空の目
「―― おれの精がほしかったら、せいぜい楽しませろ。そのかわり、おれの気がむいたときしか、おれに触るな」
「わかったわ。餌はじぶんでさがすわよ」
いつのまにか膝にのった女が目を光らせるようにホーリーをみつめながら顔を寄せた。
とたんに、ぎゃっ、と小さくさけび、床に転げる。
「―― 触る許可してねえだろ。最小の呪いでもこれぐらいだ。おまえも魔族の一種ならそれぐらいすぐ治るだろうが、しばらくは痛むだろうなあ」
うめく女を楽しそうに見下ろすと、テーブルに残ったままのワインの瓶をそのまま飲む。
「くそったれキラ種族!あんたらなんか、『空の目』に早く消されちまえ!!」
「バカが。『空の目』は見てるだけで、おれたちに何もできねえ」
冷たく見下ろす男に、腹をおさえてにらみあげる女の口元がふいに微笑む。
「バカはどっちよ?『空の目』には『力』があるわ。そりゃもう、あんたらキラなんて足元にも及ばないほどのね」
「・・・ぶっ、ぶぶっ、ぶっはっはっは!おい、そりゃいったいどこのホラ話だ?」
「ノーム種族のジャックは、『空の目』と話してた」
「はああ??『話す』?あの、灰色の空に出るでっかい目玉と?どうやってだ?目玉以外は何もないんだぜ?あんなもん、夜にでる『月』といっしょだろ!」
ぎゃははは、とあおむいて笑うのにこたえる女の声はさめていた。
「ジャックはほかの種族のはなしもよく聞いてくれた。だから、いろんな種族がここに集まってたのよ。それを見てた『目』が、『おまえは話ができそうだ』って、ジャックを《上》に呼んだ」
「『うえ』だあ?」
「ああら?キラ族のホーリー様でも知らないのね。-― この世界には、《厚み》があるのよ。いまここは一つだけれど、『空の目』がいうには、そろそろ世界は縦に分かれるのよ」
「――― くだらねえ、ホラばなしだ」
この世界を我が物のように思っていたホーリーには、信じられない話だ。
「なら、そう思っていればいいじゃない。『空の目』は、どうやらキラ種族が好きじゃないみたいよ。・・・・・それなのに、あなたはノーム種族のジャックを破裂させちゃった」
「だからどうしたっていうんだ?」
「――― べつに。ただあたしは、ジャックから知りえたことを、次の主であるあなたに伝えてるだけ」
感情もなくじっと見据えてくるブルーの目に耐えられなくなったように、スネイキーは床をあとずさりテーブルクロスをまくりあげると、中へと消えた。