教会へ
儂は6歳になった
前世の日本では、小学校1年生か幼稚園・保育園年長くらいの年齢じゃ
ここまで、短かったようにも感じるし、長かったようにも感じる
前世の高齢期に比べたら、確実に長く感じたのぉ
年を取ると時の流れが速くなるとよく言われる
これは年を取るにつれて、毎日同じようなことばかりになっていく
ことが原因とされる
年を取ると、毎日、起床、通勤、仕事、退勤、就寝のリズムができてしまう
これにより、毎日の新鮮さは薄れ、過去を振り返った時
思っていた以上に時間が経っていることに気付くのじゃ
一方、幼いころは、目に見えるもの、あらゆる体験が新鮮で
毎日が思い出深くなる
すると、ふと過去を振り返ったとき、思い出が多いので、
重厚で長い時を過ごしたように思う
つまり、年を取ったとしても、毎日新鮮で刺激的な毎日を歩めば、
若者のように時間の流れがゆっくりに感じるのじゃ
この世界で魔法という新しい概念に出会った
このおかげで、儂はこの年じゃが、毎日が新鮮ということなんじゃろう
儂は今、歩いて30分程のところにある教会へと向かっている
先週、両親とした会話を思い出す
~先週のある日 夕食~
「ノアももう6歳ね
そろそろ学校に行ってみたらどうかしら?」
オリビアが夕食のシチューを掬いながら、口を開く
「学校?
こんな田舎に学校なんてあるんですか?」
儂が疑問を呈すると、今度はオリバーが口を開く
「そりゃあ、あるさ!
まあ、でも学校といっても国が作った正式な学校ではないぞ
教会でシスターが面倒を見てくれているんだ!
すごいだろ!」
なぜ、オリバーが自慢げなのかはわからないが、
よくわかった
「ノアは読み書きも計算も大体できるし、魔法も勉強してるから
必要ないと思うかもしれないけど、学校は同世代の子供と仲良くできる
いい場所よ~
これを機に友達を作るといいわ」
確かに儂と同世代ぐらいの子供とあったことはほとんどない
これはいい機会かもしれない
「学校があるなら、ぜひ行ってみたいですね」
オリビアは明るい顔で、手をたたいた
「ノアならそういうと思ったわ~
じゃあ、シスターに連絡しておくわね」
~~~~~~
まさか、この歳になって学校に通うことになるとはのぉ
じゃが、2回目の学生というのも悪くはない
学生の頃は、「勉強したくない」「お金が足りない」
「早く大人になりたい」と思ったものじゃ
じゃが、大人になると学生に戻りたいと思うものじゃ
時が経ってから、学生という身分のありがたみに気付ける
しばらく歩くと、こぢんまりとした教会が見えた
ここで、子供たちが勉強を教わっているという
扉の前に立ち、ドアをノックしようと腕をあげ…
「おい餓鬼ども!静かにしな!」
扉の向こうから、高齢の女性の怒号が聞こえる
儂は恐る恐るドアを開いた
その女性はすぐ、儂に気付いた
「ん? あんたは今日からくるっていう…
ああ、ベルナール家のところの坊ちゃんか
さっさと中に入りな!」
「…はい わかりました…」
シスター服を着たその女性に気おされながらも、
教会の中に入っていく
儂は子供たちの前まで足を運んだ
教会内には、10人くらいの子供たちが座っていた
先ほどのシスターの怒号に対して委縮している様子はなく、
こちらを見ながら、こそこそと話している
横にいるシスターが口を開いた
「じゃあ、自己紹介やりな!」
「…はい、では…
私はノア・ベルナールです
今年で6歳です
これからよろしくお願いします」
「「「よろしくお願いしま~す」」」
子供たちの元気な声
みんな結構明るく活発な子のようじゃ
「はい、じゃあ、アタシも一応自己紹介しとくよ
アタシはここで餓鬼どもの面倒を見てるシスター・ドクハだ
年齢は教えてやらん
じゃあ、今日からよろしく」
どうやらシスターはドクハという名で、ここを一人でやりくりしている
先生のようじゃ
容姿は高齢の女性のそれであるが、
年のわりに足腰がしっかりしており、若々しさを感じる
それにしても、シスターらしからぬ言葉遣いじゃのぉ
子供に怖がられそうじゃが、子供たちにそんな様子はない
「はい、じゃあ、今日は自分の好きなことを机に出して各々やりな~
わからなかったら、声かけろよー」
「「「はーい」」」
ドクハの声で子供たちは一斉に勉強を始める
…いや何人かは言うことを聞いていないようじゃが
おとなしくしているようじゃ
「ノア あんたは何勉強するんだい?
オリビアいわく、かなりの天才らしいじゃないか」
「いえいえ、そんなことはないですよ
…では、何か本はありますか?
しばらくはそれを読みたいと思います」
「本か… トスリキ教に関する文献なら大量にある
それでも読むといい
それにしてもあんた、本当に6歳かい?
口調が丁寧すぎて、むしろ気味が悪いよ」
儂はギクリ、とたじろいだ
確かに、6歳でここまで丁寧な子は珍しいじゃろう
でも、子供口調もきついしのぉ
「口調は、両親の教育の賜物です
トスリキ教の本ですか
それは家になかったので、うれしいですね」
「じゃあ、とりあえずこれから読みな
トスリキ教の聖書の写しだよ」
「ありがとうございます!」
空いている机の前に座り、ドクハから受け取った本を開く
現代語になっているとはいえ、昔の文章の訳文なので、
かなり読みにくい
これはいい勉強になるかもしれんのぉ