしたか》知ってるだろ?ああ、それとも、―― 同じようになりに来たのか?』
ぎゃははは、と笑う声に合わせ、ロウソクの炎がぐるぐると踊った。
コートの男が上をみあげ、さけぶ。
「ちがう、ちがう!おれはその、あんたの『誤解』を解きにつかわされたんだ!おれたちクアット種族は、別にノーム種族となんか仲良くないし、そのせいであんたに狙われるのはもうごめんだ!だ、だから、みんなで話しあったのさ!どうしたらあんたのその『誤解』を解けるかって。 で、思いついたんだ。あんたキラ種族だから、魔力も偏ってるだろ?暴力的だったり破壊的なことには魔力は使えるのに、《魔法使い》みたいに、食事を出したりとか、物を片付けたりできない。 この通り、城の中もごちゃごちゃできたねえままだ」
示した壁際で、子鬼たちがキヒヒと笑う。
「だから、みんなで話し合ったすえに、あんたに、使用人を一人、差し出すことにした。 こいつは、おれたちクアット種族の中で、一番の働き者で、おとなしい雄だ。体は小さいが、―― なによりすごく丈夫だ。好きなようにつかってくれ」
間髪入れず、『いらねえ』、とホーリーが答えた。
『―― てめえらクアット種族は弱いくせに興奮すんと食いつくだろ。うぜえ』
昔、クアット種族をからかって、かみつかれた馬鹿がいるという。
食いついて血を吸うでも精気を吸うでもないらしいが、その細くとがった犬歯は、かなり深く刺さる。