できるもんなら
取っ組み合い床に転がっているのも、瓶を振り上げ合う者も、胸ぐらをつかんだ者同士も、皆が、入ってきた男をみていた。
静寂と停止の時は一瞬で、恐怖と混乱がその場を襲う。
「っぎゃあああああ!!」
誰かの汚い悲鳴で、動きを取り戻したそこは、ひどい騒ぎとなった。
図体の大きなヘルサ種族の男たちが、次々とホーリーの横を悲鳴とともに走り去る。
残ったキラ種族の男や女は、ひどくつまらない顔でホーリーを見ていた。
「 ―― 思うに、」
と、その中の一人の男が、前に出た。
「―― おれたちキラ種族は確かに《呪い》が使えて、自分勝手で物を壊すのも好きだし、暴れるのも好きだ。 寿命も長いし、世の中に『こわいもん』なんてない。だけど、―― みんな知っての通り、おれたちの種族は、ひどい勢いで減ってきてる。おれたちは繁殖が得意じゃないし、ヘンな病気もある。・・・噂だと、『空の目』が、この世界の種族の数を決めてるっていう。おれたちは、『空の目』を怒らすべきじゃない。・・・なのに、おまえは、ノーム種族の王だったジャックに、最大級の呪いをかけて、消してしまった」
「―― だからなんだ?気に入らねえことしてるから、消しただけだ」
「だから、それでおれたちも迷惑こうむってるってことだ。 おれたちはおまえみたいに、他の種族を死なせるほどの呪いは持ってない。 ―― なのに、他の種族たちが、おれたちキラ種族は『危険種族』だと言い始めてる。『危険種族』はこの世界から追放だって知ってるだろう?」
「大昔の話だろ?この世界がまだ泥だったころのホラ話だ。戦闘狂いのディーク種族だってここにいるじゃねえか」
「ディークのほうがよほどおとなしいって最近の評判だよ。おまえのおかげでな」
踵を返した男のあとに、他のやつらも従い、蝙蝠になり飛び去った。
どうやら、同じキラ種族にさえも、敬遠されていることを知ったが、それでホーリーの何かが変わるものでもない。
「 ――― 追放だあ?おもしれえじゃねえか」
この世界にホーリーが知らない存在があって、そいつが勝手にキラ種族を追放できるなんて信じることはできなかった。
「―― やってもらおうじゃねえか。できるもんなら」
にやり、と口角をあげた男は、挑むように空をみあげた。