思うまま
残虐描写あり。ご注意を
「―― どうした?かかってこねえのか?」
細く長い指をまげ、挑発するように軽く動かす。
相手はウルヴ種族の群れで、その長い爪をかまえながらも、じりじりと後退していた。
はん、と曲げた指を伸ばしたそいつが呆れてわらう。
「頭が悪い種族のわりには、のみこみが早かったな。―― そうだ。おまえらは、おれに触れることさえできない」
「お、おまえ、ジニー種族だと言うとったが、嘘だろう?ジニーの魔法がおれたちの頭をふっとばすなんてありえねえぇ」
「あたりまえだ。そもそも、ジニー種族がこんなイイ男のわけねえだろう?あいつらはもっと顔のでかい岩山みたいな姿だ」
「だ、だましたのか?」
「だますもなにも、人の馬車を寝ている隙に奪おうとするヤツらになんざ、本当のこと教えるわけねえだろが。いきなりとびかかってきて『何種族だ』なんて聞きやがるから、思いついた種族を口にしたまでだ」
にやり、と。それはそれは、楽しそうな、嫌なわらい。
後方にいたウルヴがひとり、背中をみせ走り出す。他が続こうとするのを、楽しそうに見送る男が、とがりぎみの鼻をうわむけ、ささやいた。
「このバカなウルヴ種族たちに、―― 《小さな呪い》を」
最初に逃げ出した背中を見つめ、上品な口がさらに続ける。
「 右足に、災い 」
走っていた背中がガクンと下がり、すべりこむように転び、続いていた者たちがおびえたようにたちすくむ。
転んだ男が右足を抱えながら、ものずごい声をあげてころげまわる。
抱え込んだ足のズボンのすそが見る間にふくれあがり、破裂とともに聞くに堪えない悲鳴がその場を凍らせ、そのあとの静寂の中に笑い声が響く。
「ぶっはっはっは お、おまえら、ひひっはっはっは は は ――― あ~おかしい。最初の勢いはどうした?逃げるなんてつまらねえことするんじゃねえ。いいか?おれはつまらねえ魔法を使うジニー種族じゃねえぞ。おまえらが、馬車を奪ってボコろうとしたこのおれ様は、おそれおおくもかのキラ種族。 その中でもひときわ美しく強いと評判の、ホーリー様だ」
ホーリー!?あの、《最大級の呪い》をいともたやすくかけるという、あの!?
毛深いウルヴの男たちが身を寄せ合い、恐怖におののく。
口元を楽しげに曲げたままの男が、顔にかかる髪を軽く払ってそれらを見つめた。
「 こいつらが、二度とおれに手をだすことがないような、《大きめな呪い》を。 ―― さあ、どんな災いを受ければ、この先何百年、忘れずにいられそうだ? 」
ホーリーはこの世界の暮らしが好きだ。
自分の思い通りになんでもできるし、思うままに変えられる。