待たせたな!
残虐描写あり。ご注意を
――― この世界に、おれの知らない《ほか》がある?
びしゃり
顔にかかったあたたかい飛沫に顔をしかめると、さらにつぶやき続けた。
「 左手 小指に災い 中指に災い 親指にもついでに災い 今度は、右の手に災いだ ―― 」
ここ最近のホーリーは、前にもまして残虐で横暴だった。
ノーム種族のジャックを始末したはなしは、種族から種族を伝い、この世界で知らないものはいないところまで広まっていた。
乗っ取った城でスネイキーからつまらない話をきかされたホーリーは、どうにも暴れたくなり、すぐに外へ出た。
いくつかの酒場をまわり、目があった相手に片っ端から因縁をつけて呪ってやろうと思ったのだ。
ところが、どこの酒場も固く鍵を閉ざし、ホーリーを入れようとしない。
しかたがないので、そのまま麦畑をめざし、実をつけて揺れるそれに、呪いをかけた。
呪った相手の恐怖におびえる声が聞けなかったのは物足りなかったが、むこうまで広がるその緑が、一斉に蝕まれ、黒く朽ちてゆくのは、なかなか楽しい景色だった。
次の日、城の見晴台に腰かけていると、同じキラ種族が楽しんでいる空気が伝わり、ホーリーは蝙蝠に姿を変え、まっすぐにそれを目指した。
たどり着いた先は体の大きなヘルサ種族が集まった酒場で、中は、グラスや瓶が割れ椅子が投げ壊される音と、怒声とヤジやわらい声でごった返していた。
「待たせたなっ!ホーリー様の到着だあ!!」
壊れたドアを蹴飛ばしての登場。
いつもならば、暴れるキラ種族の誰かの『おそかったな』、の声ぐらいかかるのに、その日にホーリーを迎えたのは、信じられないほどの、静寂だった。