最強で横暴
ホーリー・グローリー・ジャッカネイプスの話をしよう。
――― とは言っても、これはホーリーがホーリー・グローリー・ジャッカネイプスになる前の話だけれど。
――― ※※※ ―――
ホーリー・グロッスリーは、キラ種族の男。
190センチ近くの長身。すらりと伸びた手足と小さなつくりの顔。その、優雅な身のこなしを、みなが目で追う。
まっすぐにのびた背には、光を放つ金色の髪が流れるように揺れ、ふりむいた顔にかかる髪からは、深く鮮やかなブルーの瞳がのぞく。
少しとがった鼻をあげるように、ばかにした笑いを浮かべる口はきれいな形で、その笑顔は、異種族の不運な男たちを震え上がらせ、女を虜にした。
世界がまだ三つに分かれる前の話。
一つの世界に、ありとあらゆる種族が、縄張りももたず、秩序も持たずに好き勝手に暮らしていたころ。まだそれなりの数存在していたキラ種族の横暴さは、群をぬいたものだった。
自分の気分しだいで暴れ、欲しいものを奪いとり、壊したいものを焼き尽くす。
その中でもさらにひどかった男がひとり。
それが、ホーリー・グロッスリーだ。
《キラ種族が最強》と、いまだに伝わっているのは、ほとんどこの男のせいだろう。
キラ種族は肉親の情が薄いため、ある程度育てば自然と独りで暮らし始める。
群れないが、どこかで仲間が騒ぎ出せば、すぐさま駆けつけ、それに加わる。
仲間が心配なのではなく、騒いで暴れるのが好きなだけだ。
おまけに、ひどく長命で、ほかの種族は耐えてゆくしかなかった。
だから、キラ種族に生まれた者は、うまれてこのかた、『こわい』なんてことを感じたこともないし、
―――― この先も、感じないだろう。