赤子
おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ
子供の産声が聞こえる。
ふふっ、赤ん坊は泣き声もかわいいのう。
孫が生まれた時を思い出すなあ。
病院で自分の娘が子供を抱えているのを見て、立派に育ったことを実感したものだ。
それに孫はかわいいものだと聞いてはいたが、本当にその通りじゃった。
目に入れてもいたくないとはうまく言ったもんじゃ。
本当にそう思えるほどに孫はかわいかった。
その孫も今や大学生。
年寄りになると、時間の流れが早く感じる。
見るたびに、孫は成長していてうれしかった。
それにしても、この産声、すごく近くから聞こえるのぉ
おぎゃあ、おぎゃあ!
って!儂が言っとんのかこれ!
なんということじゃ、70歳超えてこんなに喚き散らすなんて
なんと恥ずかしい
「元気な男の子ですよ!」
「でかしたぞ、オリビア!男の子だ!」
妙齢の女性と若い男の声。
「はぁ、はぁ。…なんてかわいらしい子」
若い女性の声も聞こえる。
「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ!」
そして、どうやら自分の口から発せられているこの産声。
これはいわゆる生まれ変わりというやつなのかもしれん。
…まさか人間は死んだら生まれ変わるのか
バラモン教とかの教えって、あってるんじゃのう…
いやぁ、この年で驚くことなどもうないと思っておったが、
こんなことが起こるとは!
「おぎゃあ! ……」
なんか自分が赤子だと意識するとなんか恥ずかしくなってきたわい。
たぶん見た目は赤子そのものなのだろうが…
「ん? もう泣き止んでしまった!まずいぞ!」
「これはいけません! 体をあたためましょう」
ありゃ、産声が急にやんだから心配しとるのか
仕方がないここは儂が名演技を見せるところか
「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」
「おっ、また元気に泣き出したぞ!」
「これなら心配ありませんね」
「ふふっ、本当によかったわ」
3人の会話が聞こえる。
推測するに、父親、母親、助産師の3人じゃろうか。
それにしてもとんでもないことになったのう
前世の記憶を持ったまま、別の生を受けることになるとは…
これからどうしようかのう
ん?待てよ
これは最大のチャンスではないか!
前世の儂では考えられなかった人生を歩める可能性が十分にあるということじゃ。
これは僥倖!
…でも、生まれたての状態じゃ何もわからんなぁ
視力もまだはっきりしてないのか周りもよく見えん…
とりあえず、幼少期はおとなしく過ごそうか




